第8話 自分の土地、確保!

 ザザーッと風が吹き荒れるように、木々から矢羽が舞い上がる。

 鳥の性質を受け継いでいるのか、特に眠る必要はないはずだが、夜にはこの森に戻ってくる。餌を食べない分、淀みの傍で回復しているのかもしれない。

 淀みもなくなって、これからこの矢羽達はどうなるのだろう。




 さて、早々に杭打ちを済ませておきたいコイルは、泉の周りに八本の杭を打った。

 残りは野営地の近くなので、護衛に見つかるのも面倒だから、朝、野営地の人たちが出発してから作業を続けることにした。


 杭は1本が50センチメルほどの石でできた魔道具で、30センチメルほど地面に埋め込み、側面のスイッチを起動すると、目には見えないが小型の魔物を寄せ付けない簡易結界が張られる。また、地面にも頑丈に固定されるようになっているので、一度起動したら、専門の技師にしか動かせない。杭の上部には魔石を入れる穴があるが、この魔石の交換も同様に、専門技師が行う。課税額自体は微々たるものかもしれないが、この魔道具を使うことで領主がしっかり近隣の土地を管理できる仕組みだ。


 結界の杭自体は地上に20センチメルほど出た、小さく目立たないものなので、境界の目印にはなりにくい。したがって、ここは自分の土地だと分かりやすく主張するために、追々塀や生垣を作る必要がある。

 物語に出てくるような、牧場の白い木の柵なんか、良いなあ。でも、簡単なのは、メルの木の生垣だよな。と、思いを馳せながら、自分の土地になった結界の中で、ポックルとルフと一緒に眠った。

 ちなみに、ルフは中型魔獣なので、結界は効かなかった。




 朝、しっかり日が昇るころにはもう、野営地は空になっていた。

 コイルは昨日の作業の続きを始めた。今度はダンジョンの入り口付近で、14本の杭を打つ。

 今度は明るく、辺りも見渡せるので昨夜より数は多いが、作業時間は少なくて済んだ。

 ここはもし村ができたら、領主が買い取るかもしれないので、境界も簡単にわかればよいかと、結界杭に木の棒を括り付けて、それに昨日ギルドで買った計測用のひもをそのまま結び付けておくことにした。


 結界を張ってから、改めて土地を眺めてみると、ダンジョン入り口付近に16本、泉付近に4本のデルフの木があって、土地自体は森の半分弱もがコイルのものになった。


 これはちょっと欲張りすぎたかな?でももう、結界起動しちゃったしなあと、小さくため息をつく。「お客様、今がお買い得ですよ」に釣られちゃったかもしれないと、少し反省するコイルだった。

 さて、作業も終わってほっと一息ついたころ、ダンジョンに数人の薬草採取の人たちが入っていくのが見えた。

 明日の攻略組が中を確かめるまで待っている人達も多いが、特に薬草採取で生活している冒険者たちは、日々の稼ぎが大切なので、恐る恐るでも中に入るのだ。第1層は難易度も変わっていないので、大丈夫だろう。


「わおん(マスター・コイル、土地のお買い上げ、おめでとうございます)」


「あ、フェイスさん、ありがとうございます」


「わん(マスターに現状報告と提案があります。現在、ダンジョンでは9人の冒険者が活動しています。

 7人は入口付近で薬草を採っています。今まで通り矢羽が対応していますが、フードにあたって無傷な場合でも、羽がきちんと刺さると、笑い袋達が大笑いするので、矢羽達も非常に張り切って、羽が立ちやすい場所をねらって撃つなど、工夫が見られ始めました。好評なのは、頭のてっぺんに刺さったときと尻に刺さったときです。笑い袋の歓声をマスターにも聞かせてあげたいくらいです。

 冒険者は怪我はしていませんが、イラついているように見受けられます。怪我をしていないので、採取を止めて帰るほどではありません。

 残り2名は第2層に向かいました。第1層で昼食を食べてから、第2層に入ると思われます。会話から、明日の抽選に漏れたので、今日入って野営して、明日の遠征に混じるつもりのようです。

 次に提案です。デルフの森に住む矢羽の群れが、森を追われ、ダンジョンに近づいてきました。淀みもこちらに取り込みましたので、矢羽も取り込んでしまおうと思うのですが、構いませんか?)」


「おー、笑い袋は矢羽達に好評なんだ。

 デルフの森の矢羽は……やっぱり追い払われて困っているんだろうね。取り込めるなら、取り込んでください」


「はい、了解しました。現在、ダンジョンにいる矢羽 78羽に加えて、外から681羽の矢羽が入りましたので、矢羽の数が759羽になりました。他に雷羽が5羽います」



 ……数が莫大になったけど第1層大丈夫なんだろうか?


「大丈夫です。今までは朝出る組と少しですが夜に攻撃する組の二交代制でしたが、数が多くなったので6時間働いて次の日は丸々休む、8交代勤務に変更しました。休みの者たちは他の層でのんびり過ごしてもいいのですが、今は冒険者を観察して楽しんでいます。矢羽達から、自分にも笑う機能を付けてほしいと要望が上がっています」


「……後から機能を付けることは可能なんですか?」


「理論的には不可能ではありませんが、一から魔獣を作り変えるのと同じエネルギーコストがかかります。矢羽の数を考えると、不可能です」





 ですよね。

 普通に鳴けばよいと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る