第30話 うっかり寄り道してダンジョンに入った結果

 フェンリルの言葉に、クスクス笑いながら、雷羽がうなずいている。元があまり大きくない鳥だからか、人型だが子どもより小さい。鷹の羽根があり、フワフワの茶髪が可愛い。人というより妖精のようだ。



「いや、結構面白いぞ?さっき笑い袋を見てきたのだが、良いと思う」

「笑うだけじゃなくて「ばーか、ばーか」とか言わせたら矢羽どもにウケるんじゃねえの?」


 鬼熊の二人だ。ごつい体形で毛皮のベストから筋肉がはちきれんばかりの、たくましい女性の姿だった。



「好き勝手喋らずに、まずはマスターに自己紹介でもしてはどうかの?ほれ、マスターもきょろきょろして落ち着かんではないか。

 わらわはヴリトラのカガリビ。そこのフェンリルが現れる前はダンジョンマスターをしておった。今は第3層で隠居しておるよ」



 長いまっすぐの黒髪が美しい女性だ。優しそうに笑っているが眼だけが冷たく、コイルはぶるっと震えた。

 カガリビはこのダンジョンが出来た当初のマスターで、長年第5層を守ってきたが、フェンリルの誕生とともにマスターの座を譲り、第3層に住みながらも其処では戦わず、たまに第4層に入ってくる冒険者たちを追い払っている。


「そうですね。私は秋瞑シュウメイ、羽鹿です。普段は第4層で過ごしていますが、たまに第2層や1層にも顔を出します。新マスターの顔は遠くから拝見しましたよ。近付けず、残念でした」


 すらっと背の高い整った顔の男性が無表情で自己紹介した。

 背中には魔獣の時と同じ白い美しい羽を隠さず広げている。鳥の羽根ではなく蝙蝠のような皮の羽根なので、表情と相まって天使と悪魔のどちらにも見える。



「前ダンジョンマスターのフェンだ。マスターは外に出ることができるんでな、俺は外ではこの姿で傭兵ギルドに所属してた。第五層は暇すぎるんだよ。チッ。外じゃあ戦い放題だったのに。マスターじゃないんなら、ここを守る必要もないし、これからは第2層や3層に出張って冒険者ぶっ殺してやる。せいぜい沢山呼び寄せろよ、マスターさんよ」


 傭兵ギルドのフェンと言えば、国内で貴族同士の争い事があると必ずどちらかの陣営に顔を出す一級戦士だ。冒険者のコイルには人同士の争いは無関係だが、それでも名前を聞く有名人だ。魔獣だったとは。




「きゃはは、殺す前に、死にかけは外に転送されちゃうから、消化不良だね!

 ボク、天花、矢羽の進化種で雷羽だよ。進化したばかりだから、張り切ってビリビリしちゃうよ。きゃは」


 さえずるように高い声で、ご機嫌に笑う天花。



「鬼熊のアイだ」

「マイだぜ。第4層は俺たちが守ってるんだ、てめーら来るなよな。それじゃなくても冒険者が少ないっつーの」


 鬼熊のアイとマイは双子のように似ている。


「えっと、新しくマスターになりました?コイルです。よろしくお願いします。できるだけ人も魔獣の皆さんも死なない方向で、どうにかストレス解消していただきたいと思っていますので、何かいいアイディアがありましたら、教えてください」


「ぶっ殺すよりいいやり方があるとは思えねえけどな。せいぜい頑張れよ」

「きゃはは」




「一通り自己紹介は済んだようですね」

 インターフェイスだ。

「マスターコイルのギフトに、手も足も出なかった割には、皆、口が達者ですね。弱い獣ほどよく吠えるとは、人々もよく言ったものです」


 インターフェイスの声に、皆がコイルをキッとにらむ。


「僕が言ったんじゃないんですけど……フェイスさんの可視化を希望します」


「次回の会議までに検討しておきます。マスターの方針については、下僕の魔獣一同には伝わっています。あとはこのダンジョンを再開して、冒険者を再び集めるだけです。そういう訳でマスター、集客をよろしくお願いします」


 インターフェイスが言い、コイルのいる空間が一瞬闇に包まれた。






 気が付くとコイルは、大きな木の根元に1人、立っていた。

 少し離れた場所に、荷馬車と共にポックルがいる。


 混乱して、辺りを見回すコイルの頭の中に、インターフェイスの声が聞こえてきた


「マスター・コイルがダンジョン内にいると、ギフトの影響でダンジョンに悪意を持つ冒険者が入りにくくなります。冒険者の減少はダンジョン崩壊の危険につながります。

 マスターは外で、ダンジョンの宣伝活動をお願いします。早くダンジョンに帰ってこれるよう、ギフトを上手に使いこなし、効果を押さえることができるよう、鍛えることをお勧めします」



 目の前にはポツンぽつんとデルフの大木が生えている森と青い街道、その向こうには薬草の森ダンジョンの入り口が見える。

 夕焼けに赤く染まる風景。コイルとポックルは転送でダンジョンからはじき出されたらしい。



 ボッチになったコイルが、ついうっかり寄り道してダンジョンに入った結果


 色々あったけど、またボッチになりました。


「まーーーじーーーかーーーーー!」

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