第2話
蝉の声はとぐろを巻きながら、耳にまとわりついてくる。
体中から吹き出す汗が、シャツの色を変えていく。
道の左側は、崖になっていて、眼下には鬱蒼と木々が生い茂っている。
遠くには、山の稜線が青い空を切り取っていた。
「私の名前は、鳥沢エリカ。こんな田舎じゃ、似合わない名前よね」
「別にそんなことないと思うけど。僕は、藤原俊」
「フジシュンね」
「略さなくていいけど」
「思わず略したくなる名前だったから」
「そうかな」
「そうよ」
僕は彼女が肩にかけている大きなヘッドフォンが気になった。
あらためて見ると、けっこう高級そうだ。
「何の曲を聴いてたの?」
「レミオロメンの『粉雪』」
「ずいぶんと季節はずれだね……」
「気分だけでも涼みたいと思ったのよ」
「聴いてみる?」
「『粉雪』を?」
「別に『粉雪』じゃなくてもいいわ。このアイポッド、何でも入っているから」
鳥沢エリカは、ポケットに入っているアイポッドを取り出し、僕に示した。
けっこう古い型だ。
それから、エリカは僕にヘッドフォンを手渡してきた。
「ありがとう」
僕は恭しくそれを受け取る。
これって、さっきまで彼女がつけていたやつだよね。
汗がしみこんでいるんだよね。
そう考えると、ちょっとどきどきしてきた。
いやいや、僕はそんなフェチズムは持ってない。
かぶりをふって、僕はヘッドフォンをつける。
エリカはアイポッドを操作する。
突然、僕に耳に爆音が鳴り響いた。
「うわっ!」
慌ててヘッドフォンを外す。
「何すんだよ」
「びっくりして、ちょっと涼しくなったかしら」
「そんなんで涼しくなんないよ!」
僕はヘッドフォンをつき返した。
むしろ、余計に暑くなってきた気がする。
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