第2話 風呂と家
日が昇るまでしっかり寝て、気持ちよく目覚めたコイル。ポケットの中の虫よけ香の効果に今日も感謝する。
虫よけ香は野営の必需品だが、薬草採取が盛んな岡山村では魔アザミを添加しているので、ほんの少し魔力を流すと飛躍的に薬効が上がり、こんな薮の中でも快適に過ごせる。
さて、昨日はほぼ何も考えないまま寝てしまったが、一晩寝て起きたら、もう、成り行きに任せるかと、達観してしまった。
「だって、元々ここに家を作る予定だったもんね。矢羽だって追い払えたし、この泉の水は飲めるし、そうだ!流れ出してる小川の途中に、露天風呂を作ろう!」
思いついたら風呂に入りたくなったので、善は急げと、ポックルに荷馬車を繋げ、ルフも連れて、小川に沿って歩き出した。
小川は歩いて渡れるほど浅いまま、平坦に静かに流れている。
泉から30メルほど先のデルフの木のむこうに、良い場所があった。
ポックルを荷馬車から外し、適当に草を食べっていてもらう。ルフは魔物なので食事は不要らしい。
土魔法で地面を耕し、小川のすぐ脇に、1人入れるくらいの浴槽を掘る。川から水を引いて、また川に戻るように水路と堰を作ってみた。
耕すのは土魔法で、魔力には余裕ができたから簡単だったが、耕した土を除けるのはスコップを使ったので、結構な力仕事だ。河原の丸い小石を敷き詰めて、程よいお風呂が出来上がったのは、昼を少しまわった頃だった。
青の街道からはちょうど木や藪のかげで見えにくくなっているので、このまま裸で歩き回っても大丈夫そうだけれど、将来的には側のデルフの木を更衣室にして、簡単な壁で覆って本格的な露天風呂に仕上げるのもいいだろう。
早速水を通してみた。濁りが消えて水が澄んできたら堰き止め、魔法で温めて完成だ。
出来立ての風呂に入ってみた。
「はぁぁぁぁ。良い気持ちー」
ゴロゴロの石の感触を足先で楽しみながら、バシャバシャと水面を叩いていると、楽しそうだと思ったのか、ルフも飛び込んできた。
ワシャワシャと毛皮を洗って笑う。
従属しているからか、魔獣なのに本当にかわいい。
簡単に魔法で土留めはしているが、ここに住むならきちんと木を組んで浴槽を作りたいなあ。少し濁ったお湯につかりながら、そんな計画を立ててみた。
お風呂でリラックスした後は、結局川で体を流し、お風呂計画を早急に進めることを決意。
体を拭いたらタオル1枚巻き付けて、荷馬車の御者台で涼む。
「さてっと、資金には余裕があるから、杭は多めに買って、広い土地でのびのび過ごしたいよね。
端っこの方ではさ、キャンプ地に隣接するようにツリーハウスの宿屋を作ったら、今まで以上にダンジョンに人が集まるかな?中継地点は大事だよね。
本格攻略組じゃなくて、薬草採取組に来てほしいなあ」
小川はもう一本、山から海に抜けるように流れているので、そちらにもう一か所、来客用の広いお風呂を作るのも良いかもしれない。旅先でのお風呂は貴重だ。
日程的にもまだ余裕があったので、もう一泊してから岡山村に帰ることにした。
「デルフの木の様子も確認しときたいね。ポックルとルフは好きにゴロゴロしてていいよ」
風呂の傍に一本の大きなデルフの木が生えている。
コイルが生まれた村にも、2本、デルフの木が生えていた。
この木は多少の大きさの違いは有れど、皆同じ形に成長する。
地面から2から3メルほどまっすぐ上に伸びて、そこから7本に枝分かれし、ほぼ水平に枝を伸ばす。
枝は太く丈夫で、3から5メル横に伸びると今度は上に伸びる。
上に2から3メル伸びたらまた、水平に7本に枝分かれする。
幹の根元は大人が抱えきれないほどの太さで、大黒柱のようにしっかりと枝を支え、安定感がある。
コイルが今居るこの木は比較的小さく、1段目が地上から高さ2メルで半径3メル、2段目が1段目から高さ2メルで半径2メル、3段目は2段目から1.5メルで半径50センチメルの3段だった。だいたいどの木も3段ほど枝を伸ばしてから成長を止め、枝の先に葉を沢山つける。常緑広葉樹で秋には小さな実を付けるが、食用ではない。今は花も終わったらしく、地上から見たらはるか上の方で葉が生い茂っている。
規則正しく大きく広がった木は、床板を張り、壁と天井を防水布で覆うと、簡易ツリーハウスとして利用できるし、本格的に壁を張って、扉や内装に凝ることも出来る。
広いリビングと少し天井は低いが4畳半ほどの寝室が7つ、屋根裏収納が49か所とイメージしていただければ良いだろう。
トイレと風呂、キッチンは外に作るしかないが、1段目と地面の間にちょうどよいスペースがある。
デルフの木は子供のころに、すでにちゃんとした家に加工されたものに何度か上ったことがあったが、こうして見ると、どんな家にしたいのか、想像するのも楽しい。
大工を雇って、しっかりとした家にもできるが、コイル自身は、野営を苦に思わないので、しばらくここに泊まり込んで、のんびり自分で家を作ろうと思った。
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