自分の居場所
第1話 小さな氷狼
思いがけずダンジョン内に理想の住居を構えたコイルだったが、そこに住むことはかなわず、夕映えのデルフの森の片隅で立ちすくんでいた。
「落ち着け、僕。まずは現状把握だよ。ね、ポックル」
「ひひん」
ポックルは特に困惑した様子もなく、普通に荷馬車の横に佇んでいる。
「夕方だから、今から岡山村に帰るには少し時間が遅いよね。ここは定期護衛便の野営地に近いから、野営地に行くのもアリだけど、この一日にあったことを一人でゆっくり考えたいから、だったらこのままデルフの森の奥に行くのが、人に会わなくていいよね。うん、じゃあ歩きながら考えよう」
いつも人から遠ざかる方向に考える癖には、全く気付いていないコイルだ。この性格がギフトを助長しているのは間違いない。
「喋ってないと、歩きながら寝ちゃいそうだよ。ポックルは大丈夫……そうだね。昨夜も爆睡してたもんね。僕は寝てないんだよ。いや、寝てたのかな?もしかして、全部夢だったとか?だよねー。ダンジョンが気になってたから、中に入る夢を見たのかな?」
「いえ、夢ではありません」
「ひゃっ」
突然どこからともなく聞こえてくる声に、再々驚くコイル。
「フェイスさんか。じゃあやっぱり、夢じゃないんだね。急に声がするとびっくりするから、どうにかならないかな」
「そうですね。外で危険な目にあってもいけませんし、私の声を伝えられる護衛を一体付けましょう」
近くの草むらが揺らぎ、柴犬の成犬くらいのサイズの真っ白い子犬が出てきた。
「わおん」
「わっ、か、可愛い!」
「わおん(少しサイズは小さいですが、第4層に居た氷狼です。このサイズなら犬で通用するでしょう。マスターの護衛にお使いください。こうして私の声を伝えられます。いきなり声だけ聞こえるよりも良いと考えます)」
「お、おお。何か複雑な……でも……可愛いから、いいや!」
コイルが子犬に飛びついて抱きかかえると、子犬は少し嫌そうに顔をそむけながら、小さく尻尾を振った。
「うんうん、そうだね、抱っこは嫌かぁ。小さくても狼だもんね。名前、何にしよう?」
シロ、ポチ、コロ……うーん、と考えながら歩く。
「氷狼だからアイス、目がキラキラしてるからキラ、フェイスさんの声を伝えるからデンワ……はないか。尻尾が可愛いからシッポ、んー、ふさふさのフサ、強くなってほしいからツヨシ、イヌ、オオカミ、ワンコ、ウルフ、んーーー、ルフ?ルフ!ルフってどう?」
「わおん!」
「よし、今日からお前はルフだよ。よろしくね」
「わん、わおん」
すっかりご機嫌で、さっきまでの悩みを忘れて歩くコイル。今日もマイペースだ。
そうこうするうちに、デルフの森の中心辺りにある泉に着いた。
ここまで歩くたびにバサバサと、木々から矢羽が飛び去って行ったが、もうそういう現象には慣れ切って気にもしないコイルだった。
泉は淀みと重なっているということだったが、ぱっと見た感じでは、普通に綺麗な泉だった。淀みから矢羽が出てくる心配もほぼ無いので、今日はここに野営することにした。
魔法が使えると、飲み水の心配はほゞないのに、こうした水を確保できる場所で野営したくなるのは何故だろう。
日が暮れて、灯したライト(魔法)が、水面にキラキラ反射して、美しかった。
昨日からずっと、きれいなモノを沢山見るなあと、幸せな気分でポックルに寄り掛かり、ルフを抱きしめて、程なく眠りに落ちていった。
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