第3話 デルフの森二日目
デルフの木の大きさは、隣の木との間隔で決まると言われている。
一説によると、根を伸ばす時に魔力を地面に流して隣の木との距離を測り、自分が枝を広げるに充分な広さを確保するため、近くの木々の芽を排除するらしい。
そんな訳で、森とは言うものの木々はぽつん、ぽつんと離れて生えていて、他の種類の大きな木もあまり見られない。その反面、高さが2メル以下の低木や草は隙間ないほどに生い茂っている。
木登りで遊んでいたら夕方になったので、昼間に作った風呂の傍に、野営の準備をした。クーラーボックスの中にはもう新鮮なものはなく、乾パンと干し肉と乾燥スープの寂しい夕食だったけれど、側にいるポックルとルフの温かみが紛らわせてくれる。
「風呂にも泉にも近いし、青い街道からは見えにくい位置だし、この木を僕の家にしようかな。ポックルとルフは、ここで大丈夫?」
「ぶるるっ」
「わおん」
喋りかけると返事をしてくれるのが、この二頭の良いところだ。
「明日は町に帰って、食料と杭と……あと、何が要るかなあ」
「わおん(マスター・コイルに質問します)」
「お?ああ、フェイスさん?」
何もないところからいきなり話しかけられるより、ルフの「わおん」があったので、いくらか冷静に答えられた。
「わん、わおん(たった今、デルフの森から、淀みが一つ、ダンジョンのすぐそばに移ってきました。マスターのギフトにより、魔物が淀みから出ることができず、淀み自体が転移したようです。側に来た淀みを、ダンジョンに取り込むことが可能ですが、どうされますか)」
「……えっと、もう一度説明をお願いします?」
「わん(再度説明します。マスターがデルフの森の淀みの傍に長時間滞在した為、淀みから魔物が生まれられませんでした。淀みに蓋をされた状態になり内部の圧力が増したため淀みが、別の場所に噴出しました。
その場所がこのダンジョンのすぐ傍でした。現在新しく罠を量産中ですので、取り込んで利用することを提案します)」
「……お任せします。
って、この森には淀みが無くなったってこと?」
「わおん(たった今、新たな淀みを取り込みました。
現在マスターの傍には魔物を生めるほどの大きな淀みはありません。地下からまだ細く上ってきている淀みは、魔力として空中に薄く発散されています)」
「……そう」
「ひひん」
「わん、わおん」
「……ま、いっか。
ポックル、ルフ、ありがとう。
落ち込んでるんじゃないよ、ちょっとビックリしただけ」
びっくりした。でも自分の家作りには良いのだろう。
あんまり考えていなかったけど、結界杭の内側で自分がいないときに魔物が発生したらどうなるのかわからない。
今も分からないけれど、これで考える必要がなくなった。
「よし。とにかく明日は午前中に岡山村に帰るよ」
デルフの森二日目の夜が静かに更けていった。
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