霊関係の話⑲ 伏見稲荷
これは姉の体験談。別に怖い話じゃないと思うんだけど、忘れていたのを思い出しました。怪談ではないです、ただの不思議な話。
ウチは京阪沿線に家があるんで、伏見稲荷大社は電車の中から拝めまして、そんで初詣とかは成田山行ったり、京都のどっかへ行ったり、伏見稲荷も気が向けば行くという感じのお付き合いでした。
ある日、姉が仕事から帰ってきた時でしたが、なぜか手にはビニール袋に入った揚げたてホカホカ油揚げが握られているじゃないですか。なんぞ?と思いまして、問いただしました。
「ねーちゃん、なに、それ?」
「伏見のお稲荷さんにお礼参り行ってくるわ。」
話がワカラナイ。
よくよく聞けば、電車の中で急激な腹痛に襲われたそうなのです。激しい痛みにうんうん唸って、けれどこの電車を降りてしまうと会社に遅刻する。と、そこへ聞こえてきたのが車掌さんのアナウンス。
「えー、次は、伏見稲荷~、伏見稲荷~ぃで、ございます。」
駅のホームに滑り込む電車。赤い鳥居を模った独特の駅舎。そこで姉は藁にもすがる思いで必死に神に祈ったそうです。助けてください! と。
不思議なことに、電車がホームを出る頃には腹痛が嘘のようにピタッと止まったのだそうです。その後もぶり返すことなく、仕事を終えての帰り際、姉は神さまの恩を忘れることなく商店街で豆腐屋に飛び込みました。
導かれるように軒をくぐったその店先に、ナイスタイミングで揚げたて油揚げが並んだのだそうです。それを早速と買い求め、一旦、家へ戻ってきたそうで。姉は私への説明もそこそこに、仕事用の鞄を放り出して、油揚げが冷めないうちにと急いで出掛けてゆきました。
急かされているようなあの背中は、忘れ難い思い出です。何をあんなに焦っていたのでしょうかねぇ。本人に聞いても首を捻っているばかりなのでした。
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