第7話 ユーインさんと密談
静かな店内で、コーヒーを飲みながら、コイルとユーインは地図を見る。
「22本を、こう横長にするとですね、面積があまりとれないじゃないですか。こうすると倍近く取れますよ。もちろん、中央付近は結界が無くなりますので、上空からの攻撃に不安がありますが、面積は少し減りますが杭を二本、中にこう打つと、ほぼ安全になりますよ。でも村になれば壁ができて上空も大型の魔道具でカバーできますので、今だけ我慢するというのもアリです」
「あ、そうですよね。細長い土地ってどうなんだろうって僕も考えたんだけど、ここと、ここを使いたいので、どうしても長くなっちゃいまして」
コイルとしては、ダンジョンの入り口付近と、森の中央の泉付近に家を確保しておきたい。森の中央付近は、泉の周りの景色が気に入っているし、露天風呂計画があるからだ。
ダンジョンの入り口付近は、ダンジョンに入れるようになった時に移動に便利だし、そうでなくても、簡易の宿泊所にして冒険者に開放すれば、薬草取りの人が増えるかもしれない。本格的に奥のほうを攻略しようと思う冒険者たちは野営の準備をしっかりするが、入り口付近で魔アザミを中心に採取する平和的な冒険者たちは殆ど日帰りだ。採取した薬草はその日のうちに岡山村まで持って帰らなければならないが、前日に泊まれる場所があれば、採取時間も増えるだろう。
「だったらこう、ここと、あと、ここに。こんな感じで二か所に分けてみては?」
「あ、それは良いですね。でも、なんかイイトコ取りで、開発に支障が出ませんか?」
「面積的には、こう……取るより、ほら、少なくなっていますし、大丈夫と思います。
村を作る際に道を通すとか、どうしても公共の施設を作るのに必要な場合は、領主から土地の買取案が出るかと思います。開発計画については、各ギルドが領主の元に集められて話し合いを持つことになるはずです。冒険者ギルドからはおそらく私が担当になると思いますので、コイルさんが損にならないよう、頑張って交渉させていただきますね。
土地の利用法については、何か考えが……」
その後、簡単に今後の計画を相談して、いったんギルドを後にした。
「今から、淀みが無くなったことを報告しなければなりません。普通なら領主主導の開拓が決定されるまで、数日はかかると思いますが、この事案については即決の可能性もあります。そうなると、個人の開拓が許可されなくなるので、もし可能なら、コイルさんは今すぐ杭をもって、明日中に自分の土地を確保されることをお勧めします。夜は危険なので、朝出発するか、野営地をご利用くださいね」
ユーインの助言もあって、チェックインしたばかりのオートキャンプからポックルを連れ出して、「今日は外泊しますが、明日には戻ってくると思います」と受付に伝え、冒険者ギルドで開拓用の結界杭を予定通り22本買って、とんぼ返りで森に戻ることになった。
森に着いたのは、もうあたりが暗くなるころだった。街道沿いの野営地には、もう野営している一団があった。
「おーい、ここで休まないのか?」
野営地から声がかかる。どこにも親切な人はいるもので、1人で進むコイルに、野営を勧めたいようだ。
「ありがとうございます。でも、ちょっと急ぐんですよ。皆さんもお気をつけて」
「そうか。明かりを灯してると野獣が襲ってきやすいから、消すわけにもいかんだろうが気を付けるんだぞ」
ぼんやりと光るライトの魔法は、道から外れないように足元を照らしているが、魔物の目標になるらしい。知識として知ってはいるが、基本、魔獣に襲われたことがないので、あいまいにうなずきながら手を振って別れた。
野営地から充分に離れてから、コイルは森の中に入った。
夜なので見えないが、嵐のようにザザッーと木々が葉を揺らした。
矢羽が一斉に逃げ出したようだ。
ダンジョンマスターになって、多少魔物に親しみがわいたコイルは、寝ているところを起こして少し申し訳ないなあなどと思っている。
もちろん外の魔物はコイルのことなど普通の人間としか思っていないが。
少し進むと、奥からルフが駆け寄ってきた。
「わふん」
どう見ても真っ白なワンコで、かわいい。
「ルフ、お待たせ。ポックルもご苦労様でした。泉に着いたら、荷馬車を外してあげるからね」
「わん」
「ひひん」
言いながら歩いているとちょうど、泉のある辺りに出た。ここに杭を8本使う予定だ。
泉と、昨日作った風呂とその横のデルフの木が含まれるよう、その辺りに生えた低木に、杭とセットでギルドで買った紐を括り付けて、杭を打つ場所の見当を付けた。その紐には60メルごとに印がつけてある。
杭と杭の間隔を60メルにさえしておけば、四角形になっていなくても大丈夫なのだが、後に村になったときには、区画整理で少し土地が削られることもあるので、なるべく四角いほうが良いらしい。
短辺を120メルにしたが、これがほぼ森の幅に等しいので、街道のすぐ脇から海岸近くまでの土地を確保したことになる。
思ったより広くて、杭22本もいらなかったんじゃないかと思い始めたコイル。
作業も大変だ。歩きにくい森の中を、紐をもって印をつけて歩き、そこにまた杭を打ちに歩く。
コイルの長い夜はまだまだ続く。(二度目)
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