「冬」 6 「冬ちゃんは何を目指しているの?」(12月24日)

紘子(承前)


 21時30分。遂に宴会もお開きになった。みんなでざっと後片付けして、肇くんと陽子ちゃんはお父さんが車を出して送っていった。お皿を洗い、机を戻してお風呂に入りとしているうちに0時になった。


 お風呂を済ませると冬ちゃんの部屋で先に布団の上に寝ていた。少しうとうとしたけど、冬ちゃんがお風呂を済ませて戻ってきた所で目が覚めた。

「肇くんも陽子ちゃんも面白いしきちんとした子たちやねえ」

「私にとっては紘子ちゃんも雄一くんもとっても面白いししっかりした人たちだから、ここと呉の友達をつなげられてちょっとうれしい」

 私は冬ちゃんの方を見ると気になっていた事を聞いてみた。

「ところでさあ、冬ちゃんは何を目指しているの?」

「唐突だね」

「うん。でも冬ちゃん、ちょっと変ったよ。前よりとっつきやすくなった」

「そうかな。人の性格なんてそう変るもんじゃないよ」

「でも秋ぐらいから積極的だよね」

「んー。目標が出来たからかな」

「ひょっとして今後の進路?」

「うん。なりたいものが出来たから」

「ひょっとしてさあ。それは海関係の仕事?」

「なんで分かったの?……あ、この部屋の本棚から推測したんだ」

「ごめん。見るもんじゃないよね」

「別に隠している訳じゃないから問題ないよ。積極的になったように見えているとしたら、それは私が船に乗るなら船長とか呼ばれる人になりたいって意識があるからだと思う」

「それって会社でいうなら子会社社長か部長クラスぐらいの意味はあるよね?」

「そうだね。船に乗っている間はその中の出来事は全て責任を持つ。あんな大きなものを自由に動かせる人って憧れない?」

「うーん。私はちょっと分かんないかも。夏頃から考え始めたのってきっかけはあるでしょ。ひょっとして神戸行き?」

「うん。神戸総合大学のキャンパスにあった古い船のメモリアルを外から見た。震災で壊れて解体された船なんだけど、お祖父ちゃんがまだ記念船として健在だった時の写真を残していたの。あの船を見て私はこういう世界に行って船を動かすか作るかする側に行くべきだって思った。逆を言えばそれだけの話だよ。何者かになれるかは分かんないけど挑戦はしてみたい」

「お父さんとお母さんは知ってるんだよね」

これだけ本を揃えていたら、いくらなんでも娘の志望は気付いているだろうと思った。

「うん。とりあえず工学系とかも視野に入れて学校のオープンカレッジとか大学祭見て見極めなさいって言われてる」

流石は大学教員のお母さん。そういう指導をしている訳ね。

冬ちゃんが何かに目覚めたから変ってきた事がよく分かった。

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