第27話 方針を決めよう

「二つ目の方法は、罠の設置です」

 携帯食をかじるコイル。

 気にせず話し続けるインターフェイス。



「罠は魔物と同じように淀みから生み出せますが、致死以外の効果を設定することで死亡率を減らせます。メリットは罠にはマスター・コイルのギフトの影響が少なく、設置し放題なことです。デメリットは対抗策を研究しやすく攻略されやすくなること、罠の威力が小さすぎると淀みの「負の想い」が昇華されにくく淀みにストレスがたまることです


 一般的には罠だけのダンジョンは少なく、魔獣と併用していることが多いでしょう」


「……ストレスって。たまるとどうなるのかな。もしかして……」


「淀みがマスターに対して反乱を起こす可能性があります。具体的には、強力な次のマスターになりうる魔獣を新たに生み出し、マスターと戦わせることになります。マスター・コイルのギフトの効果から、その魔獣はマスターと戦えず、淀みとともに外部にはじき出される可能性が高いと計算します」



「……つまり」


「ダンジョンが崩壊する可能性が高いと思われます」


「やっぱり」




 続けて色々と聞いてみた結果。


 淀みから生み出せるのは魔物か罠。

 それらは人に対して負の感情をぶつけたい。

 必ずしも人を殺す必要はないが、手加減するとストレスはたまる。

 罠は生み出すときに行動を設定できる。

 魔獣はマスターの意向とダンジョンの理には沿うが、その範囲内で自分の意志を持ち行動する。

 魔獣はマスターに近いクラスにならなければ殺意を制御できない。すなわち戦闘行為に入れば止められない。

 コイルのギフトの都合で、魔獣を新たに生み出すのは出来ないわけではないがエネルギーコストがかかる。

 そのため、現在ダンジョン内に残っている魔獣はマスターの盾になるので減らしたくない。



「ということは……魔獣も死にそうになったら、ダンジョンの奥に転送しちゃえば良い?休んでいれば回復するよね?」


「……そうですね。魔獣は淀みの側にいれば回復します。その場合、転送コストが魔獣の分も必要です。ダンジョンに属する存在なのでコストはあまりかかりませんが、転送数は人より十倍以上多くなると思われますので、入場者数が100人は必要になるでしょう。また、魔獣の魔石が取れないので、冒険者が減る可能性があります」


「じゃあ罠は?罠を解除したら倒したと判定されて魔石になるとか」


「罠も解除すれば魔石になります。ただしあまりにも簡単に解除されると、ストレスがたまるでしょう。難易度を上げると、冒険者死亡の可能性もしくは入場者数減少の可能性があります」



「うーん。罠にはどんな種類があるの?」


「設定次第です。魔獣と同じく、マスターの意向が反映されます。よくある罠は、落とし穴、宝箱を模したミミック、踏むと矢が飛んでくるもの、迷路などです。難易度は穴の中に仕込む武器や、ミミックに即死魔法を組み込む、矢に毒を塗る、迷路の出口を作らないなどで上げています。難易度の高い罠はマスターのいる層の手前辺りに多く配置されます」



「……結構怖いんですね、ダンジョンって。僕、初心者だからそんな罠にはまだ会ったことないなあ」


「このダンジョンには罠は全くありませんでしたので。旧マスターは戦闘狂でまっすぐな性格の、いわゆる脳筋でしたから。どちらかというと、「冒険者、来い」と楽しみに待ち構えていましたが、4層目の魔獣たちが優秀すぎて、ダンジョン内では一度も戦ったことがありません」


 ……一度も戦わずにダンジョンマスターになった僕。

 一度も戦わずに、ダンジョンマスターを首になったフェンリル……



「そうなんだ。今なら会うことはできるのかな?会わないほうがいいかな?怖い?」


「会うのは可能ですが方針が決まってからのほうが良いと思われます。すでにダンジョン内の魔獣はマスターの下僕ですので、恐れる必要はありません」


 ……下僕。


「取りあえずそのことは今は考えないことにするよ。

 方針は、

 じゃあ例えば、普通の落とし穴の中に、槍衾ではなく泥水を仕込んで、冒険者を泥だらけにするとかだと、少しはストレス解消になる?」


「普通の落とし穴よりは、若干マシかと思われます」


「あ、じゃあ、落ちた冒険者を笑ったら?思いっきり馬鹿にして笑うと、すっきりするんじゃない?」


「落とし穴に笑い声機能を付けるのは不気味で良いかもしれません。過去にそのような罠の記録はありませんが、効果は多少期待できます」


「落とし穴が笑う……」



 少し考えたが、想像力が追い付かなかった。


「それでもいいけど、えっと、笑うだけの罠とか出来ない?フワフワ飛んでさ、冒険者の周りで、失敗したら笑うの。成功したらブーイングとか」


「「笑い袋」という罠の記録があります。冒険者を苛立たせ、淀みのストレス解消には役立っています。討伐されやすく、ダンジョンの防衛には効果ありません」


「うんと小さくして、攻撃しても取るに足らない魔石しか出ないようにしたらどうかな?そのかわりに、数を多くして冒険者に付いていくとか」


「ストレス解消に効果は出そうですが、鬱陶しくて金にもならないので冒険者減少の可能性大です」


「ですよねー」


 虫のように鬱陶しくついて回る極小笑い袋、確かに嫌かも。

 けれど、簡単に倒される普通の笑い袋を量産すれば、今度は冒険者に狙われ、冒険者数増、攻略の危機だ。

 さて、どうすのがいいのか……


 コイルの長い夜は、まだまだ続く。

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