第28話 楽しくなってきた。寝不足のせいかもしれない。
「えっと、じゃあ基本方針は人も魔獣も死亡させないこと。罠の周りに笑い袋を配置して、冒険者を馬鹿にして笑うことでストレス解消。冒険者には罠攻略での魔石と、今まで通りの薬草採取で集まってもらおうと思います」
極力守りたい条件を「誰も死なないこと」と決めた。
考えることは2点。
淀みの側からは人を殺さなくても恨みつらみが解消できる罠を、冒険者の立場からは腹が立ってもダンジョンに入りたくなる魅力的な利益を。
第1層の草原ゾーンに関しては、今まで通り矢羽を配置して、薬草採取の合間に邪魔するようにした。薬草代として、こっそりだがダンジョン入場時に少し多めの12%の体力・魔力を吸収する。また笑い袋を配置し、矢羽が当たってけがをしたドジな冒険者は笑われる。
矢羽の攻撃力はささやかなので、強制退場の心配は少ない。矢羽は直接攻撃は避け、上空からの攻撃に限ることで、矢羽側の被害を防ぐ。
元々この第1層では人、魔獣ともにほぼ死ぬことはなかったので、現状維持だと言えよう。
第2層は薬草の周りに罠を設置することにした。
罠は泥んこ落とし穴、三択宝箱、蔓草吊るしなど、対策は立てられるだろうから、順次新しい罠に更新していくことにした。
三択宝箱はもともとあった薬草を宝箱で囲い、同じ形状のハズレを2個並べる。ハズレを引くと体力または魔力を一定量奪い、当たりの薬草はいったん淀みに回収する。笑い袋を配置し、当たるとブーイング、外れると笑うことにした。
蔓草吊るしと落とし穴は各所に仕掛け、引っかかると体力か魔力の吸収、笑い袋に馬鹿にされる。
第2層の魔獣は飛針野ネズミ、飛びウサギ、羽鹿。さほど強くないので、第3層入口付近に待機し、ささやかな嫌がらせをする。パーティー人数によって担当魔獣の数を制限し、一発当て逃げルールを作った。
冒険者から反撃される前に退却し、本格的な戦闘行為にならないよう気を付ける。
第2層ももともと楽に通り抜けられる層だったし、魔石は罠にかかるまえに解除出来たり三択宝箱に正解すると得ることができる仕様にしたので、冒険者も今まで通りの収入が見込めるだろう。
ハズレくじを引き続けて体力切れで強制退場になったウッカリ者の転送コストは、ここで吸収する分で賄えそうだ。地産地消。
第3層も同様に、罠中心で配置する。第2層よりは危険だがうまく対処すれば抜けられる程度の罠だ。ここまでは冒険者をダンジョンに呼び寄せる餌になる。
第4層からはマスターを守る砦になる。
ここからは甘い罠はやめて、かかれば一発退場の難易度のものを用意することにした。
今までも十分魔獣たちで防いできたが、魔獣が死ぬと補充しにくい今の状態では、魔獣だけに頼るわけにはいかない。
罠の種類も今はとりあえず第3層の改良版だが、いずれ対処しにくいものを、思いついた端から導入する予定だ。
第5層は美しい薬草の花園で、今まではマスターであるフェンリルが一頭で守っていたが、まだここまでたどり着いた冒険者はいない。
「そういえば、淀みはどこら辺にあるのかな?」
「あの花園の向こうにある崖に、美しい鍾乳洞があります。そこに地下水が湧き出る泉があり、淀みも同じところから噴出しています。淀みは殆どの場合地下に「第一の人生」との接点があり、そこから地上に向けて噴出します。その影響で水が湧き出ることはよくあります。花園の中にある泉も、このダンジョンの中心になる核ではありませんが淀みの一つです」
「あー、それだったらこの第5層を花園までにして、鍾乳洞を第6層にすることは出来る?」
「可能です」
「第5層は花園を荒らされるのはなんだか嫌だから、花園の手前に迷路を作って各層で待機中の魔物が次々と相手をするような形でいいかな?魔物が負けたら死ぬ前に第6層に転送して。フェンリルが負けて第6層まで来たら、僕も覚悟するよ。全員総当たりで冒険者を追い返す。人として町に出れなくなるかもしれないけれど。
あ、僕、ダンジョンから出れるよね?
もしかして、マスターになったのでダンジョンから出れない……とか……」
「大丈夫です。マスターだけは、ダンジョンの外に出ることが可能です。マスターは管理に必要な知識を得るために人語を理解し人化できるものも多いのです。冒険者が最後の層まで来ることは少ないので、暇を持て余しダンジョンを離れることもよくあります。ダンジョンとは絆がありますので、離れても必要な時は転送で呼び出します。昨夜、マスター・コイルが来た時も、フェンリルはふらふら出歩いていたため、戻ってくることが出来ませんでした。もしこの場に最初からいれば、ギフトの影響があっても一応は戦うことになったかもしれません」
「そ、そうなんだ。じゃあ、お出かけ中でよかった。のだよね?」
「価値観はそれぞれですので。一般的にはマスターを倒してダンジョンを踏破したいという冒険者が多いとは思いますが」
フェンリルのような上位の魔獣に対して、どう戦っていいか見当もつかない。なにしろ、魔獣との戦いなんて、遠くから矢で射ることしかしたことがないのだから。勝てるイメージが湧かないので、取りあえずは良かったと思うことにした。
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