「冬」 4 クリスマス・パーティー(12月24日)

雄一


 家に戻るとミフユがケーキ作りの手を休めてみんなの昼食を作って待っていてくれた。

ミフユ曰く、

「夜は豪華になるはずだし、外は寒かっただろうからシンプルにお蕎麦にしてみた」

との事。外は確かに寒かった。熱々のお蕎麦が美味しい事。いい仕事してますねえって古いな。シンプルな一品だったけどうまかった。

 昼食を取りながらキッチン利用時間の組み立てを検討した。

「紘子の煮豚は先にやらないとダメやな」

一度茹でてワインで煮込むらしい。

「ねえ、紘子ちゃん。煮汁は何か考えてる?」とミフユ。

「あ、それ忘れてた」

「良かったら使わせて。カレーシチュー作ったら美味しそうだし。明日の朝をゴージャスに出来る」

「使って、使って」

まず紘子が煮豚を作り、その間にサラダを俺が作って、その後で刺身をさばく。ミフユとおじさんはオーブンでケーキを焼き上げるというような感じで進める事になった。ミアキちゃんはみんなの助手で駆け回っている。

 おばさんは昼食後、夕方からのミアキちゃんの小学校のクリスマス会の準備とかで「ごめんね!」と言って飛び出して行った。


日向肇


 12月のクリスマス。陽子ちゃんへのプレゼントどうしようかなという事だけ心配していればいいと思っていた。そんな事を考えながら朝、教室に入ると古城が近寄ってきて不意打ちを食らった。

「呉の幼馴染みの高校生二人がクリスマスの連休に遊びに来るんだけどホームパーティーやろうと思ってるんだけど、陽子ちゃんと日向くんを招待したいんだけど、予定はもう決まってる?」

「陽子次第かなあ。特にまだ何も予定はしてない」

「えっ、初めてのクリスマスでそういう彼氏ってどうかな?」

「あいつは勿論大事な友達だけど。付き合っているという情報はガセだって何回言えばいいのかな?」

「じゃあ、陽子ちゃんがOKなら来てくれるんだよね?」

「それは仕方がないな。あとであいつに聞いて返事するよ」

「分かった。前向きな検討、よろしくね」

古城は陽子と仲が良い。まあ、行く事になるんだろうなという結果の予測は出来た。


三重陽子


 12月のクリスマス。肇くんへのプレゼントをどうしようかなという事だけ心配していればいいと思っていた。ああでもない、こうでもないと色々と考えながら教室で級友とランチを取っていると珍しく肇くんが誰かを探している感じでやって来て視線があった。

私は彼に分かったと合図を送り、弁当箱を片付けると廊下で待っている肇くんの所へ行った。

「古城からクリスマスのホームパーティーに招待したいけどどうかな?って言われた。あいつの呉の幼馴染みの高校生二人が遊びにくるとかで誘ってくれてる。俺と陽子ちゃんを招待したいんだそうだ」

「面白そうじゃない。だいたい私達予定まだ決めてなかったし」

「そう言うと思った。」

「肇くんは気乗りしない?」

「いや、別にそんな事はないよ。どのみち陽子ちゃんと遊びに行きたいなあとは思ってたし」

「じゃあ、OKしておいて」

「わかった。教室戻ったら言っとく」

そういうと肇くんはA組に戻っていった。


 その日の夕方、ミフユから私達宛にメッセが届いた。


ミフユ:二人とも招待を受けてくれてありがとう。一つだけお願い。何か食べ物は一品持ってきて。作っても買ってきてもそれは問いません。


結構、悩ましい条件付けてきた。アメリカのテレビドラマのホームパーティーシーンを見て思いついたのかな。肇くんにだけメッセした。


陽子:肇くん、料理大丈夫?

