第19話 ギルドで相談

 諸々の手続きを済ませたD級冒険者コイルは、ようやく山田村を旅立つことにした。



「じゃあ、コイルが開拓して住めるようになったころ、絶対遊びに行くから、しっかり頑張れよー」

「私たちはカンサーイの北にある、コトの町に向かう。資金に余裕ができたので、しばらくコトに滞在して、リーファンと二人で金にならない探検でもするつもりだ。こっちに遊びに来てくれてもいいぞ」



 リーファンとエリカと、次の再会を約束し、手を振って別れた。



 山田村から岡山村までは、ゆっくり進んでもおよそ2日の道のりだ。途中小さな宿場町が4か所あり、夕方着いた4つ目の町に一泊した。特に変わった出来事もなく、翌日午前中には無事岡山村に到着した。

 岡山村は海沿いに開けた平地の、街道から見て山側にある。村と付いているが、実際は人口30万人に迫る、カンサーイ以西でも有数の大都市である。


 町は広いが、旅行者は主に街道に面した正門近くの、南町と呼ばれる地区に滞在する。

 そこには宿屋、土産物屋、雑貨屋など、旅人が立ち寄りそうな施設のほとんどがある。

 町内の大きな商店はたいてい、南町に支店を持っていて、ギルドの支部もまた南町にある。


 岡山村についてまずはオートキャンプに入り、取りあえず一週間宿をとると、ギルドに向かった。

「いらっしゃいませ」

 にっこり笑うお姉さん。ギルドの支部というのは、どうしてこんなにきれいなお姉さんが多いのだろう?と首をかしげるコイルだった。


 コイルは知らないが、お店などで受付をしている女性の多くは、「もっときれいだったら~」と焦がれるような思いを持って転生し、「化粧上手」「好印象」「仕事美人」などのギフトを持っているのだった。

 化粧上手は化粧の効果倍増、好印象は弱い魅了系魔法、仕事美人は仕事をてきぱきしていると、さりげなくエフェクトがかかる素敵仕様だ。



「あの、僕、カンサーイから転出して来たんですが、ちょっと聞きたいことがありまして」

「はい。なんでしょう?」

「あの、住むところが決まったら、書類を出すように言われたんですが」

「はい。そうですね。住むところが決まりましたら、最寄りの町のギルドに所在地を伝えて、領主様に住民税を収めることになっています。こちらにお住まいですか?」

「はい。あ、でも、この町ではなくて、城壁の外を、開拓して住もうと考えています。杭はこちらで買えますか?」



 お姉さんはちょっと驚いた顔で、コイルのカードを受け取り、手元の魔道具で確認し、にっこり笑った。

 所持金を見て、見かけによらず、お金持ちのボンボンなのだろうと思ったようだ。


「はい、大丈夫です。こちらで買えますよ。杭の説明は必要ですか?」

「はい。おねがいします」

「ではこちらの椅子にお座りください」

 カウンターの横のテーブルに案内され、奥から40歳くらいのメガネをかけた細身の男性職員が出てきて、向かいに座った。。



「初めまして、コイルさん。権利関係担当のユーインと申します。

 開拓をご希望ということで、私から説明させていただきます」


 話か長くなるからだろうか、お茶まで出てきた。


「開拓用の杭は、一本10万円です。最低4本からの購入になります。

 開拓者の税金は、その周りに城壁が出来て本格的に村として成り立つまでは、5年ごとに杭一本につき10万円がギルドカードから徴収されます。


 杭は一度地面に打ち込むと、特殊な技術者にしか掘り出せないようになっています。

 また、簡易結界の魔法の魔道具も兼ねていて、半径35メルの球の中は小型の魔物は寄せ付けません。

 中型、大型の魔物には効きませんのでご注意ください。

 物理結界ではないので、人の出入りには影響しません。生活には便利ですが盗賊などを防ぐものではないので、防犯対策は別途ご用意ください。

 魔石は五年ごとの納税のタイミングで、職員が取り換えに伺います。


 杭は、隣の杭との間を60メル以内にして、開拓用の土地をぐるりと取り囲むように設置してください。街道や、近隣住民が整備している道、海、主要な川など、これらの場所は開拓杭で囲むことができません。開拓禁止区域はギルドの資料で指定されていますので、あとで必ず、ご確認ください。海は満潮時に海水につかる部分までを表します。


