第6話 村になると地価が上がります
「さて、まずは地図を見てください」
その地図は、岡山村からロゼまでの街道沿いの地図だった。
下には海が描かれ、海岸、デルフの森、街道、薬草の森ダンジョン、霧衣山と、大雑把に境界が書き込まれている。
この地図では、岡山、ロゼ間には村はなく、デルフの森の東端、ダンジョンの入り口付近と、ロゼとデルフの森の中間くらいのところに、野営地用の結界杭の記載があった
地図自体は大雑把だが、魔獣、魔物の主な出現情報などが細かく書かれている。
「コイルさんが開拓しようと思っているのは、どのあたりですか?杭は何本くらい使う予定でしょうか」
「あ、はい。このあたりです」
地図の、ダンジョン入り口野営地のすぐ左からから、森の中央を少し過ぎたあたりまでを囲む。
「杭は22本買って、横に11本並べる、こう、細長い感じにしようと思います」
「森の中の淀みが無くなったというのは、本当でしょうか?」
「はい、それは間違いないです」
「ここ、デルフの森は、岡山ロゼ間で一番、村を作るのに適した場所だと言われています。そこがなぜ、放っておかれたかというと、この淀みのせいなのです」
ユーインは、年下の若造相手とは思えないほど丁寧に真摯に説明してくれた。
それによると、今までに何度か、村を作る計画はあったようだ。
ただ、森の中央にある淀みが問題だった。
淀みは枯れることもあれば成長することもある。成長すると、だんだん強い大きな魔物を生み出すようになり、条件がそろえば、ある日急に周りを巻き込みダンジョンを形成する。ダンジョンの規模は様々だが、少なくとも森全体を覆うくらいにはなるはずだ。デルフの森自体は、横に1キロメル、縦に100メル程度の小さな森だからだ。
淀みの魔獣が矢羽というのも問題だった。矢羽は狩りにくく、増える一方で、年に一度、大規模な討伐隊が数を減らしに行くのだが、得られる魔石も小さく、手間ばかりかかる困った魔物だった。辺りが飽和状態になったからか、最近は上位魔獣の雷羽もよく見られるようになった。
数年後か、数十年後かは分からないが、このままでいけば新しいダンジョンになる可能性も高いと思われている淀みだった。
いざ村を作って、村ごとダンジョンに取り込まれたら、被害が計り知れない。森の外の草原は村を作るほどの広さもなく、せいぜい野営地を作るくらいだ。
「コイルさんが見に行っても、矢羽の多さに辟易して、諦めるだろうと思っていたのです。諦めなければ、淀みの危険性をお話しするつもりでした。
もし淀みが無くなったのなら、今度はここを村にするため、領主様によって本格的に開拓がはじまる可能性があります。なので、コイルさんには、先にここを開拓した場合、その後どのようになるかをお話しておかなくてはなりません。
もちろん村になるかどうかは、その後の調査と会議の結果なので、確実とは言えませんが、可能性は高いでしょう。
コイルさんが明日、杭を打ち、自分の土地を確保するとします。もし村ができなければ、杭の内側の土地はコイルさんのもので、税金は5年に一度、22本でしたら220万円をお支払いいただきます。
村ができる場合、コイルさんの持つ土地も含めて、この森と野営地の草原全体を含む一帯を城壁で囲むことになります。村の中は、大型魔物の侵入も防ぐよう、城壁と結界魔道具で守られ、より安全に過ごすことができます。
コイルさんがあらかじめ確保しておいた土地は、コイルさん自身のものとなります。
ただし数日以内に会議で村の建設が決定されれば、それ以降開拓用の杭での土地確保は出来なくなりますので、お急ぎください。
村になりますと、安全性も増しますが、土地の値段も上がりますので、税金がそれに伴って上がります。完全に村としてスタートするのは防御態勢が出来てからなので2年後くらいになるのではないかと思いますが、それ以降は開拓杭による納税ではなく新しく村で決められた額を納める必要があります。
面積が広いので、相当な額の税金になると思います。
支払えない場合、土地を領主様に返納することも出来ます。もちろん買い手がつけば普通に売ることも出来ます。
それと、今ならまだ、杭を多めに買って、土地を押さえておくことも出来ますが、あまり多くの土地を抑えられると領主も利益が減りますので、開拓の計画が進まない可能性もあります。今おっしゃった通り、22本くらいにしていただけると、こちらも助かります」
本当は私も一区画分、開拓杭を買いたいくらいなんですが、違法な取引になってしまいますので、残念です。と、笑いながら、コーヒーを飲むユーイン。
コイルは思いがけず大きな話になりそうで、少しドキドキしながらデザートに手を伸ばした。
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