肇:ん?最悪何か買っていく方向になるかも知れないけど、カップケーキぐらいは作れるから。

陽子:え?それは初めて聞いた。

肇:中学生の時はよく作っていたけど、高校入ってからは忙しくなって、しばらくやってなかったからね。

陽子:それは残念だけど納得。


 これなら私が心配しなくても料理問題は大丈夫さそうだ。それにしても肇くんも中々、そういう事もやる人なんだ。ちょっと驚いた。


日向肇


 陽子ちゃんとは15時30分に駅の南口改札前で待ち合わせしていた。家を出る時、父が寂しそうにしていたが、そりゃあ、あんた、高校生の息子に期待する方がどうかしている。身から出た錆。巻き込まれた俺はどうだというのか。

 そう言いながら作ったお菓子を1つ置いて「余ったから食べていいよ 肇」と書き置きしてきたのは我ながら甘いと思う。

 駅には10分前には着いた。そして陽子ちゃんは既に来ていた。あいつ、どこまで負けず嫌いなんだが、好きな友達との待ち合わせでそこも優位に立とうというのかとたまに思う事がある。それが陽子ちゃんなんだけどね。

「まだ約束の時刻前だよな。だから待ったぁ?なんて聞かないぞ、陽子ちゃん」

「ふふふ。肇くんにも可能な限り全力を尽くして勝ちを目指すのは私のポリシーだから」

これだもんな。

 陽子ちゃんはロングコートにセーター、パンツルックでマフラーを巻いていた。完全冬季装備だな。こっちはダッフルコートの下はブレザーを着てきた。これならなんとかバランスは取れてるだろう。

「じゃあ、行こうか」

頷く陽子ちゃん。少し陽が落ちてきた中を一緒に歩いた。

「で、肇くんは何を作ってきたの?」

「色々考えたけどお菓子にした。古城ん家、妹さんとご両親もいるから少し多めにしてある。陽子ちゃんは?」

「メインディッシュを一品とあと野菜の酢漬けをいくつか瓶詰めにしてきた。おやつみたいにつまめるでしょ」

「なるほどね。それは美味しそうだ」

 古城に確認してなかった事を思い出して陽子ちゃんに聞いた。

「そういえば呉の幼馴染みってどんな人達なのかな。高校生二人組としか聞いてないけど」

「ミフユと会った時に話をしていたら、同じ学年の女の子と1年上の男の子だって。お祖母ちゃんの家のご近所さんでそれこそ小学校より前から知り合いだって言ってた」

「まさしく幼馴染みって関係か。しかし男女で泊まりがけの旅行って凄いな」

「冬ちゃん家に泊まれる事になったから成立した旅行だと思うよ。引っ付いちゃえばいいのに、お互いによく分かってない面倒くさいカップルとは冬ちゃんが言ってた」

「ふーん」

そんな話をしていたら古城の家に着いた。2階建ての一軒家。築年数は経ているみたいだけど手入れは行き届いていた。


三重陽子


 肇くんが玄関のベルを鳴らした。

「はーい」

小さな女の子の声が聞こえてパタパタと駆けてくる音が響いてきた。

冬ちゃんの妹のミアキちゃんがドアをえいやと押して開けてくれた。ミアキちゃんも着飾っていた。どうやら出かける直前だったらしい。

「あ、陽子さんと学級委員長の人だ。ごぶさたしてます。お姉ちゃん、来たよ」

「こら、ミアキ。いらっしゃったよ、でしょ」

奥のリビングの方からエプロン姿の冬ちゃんが出てきた。

「いらっしゃい。寒かったんじゃない。上がって、上がって。コートはこっちに掛けておくから頂戴」

 奥に案内されるとキッチンでは背の高い少し童顔ながらよく日に焼けた男子高校生が包丁をふるっていた。なんとお刺身を作っているところだった。そばではそれを見ている女子高校生がその腕前を惚れ惚れとして見ていた。

