噂の八説

ある国では家の中で木を育てる風習がある。


家を作るとき一箇所だけ地面をむき出しにして

そこに木を植えて家の完成となる。


外まで十分に木が育った家は子孫繁栄、無病息災で

幸せな人生になるとの言い伝えからである。


旅館や宿屋を作る際にも行われ、その場合は専用の部屋を作り行われる。


他国の研究者が

この木を珍しい植物と知り、地元の者に譲って欲しいと頼んものの

昔から伝わる大事な木なので他の国の者に譲ることはできないと、

苗木はおろか、枝を貰うことも許されなかった。


どうしても調べたかった研究者は

町外れにある家に忍び込み木の一部を削り取り出国した。

空港での検閲を嫌がり、評判は悪いものの検閲のゆるい海運会社に荷物を依頼し

自分は飛行機で帰り届くのを待つことにした。


しかし荷物はいつまでたっても届かず依頼した海運会社に連絡したものの

そんな荷物は載っていなかったと結局見つからなかった。


諦めきれず再度向かうことにしたが出国したすぐ後にその国で内戦が起きており

しばらく足止めされてしまった。


内戦が終わりすぐに向かったが

不思議な事に建物は残っておらず全て焼き払われており

生存者も死体も見つからなかった。


結局近隣の国が統治することになったのだが目的の木は

見つからずさらに調べることはできなかった。


旅行者が木を傷つけすぐに起きた内戦。

ひとつ残らず燃えた家屋。

死体も見つからなかった国民。




唯の噂。




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