第20話 資料室閲覧

 コイルはギルドの図書室で、開拓禁止区域などが載った資料を見ていた。




 デルフの森は、開拓可能域だったか、中央に矢羽の発生する淀みがあり、大量の矢羽の生息地として要注意地区になっていた。

 その手前には木が生えていない草原で、あまり広くはないが平地で、家を建てるにも農地にするにも、使い勝手の良さそうな土地があった。100メル四方あるかないかの土地で、村にするには狭く、現在は岡山村の領主が杭4本を打って、野営地として利用されている。

 宿場町のない街道沿いの地区には、時々こうした野営地があり、設備はないが、鬱陶しい小型の魔物だけでも避けられるので、旅行者には憩いの場である




 森は、街道よりも南の海側にあり、街道から海岸までの間で、わずか100メルほどの幅で1キロメルほどの距離、続いている。森のさらに南は海岸で、険しい岩場や一部砂浜もある。


 デルフの木は一本一本が大きく面積をとるので、100本も生えていないくらいだろう。

 日光を好み、その周囲に大木を生やさない性質があるので、森は明るく、ただし低木は生えるので、藪があって歩きにくい。藪に足をとられていると容赦なく上から攻撃されるので、調査隊も苦労したようだ。



 街道と並行して歩くと、森のほぼ中心にある泉から、きれいな水が湧き出して、小さな流れを作っている。あまり広くない小川だが、途切れることなく澄んだ水を運び、その先の大河に流れ込んでいる。そこは小さいけれど滝になっていて、ロゼから岡山村に向かうときには街道から見えるようだ。


 そんな泉だが、ほぼピッタリ淀みと重なっているらしい。淀みからは矢羽が生まれることが確認されているが、水自体に問題はなく、川に流れ込んでいる水は飲用水として十分な品質を保っているとある。


 森の中にはもう一つ、細い川がダンジョンから街道を超えて海岸まで続いているが、こちらも幅2メルにも満たない細い浅い川で、開拓禁止区域にはなっていない。橋を作る必要もなく、歩いて渡れると書かれている。もちろん飲用可能な水である。




 デルフの木は、噂通りこのあたり一帯の矢羽の根城になっているらしく、街道を離れて森に近づくものには容赦なく攻撃を仕掛けるようだ。強い魔物ではないが、数の力は大きく、数十羽の矢羽に至近距離から攻撃され、大けがをした旅人も少なくない。


 矢羽以外の目立った魔物は見つからなかったが、ウサギ、鹿、狸が見られた。デルフの実は秋に実り、人が食べるのには向かない硬い実だが、ウサギや鹿の餌になっている。藪は棘のある低木に赤い実がついていたので、人には住み辛いが動物にとっては実り豊かな土地なのだろう。と纏められていた。

 ちなみに、魔物はほとんどの場合野生動物を襲わない。人と一緒にいる動物、家畜などは襲われることもあるが、食べているわけではない。魔物は餌を必要とせず、魔力を吸収して生きているからだ。






 街道を挟んで山側には大きなダンジョンの入り口がある。

 草原を含む森林型ダンジョン「薬草の森」だ。



 薬草の森は、岡山村から歩いて半日ほどの街道沿いに入口がある。

 見た目は岡山村からずっと続く草原の一部だが、ダンジョン化した為、入口以外からその草原に入ることは困難だ。ダンジョンは、周りの世界からほんのり隔離された特殊空間なのだ。

 先の「魔鉄の洞窟」ダンジョンの崩壊は、その隔離された空間が崩壊し、外につながり、中の魔物が一斉に出てきた現象だ。ダンジョンが崩壊する理由はいろいろ研究されている途中だが、ハッキリわかっている原因の一つはダンジョンに人が入らず、戦闘が減ることである。

 ダンジョンの最奥にはマスターと呼ばれる魔物がいて、そのマスターがダンジョンを維持していると思われていたのだが、倒してもダンジョン自体は崩壊することはなく、しばらく不活性化したのち、新しいマスターが生まれるようだ。




 街道とダンジョンの境には2メル以上もある背の高い葦が生えていて、中は見えない。

 ダンジョンは岡山村の次の町ロゼの近くまで、街道とほぼ接している。

 岡山村からロゼまでは2日強の道のりであり、途中野営を1~2回する必要があるため、この街道の中でも難所の一つだった。

 野営に適した場所は何か所かあるが、村を開くほどの土地がないのが近隣住民の悩みの種である。

 岡山村とロゼの間は、「定期護衛便」という商売があり、一日1便ずつ、朝、それぞれの街を出発し、旅人に付き添って、野営時の見張りをするという仕事だ。個人で護衛を雇えない人たちのために、領主が補助金を出している事業である。




 薬草の森はその名の通り、薬草の産地だ。入口は草原だが遠くに見える山までが含まれる広大なダンジョンで、奥に進むと、森林、沼地、山岳など様々な地形があり、ここで取れない薬草は無いとまで言われている。


「解毒用の薬草、よく売れるかな」

 コイルは、先ほどの話を思い出していた。デルフの森に住むとして、杭の税金を納めるために冒険者の仕事はしなければならない。ここなら、当然薬草採取だろう。


「そうだ、一回、薬草の森に入ってみよう!」

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