 初めて会う古城のおじさんもジャケットを着て外出の準備をしていたので二人で挨拶した。

「おじゃまします」

「よく来たね。これからこの子の学校のクリスマス会なので失礼するけど楽しんでいってね」

「じゃあねえ」

ミアキちゃんが手を振って二人は出かけていった。

「いってらっしゃい」

後に残る高校生達の声が響いた。


「冬ちゃん、持ってきた料理どうしたらいいかな」

「お皿に盛り付けて出した方が良いものは出しちゃおうよ。後にした方がいいのは一旦待避」

 リビングに置かれた食卓の上は結構一杯になっていた。

「古城、俺はお菓子だから後でいいぞ」

「了解。日向くん」


 野菜の酢漬けは先に出す事になった。私の持ってきたメインディッシュはラム肉のスペアリブを焼いたものだった。癖のあるお肉なんだけどうちの秘伝の漬け汁だとあまり気にならないのでこれにしたけど、母には博打だよと呆れられた。「彼氏も来るんでしょ、大丈夫?」とか余計なお世話じゃない、それ。

「もう焼いておいたんだけど、出す前にフライパンで温めたいけどキッチン借りていいかな?」

「もちろん。遠慮無く使って。ただ先にオードブル食べて机の上開けてからでいいかな」


 冬ちゃんから呉から来た雄一くんと紘子さんを紹介された。

「じゃ、紹介するね。こちらが呉の幼馴染みの高校2年生の佐呂間雄一くんと私達と同学年の出雲紘子さん。そして私の学校でクラスメイトで学級委員長の日向肇くんと別のクラスのやっぱり学級委員長の三重陽子さん。まずは自己紹介回していって」

「じゃ、俺から行こうかな。呉から来た佐呂間雄一です。ミフユのお祖母ちゃんの家の近所の者です」

「ついでに年長者として乾杯の発声してよ」

容赦なく振り込んでいく冬ちゃん。

大慌てでグラスにジュースを注ぎ合う。

「じゃ、まずはクリスマスを祝い、お互いに楽しく過ごせればいいなあと思います。乾杯」

「かんぱーい」

その後紘子ちゃんと私達の自己紹介を終えると冬ちゃんは

「さあ、一杯料理あるからね。話しながらガンガン食べていこう」

と言った。


 食卓の上には野菜の酢漬け、赤ワインの煮豚、野菜サラダ、お刺身が並んでいた。お互いに美味しいと称え合い、作り方について意見交換した。メインディッシュは私のラム肉のスペアリブとバゲット。冬ちゃんのお母さんが下拵えしてくれたという鶏肉の炙り焼きがあった。

「冬ちゃん、ご家族の分は取ってるよね?」

「うん。味見したいとか言っていたから少しよけてさせてもらってるから」

よしよし。


 呉と川崎の高校生で話はどうなるかなあと思っていたけど、同じ世代同士たわいもない話で盛り上がった。


「アトラクションランドに行くのは夢でたまにそんな話をしていたら雄一くんが俺の受験前に行こうって言ってくれて。昨日は朝から夕方まで堪能したから、次はいつになるか分からないけど夜のパレードとか見たいなあって」

「俺だって一度は行って見たかったんだよ。ある意味、紘子の夢に便乗しただけ」

「いいなあ。久しく行ってないんだけど一緒に行く?肇くん」

と水を向けてみたら思っても見ない返事が来た。

「俺、実は行った事がないんだよな。心境的には雄一さんのいう事分かる。一度は行ってみたいと思っていたから陽子ちゃん、年明けたら行こう」

「あら、思ってもみなかった積極性だけど、それはどういう心境?」

「まあ、一人じゃ中々いく気になれないからね。陽子ちゃんをダシに観に行こうという」

「もう!」


「冬ちゃんはどうなの?」

「えっ。私はミアキを連れて行ったよ。その前は私が小さな頃にお父さんとお母さんと行った事あるし。私はしばらくはいいかなあ。そこまで好きなキャラクターもいないし」

『そういう理由!』

紘子ちゃんと私が思わずハモってしまった。

「正直、あんまり興味ないんだよね。ごめん。妹と行ったのもあの子が行きたいって言い出してじゃあ私が連れて行こうかってなっただけだから。行けば頑張って遊んで回るけど、それはそれって感じかな」

冬ちゃんはそう言ってニコッとしてきた。


「じゃあ、メインディッシュ、いきましょうか」

と私は提案した。

「手伝うから」

そういうと冬ちゃんと私はキッチンへ向かった。


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