第29話 いっそここに理想の家を

 夜が明けて、辺りが明るくなったので、コイルは第5層と、新しく作った第6層の鍾乳洞ゾーンを見て、改変していった。




 第5層は少し第4層側に広げ、入り口からすぐに木と石で空間を区切った迷宮を作り、全部屋を通り抜けると花園に出るようにした。

 第4層を抜けてすぐに見える光景が迷宮で目隠しされるのは残念だが、花園部分は現状維持で、できるだけ荒らさないようにしたい。そのぶん、迷宮を抜けると目の前に広がる花園に、冒険者たちも息をのむだろう。

 いや、そこは抜けられると困るので、コイルと魔獣たちだけの特権としたい。

 基本的には第4層で冒険者を食い止めるつもりなので、迷宮の各部屋はそれぞれ、各層でダメージを受けて転送されてきた魔物の待機場所となるよう、止まり木や花、湿地など、くつろげそうな内装にしてみた。

 思ったよりも素敵に仕上がった。魔獣たちがりようしてくれるかは分からないが。



 気をよくしたコイルは、第6層を自分の過ごしやすいリビングのように変えた。

 何でも作れるわけではないが、ダンジョンマスターの権限を使って鍾乳洞の一部の石をベンチやベッド、テーブルなどにしたり、他の層から木材など持ち込んで簡単な家具を作ることも出来る。


 鍾乳洞はかなり広く自然にいくつもの部屋が出来ている。コイルは入り口付近の明るい一角を自分の住居になるよう改築した。窓も作り、薬草の花園や新しく作った迷宮が見える。

「奥のほうが安全かな?でも、せっかくの美しい庭だから、見えるところが良いよね。奥に避難場所作るかな?」

 まだまだいくらでも部屋は作れそうだった。


「では、従属している魔獣を呼び出す会議室を作ってはいかがでしょう。魔獣の一部は戦う機会も少なく、長く生きて力を溜め込んで、人に近いものになっています。ダンジョンの様子について報告を受けるときなど、集まれる場所があれば便利です。また、魔獣同士で喋ったり交流を持つのは、ストレス軽減に役立つと思われます」


「喋れる魔獣がいるんだ。魔物?」


「魔物、魔獣という呼び名に差異はありません。一般的には人々は獣型を魔獣、獣とは言えない形状のものを魔物と呼びますが、表面上の違いにすぎません。元は人の感情から生まれたものなので、力を溜め込むとだんだん人に近い知能を持ち、姿も人型に変えることができる者もいます」


「このダンジョンにも?」


「はい。ここでは現在6体の人化できる魔獣がいます。その他、人化は出来ないけれど喋れる魔獣は30体以上います。

 一度会っておいたほうが良いと思います。方針も決まりましたので、ここの主な魔獣を呼び出します。宜しいですか?」



 魔獣も格上のものはダンジョン内を自由に移動できるようで、知能が高く人化できる者たちをインターフェイスに呼び出してもらいつつ、広めの部屋を会議室仕様に整えた。


 集まった魔獣は6体。前マスターのフェンリル、4層目にいた鬼熊2体、3層目にいた魔蛇の進化種ヴリトラ、2層目にいた羽鹿、1層目にいた矢羽の進化種の雷羽。


 魔物の姿で集まったが、会議室仕様のテーブルや椅子を見て、それぞれ人型に変化した。

 変化は一瞬で、服を着た状態なのが不思議だ。

 人化すると表情がわかりやすい。睨む者、無関心そうな者、なぜかケラケラ笑っている者もいる。


 インターフェイスがコイルに話しかけた。

「マスター・コイル、皆に座るよう言ってください」

「うん。じゃあみんな、座って」


 誰も動こうとはしない。



「えっと……」


「では、マスター・コイル、魔法を使う要領で、声に魔力を乗せて、もう一度座るように言ってください」


「うっ……では。

 皆、座ってください」



 少し眉を寄せながら、今度は全員が一斉に椅子に座った。


「今ので分かったと思いますが、従属した魔獣たちは、マスターの命令を聞きます。命令には魔力を乗せてください。基本的にはマスターに敵対行動は出来ませんが、魔力が載らない言葉には、抵抗することも出来ます。

 マスターはすでにこのダンジョンの淀みと繋がっていますので、淀みの魔力を使うことができます。

 マスターの権限は、この淀みの魔力の利用、インターフェイスを用いて世界の情報を一部共用、ダンジョン内の改変と魔獣達の使役です。また、ダンジョンの出入りが自由に出来ます。ダンジョン内の転移も自由、外部からダンジョン内への転移も魔力コストはかかりますが可能です。ダンジョン外への転移は1か所設定できます。設定場所は変更できます」



「人間がマスターになって、やっていけんのかよ?入ってきた人間を殺さない設定なんて、ありえねえ」


 フェンリルから変化した男だ。白銀の短髪を逆立てて、皮鎧を付け、大剣を背負った姿は、魔獣の面影はなく、一流の冒険者のように見える

 自己紹介もなく、なし崩しに、会議が始まった。

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