「冬」 5 大富豪による性格診断(12月24日)

日向肇


 陽子ちゃんのラム肉のスペアリブは美味。多分陽子ちゃんがいい肉を奮発していると思う。癖があるのはあるみたいだけどそれ以上に肉の旨みが濃い。

 添えられたバゲットも美味しかった。ミフユの話だとご両親が好きなパン屋なんだという。


 ケーキはご両親とミアキちゃんが帰ってきてからにしようという事になり、食後の腹ごなしに大富豪をやろうという事になった。食卓の一部を片付けて場所を作ると冬ちゃんがトランプを持ってきた。


 大富豪はローカルルールが多い。まず呉組と川崎組でその点の確認が行われて、ジョーカーあり、革命、革命返しありという事で確定した。古城が、

「革命と革命返しこそ大富豪の華」

とか言い出して不吉な予感。そして想像以上にハードな展開になった。

 油断ならない陽子ちゃんと紘子ちゃん。意外に性格は似ている。相手のカードを読んで最低でも平民か貧民に被害を極限しようという地道さ。

 穏当な人なんだなと分かったのは雄一さん。勝負事でとてもいい性格の人達、つまり性格の悪い人達の中に放り込まれた羊の立場だと気付いているようで、大きな価値を狙わない戦術で動いていた。堅実を絵に描いたような人だ。

 そんな中で古城の攻撃性は厄介だった。まあ、いつもの事だけど。

大富豪に君臨していると、ジョーカーで強引に自分の手番にして、

「じゃあ、革命だよ。2が4枚ね。で、次は3が4枚で革命返し、私の勝ち」

といって一抜けするのだ。バラそうとかそんな気がさらさらない。焦土戦術上等なのは元からの性格かよと思い知らされた。


三重陽子


 大富豪。肇くんはやっぱり策士じゃないのよね。王道を行くタイプ。まず富豪を得て大富豪の人を引きずり下ろす。

そして冬ちゃんは意外なほど力攻めが好き。相手に手を出させない順番で完封を狙う。逆にそれが出来ない時は勝負を流していて大貧民に陥る事も多いけど、完封するゲーム運びが出来る方が面白いって思っているみたい。


雄一


 ミフユの強気な超攻撃的なゲーム運びはよく知っている。紘子も結構負けず嫌いだし。様子を見ていたら陽子ちゃんもそんな感じがした。俺は案外草食系やからなあ。勝ちに拘る人、超攻撃シフトの人の様子を見て勝ち星拾うだけやな。どうも肇くんとは話が合いそうな気がしてきた。


三重陽子


 20時30分頃。玄関の方からドアが開く音と大きな声で

「ただいまあ」

というミアキちゃんの声が聞こえてきた。

『おかえり、ミアキちゃん』

とみんなで出迎えた。冬ちゃんのご両親も部屋に入ってきた。

「あ、帰ってきたらケーキ出そうと思っていたんだ。お父さんもお母さんもミアキも食べるよね?」

と言うと冬ちゃんが立ち上がってキッチンの方に行った。

「それなら私がコーヒーを淹れなきゃね」

「ミフユ、ケーキの仕上げは手伝うよ」

とおじさんとおばさんが冬ちゃんの後を追った。


 ミアキちゃんがどこに座ろうかなという感じだったので声を掛けた。

「ミアキちゃん。こっち座ったら」

「うん」

「ジュース飲む?」

「少しだけ。ありがとうございます」

「学校のクリスマス会どうだった?」

「お子ちゃまばっかりだからどうかなあって思ったけど、子分達にお菓子あげたりして楽しかったよ」

子分とはこれ如何に。謎だったけど詳しく聞くと中々複雑そう。


「それにしてもミフユってほんと独立不羈やなあ。まさかこっちでもそうやったとっは思わんかったわ」

と雄一さんが言い出した。

「独立不羈って?……ああ、確かにそうねえ。彼女からそういう話は聞かないし自立している人ってイメージはある」

とは紘子ちゃん。

「呉じゃ彼女はどんな感じなんですか?」

肇くんがちょっと興味を持って尋ねた。

「ミアキちゃんが生まれる前は俺たちとよく遊んではおったけどなあ。山の上の方やから、俺たちしかいないからね。山の方にいくか麓の町に出るかって感じで」

「ミアキちゃんが生まれてからはすごく面倒見の良いお姉ちゃん。だから4人で遊ぶ機会が多かったんだけど、今年の夏帰ったあたりから何かに熱中しているみたいな感じはメッセとかやりとりしていて思っていた。てっきり、こっちにいい人がいるかと思ってたわ。学校での話なんかたまにメッセくれたけどクラスメイトをよく見ていたら面白いねって。学校じゃどんなかんじなん?陽子ちゃん」

