第7話 いよいよ出発

 城門を出ると、コイルの荷馬車が4台ぐらいは並んで走れるほどの広い青い道がある。

 主要都市間を結ぶ街道は、海砂と、セメントの木と呼ばれる竹に似た木を粉砕したものに、貝殻を粉にしてできる青い染料を混ぜて敷いている。

 これを敷いて水をかけると、乾いた後はしっかり固まって、歩きやすい道ができる。

 馬車のわだちもできにくいし、補修も簡単だ。一度固まると、雨が降ってぬかるむこともない。

 青い染料を混ぜるのは主要な街道だけ。道を間違えないためで、地図にも青色で書かれるよう決められている。



 街道沿いは、半日も歩けば小さな村に着くようになっている。旅人の野営を極力減らすのが目的だ。

 コイルの場合は、魔獣の心配もなければ、野盗も近づきにくいので、特に宿に泊まる必要もないくらいだが、初日は観光もかねて、カンサーイから1つ目の宿場町、ゴルゴに向かうことにした。


 出発が昼過ぎだったので、ゴルゴに着くのは夕方だ。


 6月の日差しは厳しいが、3日後くらいに着く予定のリコリまでは、木かげが多い道なので、風があれば快適に旅ができる。


「良い天気で、よかった。ねえポックル」

「ひんっ」


 律儀に返事をしてくれるポックルとの旅は、思いのほか快適だ。

 荷馬車はコイルが乗ることもできるのだが、今はまだ元気だから、旅らしさを楽しんでいる。

 思えば、昨日まではイチャイチャする二組のカップルを遠めに見ながら、無言で後を追う毎日だった。

「まあ、お金のこともあるから仕方がなかったんだけどね。独立出来て、良かったよ」

「ひんっ、ひんっ」


 コイルのギフト、PSパーソナルスペースは好調だ。街道を歩いていると、時折道の脇の林から魔獣が近づいてくるが、20メルほどまで近づくと、立ち止まり、諦めて引き返す。

 このあたりで、遠距離攻撃を持っている魔獣は、体毛を針にして飛ばす飛針野ネズミと、魔法が使えるアイスモンキーだが、どちらも飛距離が20メル以下なので、こちらから向かっていかない限り大丈夫だ。

 コイルの武器の弓は、飛距離が50メルなので、大きくて狙いやすいアイスモンキーやラージボア、飛びウサギなどは積極的に狩っている。


 ヒュッ!


 風切り音とともに、上空から矢羽の羽が、ロバの背に刺さる。

 すぐに弓を構えて撃つ。矢羽はあまり大きい鳥ではないので、うまく当たらないが、そのまま降りてきて襲おうとしたところをPSに阻まれて、大きく後退した。


「ポックル大丈夫?」

「ひひん」

 ポックルの背には、矢羽対策で防水布を二枚重ねていたので、体までは届かなかったようだ。

 矢羽の攻撃力は大したことがないのだが、上空から際限なく攻撃して、油断するとくちばしで抉りに来るので、とにかくうっとおしい。そのため、旅の基本は矢羽を防げる丈夫な幌付きの馬車で、馬にも背に覆いを付ける。


 上空をもう一度見ると、先ほどの矢羽は近付けないコイルをあきらめて、別の獲物を探しに行ったようだ。

 コイルはポックルの鬣をなでながら、つぶやいた。

「防空頭巾、作るかなあ」



 矢羽で死んだという話は聞かないが、旅で一番嫌な魔物はと聞くと上位に上がる。それが街道名物の矢羽なのだった。

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