第25話 この世界の仕組み

「ダンジョンマスター・コイル、命令を出してください」


「……えっとー……」





 どこからともなく聞こえた声に辺りを見回すも、誰の姿も見えない。闇に沈みかけた花園がうっすら不思議な光を放って、幻想的だ。

 きょろきょろするコイルを気にする風もなく、声は続けて話しかけてくる。


「時間がありませんので、簡単に私の方から説明させていただきます」

「あ……はい」


「では説明を始めます

 ここは付近の住民に薬草の森と呼ばれているダンジョンです。ダンジョンの役割はご存知でしょうか」


「え、いえ、っていうか、声の人はどこにいるんですか?」


「では、ダンジョンの役割を説明します。私は世界とこのダンジョンのマスターを繋ぐインターフェイスです。実体はありません

 ダンジョンは条件を満たした淀みを核に作られた異空間です。淀みとは……」


 インターフェイスは呆然と座り込むコイルに、淡々と語った。



 魔物が発生する原因である淀みだが、同時に空気中に存在する魔力の元でもある。

 淀みはこの世界にエネルギーとして持ち込まれている。どこから?

 それは前世「第一の人生」からだ。そこで生まれた様々な想いのうち、辛い、悲しい、嫌いだなどの、負の感情と呼ばれるものが浄化される過程でこの「第二の人生」に送られてくるのだ。

 第二の人生では電気や火薬などの物理現象が、ごく一部だが制限を受けていて、文明が一定以上発展しないようになっている。それは第二の人生での人々の生き方を方向付けるため、世界が設定したものだ。

 それを補うのが淀みから生まれた魔物が生み出す魔石だった。

 淀みはある一定の大きさになり、それを管理できる力を持つ魔物が生まれ、付近に魔物を討伐できる人が住むという条件を満たすとダンジョンと呼ばれる異空間を形成する。

 ダンジョンはより多くの魔物を、付近の住民に野外よりは安全な状態で多く生み出す。


 ダンジョンで生まれた魔物は、人語を話し高度な頭脳を持つ「マスター」と呼ばれる魔物が管理する。

 生み出す魔物の種類や性質も、マスター権限である。

 淀みは人から生まれた負の感情なので、人を襲う性質がある。魔物を倒すのは、負の感情を戦いで昇華するという面を持つ。

 淀みからは次々に魔物が生まれるので、一定数の魔物を常に討伐しなければ魔物はダンジョンの容量を超え、ダンジョンが崩壊することになる。

 先の「魔鉄の洞窟」の崩壊はこれだ。


 マスターはダンジョンが崩壊しないよう、冒険者と魔物の戦いの場を提供するのが仕事だ。そのためにはダンジョンに常に冒険者を呼び寄せる必要がある。

 例えば、魔鉄の洞窟では魔鉄が、ここでは薬草が、また沢山の魔物自体が冒険者を呼ぶ餌になる。

 マスターは冒険者をダンジョンに呼び込み、魔物たちと戦わせ、なおかつ自分の側までには来ないよう、ダンジョンを設定する。


 だが、冒険者がダンジョンの奥まで進み、もとになる淀みにたどり着いたとき、そこで必ずマスターと戦うことになっている。マスターはダンジョン内を自由に歩き回れるが、冒険者が核になる淀みがある最後の層に入ったとき、どこにいてもそこに呼び出される仕組みになっている。

 マスターがその戦いに敗れた場合、ダンジョンは休止状態となり、淀みは次のマスターを生むために力を蓄える。魔物の発生は減るが、異空間が崩壊することはない。

 ところが今回は、マスターである魔狼フェンリルが、コイルのギフトのせいで淀みのある第5層に来ることができなかった。

「マスターは必ず戦わなければいけない」という義務に違反した為、コイルに従属したと判断され、マスター権限がコイルに移ったのだ。



「と言う訳で、現在このダンジョンはマスター交代による改変のため、冒険者を外にはじき出して、立ち入り禁止に設定されています。普通でしたらこのまま1週間から一月ほど時間をかけて改変を進めるのですが……今回は問題があります



 マスター・コイルがこのダンジョンを掌握した為、ギフトPSの範囲がこのダンジョン全体に影響しています。

 このダンジョンでは核になる淀みの他にも5か所の淀みがありますが、その全てから現在、魔物が発生することが出来なくなっています。

 このまま淀みを封鎖し続けると24時間程でダンジョンは崩壊し、淀みが別の場所に転移します」



 ……現状把握だけで24時間は必要だと思うコイルだった。

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