「私は別のクラスだから。冬ちゃんとは選択科目の美術で一緒で知り合いになっだけど、私にとっては面白い友達かなあ。夏休み終わったら何か変ったっていう話はちょっと感じる。うん」

「俺から見たらあいつは帰宅部の利益代表者。モタモタするのが嫌いで、それがために学級委員長に立候補してもいいって思っていたらしいのは言われた事がある。秋あたりから案外顔を突っ込んでくる事が増えたなあ。春頃の牙の隠しっぷりからみたら相当意外な感じはある」

「肇くん、折角、文化祭のクラスの展示で似合わない策士っぷり発揮しようとして冬ちゃんが全部吹き飛ばしちゃったものねえ」

「あれは本当に誤算」

真顔になった。よっぽど悔しかったらしい。

 ジュースのグラスを置いたミアキちゃんがふと顔を上げて紘子ちゃんの方に言った。

「お姉ちゃんが熱中している事って紘子お姉ちゃんなら分かると思うよ」

そういうと椅子を降りてキッチンの方へと向かって走って行った。

「お姉ちゃん、ケーキまだあ?」


紘子


 ミアキちゃんのいう冬ちゃんが熱中しているものは私なら分かるって何だろう?肇くんがふとこちらを見て言った。

「紘子ちゃんって冬ちゃんの部屋に泊っているんだよね?」

「うん。そうやけど」

「部屋にあるものを見てれば分かるっていうミアキちゃんの謎かけじゃないかな。だからこの中で唯一部屋の中を見ている紘子ちゃんにしか分からない」

「なるほど。それは何かなあ。あの子の部屋、本は多いけどあとはそんなにモノはないし」

「ふーん。それなら本棚の中身なんじゃない?」

とは陽子ちゃん。

「本棚ねえ。海関係の本はいろいろとあって珍しいなあとは思ったわ、ってまさか海関係の仕事目指してるの?」


 そこに冬ちゃんたちがケーキを持って入ってきたので自然と話は終わりとなった。

「おまたせ。こちらは肇くんが作ったっていうフルーツケーキ。こちらがお父さんと私の力作だから残さず食べてね」

 冬ちゃんとお父さんが作ったというケーキはブッシュ・ド・ノエルだった。お母さんがコーヒーのカップをみんなに回してくれた。ミアキちゃんはミルクたっぷりのコーヒー牛乳だ。

 ブッシュ・ド・ノエルとフルーツケーキを1つずつお皿に切り分けられて来た。ブッシュ・ド・ノエルはビターなチョコレートで仕上げられていて上品。コーヒーを一口飲んで次はフルーツケーキへ。こちらはしっとりとしていて、これはこれで素晴らしい一品でした。肇くんって冬ちゃんのお父さんと良い勝負出来そう。いやあ、明日以降節制しないと体重怖い。

 冬ちゃんが感想を聞いてきた。

「美味しいよ。チョコが甘過ぎなくて良い」

「ほら、お父さん。今時の女子はビターな方が好きなのよ」

「うーん。もう少し甘くしてもいいと思うけどね」

「俺もそう思います。ケーキは甘いからいいんですよね」

女子高校生を裏切ったな、肇くん。

「肇くん。今時の女子に受けるケーキは砂糖控えめだと思うよ」

「そういう陽子ちゃんはパフェが好きなくせに。言っている事が矛盾してるんじゃないか?甘い事は悪くない。認めようよ」

無謀にも容赦なく切り返す肇くんであった。


 陽子ちゃんから質問があった。

「ねえ、雄一さんと紘子ちゃんは明日は高速バスで帰るの?」

「うん。夜のバスを予約している。お昼はこっちの映画館で有名な所があるから行こうと思ってる」

「え、何見るの?」

「『バードさんの日本旅行記』やけど」

「あの映画、尻上がりに評判いいよねえ。学校でもチラホラ見たって人いるよ。映画は午前か昼だよね?……明日の夕方、私のバイト先のカラオケに来る?バスタからもそんな遠くないから時間調整にいいと思うけど。私も夕方には終わるから合流して見送りに行きたいし」

冬ちゃんが乗ってきた。

「それ、いいんじゃない?」

「肇くんは来れる?」

「夕方なら行けると思うよ」

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