第8話 伝説の農婦メアリーの歌
ゴルゴの町は、カンサーイに近いだけあって、そこそこの賑わいのある街だった。
旅の馬車や荷馬車の数も多い。旅行者目当ての屋台もたくさん出ていて、まるで祭りのようだ。
コイルはのんびりポックルの手綱を引きながら、屋台を冷かしていく。
「よう、旅の少年!立派なロバだねえ。どうだい、この焼き鳥でも食いながら歩くってのはさ?」
「ありがとう、おじさん、焼き鳥いくら?」
「1本たったの50円だ。ほら、デカいだろう。少年ならきっと1本で腹いっぱいだな。ははは」
「えー、高いよ、おじさん。すごくうまそうだから、20円くらいなら欲しいけど」
「馬鹿言っちゃいけねえ。これはそんじょそこらの鳥じゃねえ。ゴルゴのご領主様が山で捕まえた活きのいいキジと、伝説の農婦メアリーが育てた山鳥が、燃えるような恋をして生まれた卵、そこから生まれた可愛いヒヨコが2羽、4羽、16羽と数を増やして、いまじゃあこのゴルゴの押しも押されぬ名物さ」
「へ、へえ……すごいね」
「あったりまえだって。その旨さときたら、一度食べたら病みつきで、そのままこのゴルゴに住み着いた旅人が何人いるかわかったもんじゃねえ。けど、旅の少年、食べんと味はわからんからな。せっかくだから大サービスだ30円で売ってやろう」
「お、おう。じゃあ、もらおうかな」
「まいどあり!出発の前にはもう一度寄りな。途中で食べられるように袋入りも売ってるからな!」
にこにこ笑いながら手を振るおじさんに、コイルも軽く手をふった。
おじさんの言う鳥の大恋愛は眉唾だが、焼き鳥は甘辛いたれを絡めて、素晴らしく美味しいものだった。今までは宿屋の一食100円の定食基準だったが、その辺りの屋台の商品を見るに、50円はそこそこ良心的なお値段なのかもしれない。
「おっとくっだねーっ、おっとくっだねーっ」
自作のお買い得の歌を口ずさみながら、足取りも軽く道を進む。
さて、宿屋だが、今まではパーティーの遠征もリュック一つだったので普通に宿をとっていたが、今日からコイルは荷馬車持ちである。
ギルドの駐車場のように、有料でしっかりとした見張りがあって信用できる場所でこそ預けっぱなしにもできるが、宿屋に一晩預けるとなると、かなりの高級宿に泊まる必要がある。
何人か一緒に旅するものがいれば、交代で見張りをすればいいが、コイルのような一人旅の荷馬車もちも多い。
そんな旅人に人気なのが、「オートキャンプ」と呼ばれる駐車場兼宿屋だ。
受付を済ますと、部屋に荷馬車ごと案内される。
部屋は床がなく地面だが、壁と屋根はあって、扉には鍵をかけることができる。
馬車スペースの横には、ベッドとテーブルとイスまであって、屋台の食事を持ち込んでもいいし、馬車を置いたまま外で買い物や食事をしてもいい。
もちろんたまに泥棒が忍び込むこともあるのはあるが、普通の宿屋の駐車場よりは安全だ。
貴重品は誰も置きっぱなしにしないので、持ち運びにくく金に換えにくい荷馬車の荷物が狙われることは滅多にないのだ。
それに、部屋の作りが簡素で、ほとんど野外キャンプのような設備なので、宿泊料もさほど割高ではないのもよい。
ポックルにえさを与えてから、コイルは食堂を探しに出ることにした。
宿場町だけあって、暗くなっても食堂が何軒も開いている。適当に入ってみると、奥で歌姫が歌っていて、酒の入った旅行者がご機嫌で手拍子していた。
なんと、歌の内容はご領主の採ってきたキジと、伝説の農婦メアリーの育てた山鳥の、恋物語だった。
歌姫がメアリーになって、切々と歌い上げる。
「ああ、ひとりぼっちのポニョリン。
あの時飛び去ってしまった彼を、まだ待っているのおおおおお」
酔っぱらいは大歓声だ。
コイルは少しノリについていけないなあと思いながら、本当に名物らしい山鳥定食を隅っこで食べた。
ノリにはついていけなかったが、ほんのり胸が暖かい、幸せな晩御飯だった。
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