 ここまででご質問はありますか?」


「えっと、杭の結界範囲は球状ということは、矢羽の攻撃は防げますか?」


「はい。矢羽本体は近づくことは出来ません。矢羽の攻撃は結界を抜けますが、飛距離はおよそ25メルです。それ以上の距離だと羽が失速して、届きません。

 ただし、結界杭を広い範囲で、設置すると、杭の効果は最大半径35メルなので、土地の内側は範囲外になります。例えば一辺200メルの正方形の土地を囲んだ場合、中心に100メル四方の以上の結界のない場所が存在することになります。その場合、上空からですと小型魔物の侵入も可能になります

 短辺が60メル以内の細長い土地でしたら、杭の内側すべてが結界の範囲になります。

 そうそう、簡易結界の範囲は杭の外側にもありますが、コイルさんの土地になるのは、杭の内側のみとなります。街道沿いですと、旅人が勝手に杭の外側を休憩地点にしたりする場合もありますが、違法ではありません。

 杭の外側は誰の土地でもないので、どうしても結界を勝手に利用してほしくない人は、杭の周りに堀を掘ったり木を植えたりしているようですが、これも違法ではありません。ただし、杭の外の場合、たとえ堀や生垣を作っても、他の人が入り込むのを禁止するものではありません。」


「はい。色々考えないといけないんですね」


「そうですね。コイルさんはどのあたりを開拓しようと考えていますか?」


「薬草の森の側の、デルフの森に住もうと思っています」


「ああ、ツリーハウスの木ですね。でもあそこは、このあたりで最も矢羽の被害が大きい場所なので、少し大変かもしれません。

 この辺りは気候も温暖で、実りも豊かです。雨も少ないので、デルフの森よりも開拓に向いている場所もあると思います。ゆっくりとご検討ください。

 モミジ方面に向かう街道沿いには、ダンジョンのため、十分広い土地を確保できず、ロゼまで宿場町がない、難所になっています。それも踏まえて、どのような形で開拓するのが良いか、納得いくまで考えたほうが良いですね」



 モミジは岡山村と同じ規模の街で、ロゼはその手前の町だ。


「わかりました。あと、このあたりの危険な魔物って、どんなのがいますか?」


「旅人に嫌われているのは、矢羽が筆頭です。この辺りは草原が広がっているので、大きな魔物は多くありません。小型は他に、飛針野ネズミがいますね。

 中型だと、青狸。あまり強くはありませんが、転がって体当たりしたり、嚙みついたりします。毒を持っていて、嚙まれた所が腫れ、熱が出ます。解毒薬を常備するようお勧めします。

 大型は、平原だと羽鹿くらいでしょうか。薄い毛皮に覆われた羽がありかなり大きく、とても美しい白い鹿です。高く飛ぶことは出来ませんが、10メルくらいは軽くジャンプします。尖った角で攻撃してきます。力が強いので、とても危険です

 他にも、森や山の方に行くと、熊やイノシシ、狼などの魔物や動物がいます。

 イタチやネズミなどの動物は小型でも簡易結界が効きませんので、油断せず対処してください」


「はい、わかりました」


「杭についての説明は以上になりますが、聞きたいことがあればいつでも、わたくし、ユーインを呼び出してください。杭は本日お買いになりますか?」


「あ、いえ、まだ全然予定地を見ていないので、見てからにします。すいません」


「いえいえ、気にしないでください。しっかり見て、良い場所を選定してください。無理だと思ったら早めに諦めるのも大切ですよ。その場合も、相談は受け付けていますので。私がこの部署に来てから初めての個人の開拓です。成功するよう心より願っています」


 クールな表情を緩めて、小さく笑うユーインさんは、いかにも「仕事ができる男性」といった感じで、コイルには、まるでキラキラエフェクトが舞っているような気がするのだった。(それはギフトです)

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