「秋」 7 祭を終えて・エピローグ

ミアキ


 お姉ちゃんがお母さんに声を掛けた。

「お母さん、こっち!」

そしてクラスの人達がみんな注目していた。うちのお母さんは小学校のお子ちゃまたちのお母さんに比べてちょっと年上なんだけどとってもきれい。私達の自慢のお母さんだ。お姉ちゃんのクラスメイトが驚くのも無理ない。

 お母さんがやってくると、怒られるかなと思った。

「こら。ミアキ。ちゃんと行くなら行くって電話かメッセしなさい」

「家にメモ書いて置いておいたよ」

「私が早く帰ってきた時の事を考えてたでしょ?メモにしたのは時間稼ぎかな?」

バレてた。お母さんはお見通し。

「ごめんなさい」

「私もお父さんもお姉ちゃんもミアキがちょっと大人になっているって分かってなかったのはごめんね。ちゃんと言えば分かってくれたんだよね」

「うん。わたしこそごめんなさい。今後はちゃんと電話やメッセでいうようにします」

お母さんはお姉ちゃんの方へと振り向いた。

「じゃ、ミアキと私はこれで失礼するわ」

「あ、お母さん。17時までは私も空いているの。時間もあるし三人でまわろ。お父さんがいないのは申し訳ない感じあるけど。あと紹介したい友達もいるし」

「え、まさか彼氏?」

「違うよ。女友達の親友だよ。彼女の彼氏よりどう比べても彼女の方がかっこいいけどね」

 お姉ちゃんのクラスメイトの委員長の人が咳き込んだ。

「おい。古城。事実でも言ってくれるな。俺だって傷つく」

「あいつがその子と付き合ってるの。クラスメイトで学級委員長の日向くん」

「娘が口が悪くてごめんなさいね」

謝る母。

「いいえ。気にしないでいいですよ。いつもは良い奴だって知ってますから」

そう委員長の人は返していた。

「どんどん言い返してやって下さいね。これからも娘をよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ」

「お母さん、行こう。私、お昼食べられてないんだ」

「あら、奇遇。私もそうなのよ」

「ミアキが気になっている模擬店があるって。あと面白い喫茶店をその陽子ちゃんって子が仕切ってやってるからさ」

「面白そうね」

そういうと私達親子三人は廊下へと向かった。


日向 肇


 古城がお母さんと妹の後に続こうかというところで立ち止まった。外の窓から差し込む柔らかい日射しが彼女を包み込んでいた。

彼女はこちらの方へ振り返った。その時、彼女の伸びた髪が一瞬、花のように広がった。

「委員長、また夕方最後の班が入る時までには戻るから」

「ちょっとぐらい遅れても良いぜ。助かったよ。古城。お母さんと妹さんと楽しんできてくれ」

「ありがと。委員長」

 古城はニッコリ笑うと手を振って教室を出て母親と妹を追って行った。


ミアキ


 夕食の準備をお母さんと私でしていると、お父さんとお姉ちゃんがそれぞれ帰ってきた。お父さんは今日お姉ちゃんの文化祭に行けなかった事を悔しがっていた。食後にみんなで私やお母さんがスマフォで撮った写真を見たんだけど、お父さんからは「面白そうな文化祭だね」と喜んでみてくれた。そして「来年は是非みんなで見に行きたいな」とも言っていた。私も同感。


 お姉ちゃんは17時前に私達と別れて教室に戻った。そしてバザーの追い込みと後片付けをして夕食前には帰ってきたんだけど、その時、何故か自転車に乗っていた。バザーで最後まで残っていたけど、前に乗っていた子が大事にしていてよさそうだから買った、買い物とか私と一緒に行く時にも乗れるしと言われた。

 お姉ちゃんと一緒にサイクリング出来るとかちょっと思ってなかったな。楽しみが出来た。


ミフユ


 バサーは自転車を除いて売り切った。この時点で売上数159点、売上高55000円だった。そして自転車も最終的に売れた。というか私が買ったので売上高60000円ちょうどになった。これらは翌日、日向くんと私が打ち上げ前に待ち合わせて銀行で振り込みを行い翌週月曜日には学校に報告書を提出して企画委員の全業務を無事終了した。

 自転車はなんとなく誰かが買わなきゃと思った。自転車がとてもきれいだったしバザーで決まった価格なら安い。値付けした側なので他に希望者がいなければという程度だったんだけど、いなかった。そして持ち主でバザーに提供してくれた姫岡くんも置いておく場所も困っているので良ければ買って欲しいなと言ってくれた。こうして私の手元に来た自転車はミアキと遊びに行ったり買い物に行く際に愛用している。


 翌日の振替休日の日に当初予定のなかったカラオケ打ち上げがあったのは、あの本のおかげと言える。岡本先生が日向くんになけなしの小遣いから2万5000円ほど渡してカラオケで打ち上げやって来たらいいよ(但しノンアルコール厳守)と言ってくれたのだった。先生にとっては奥さんとの関係で起きた本来家庭内の事件に生徒も巻き込んだ事への謝罪の意味もあったのだと思う。

 カラオケはサッカー部の島岡くんとバレーボール部の秋山さんが名乗り出て幹事を引き受けてくれていたので、日向くんも私も何もする事がなかった。みんなが歌っている間に少し話をした。

「岡本先生にお金預かった時、出席されないか聞いてみなかったの?」

「勿論、言ったよ。流石にあの騒動でみんなに迷惑掛けたから生徒だけで楽しんでくれって言われた」

「なるほど。そういえば今日、陽子ちゃんはどうしてる?」

「この後、会う予定にしている。あいつも今、打ち上げと食券贈呈式やってるよ。めっちゃ悔しがっていたけど仕方ない。相手が頑張ったって電話で言ってた」

「なるほど」

「時間あるなら来ないか。あいつも応援のお礼したいとか言ってたし」

「邪魔じゃないの?」

「全然。文化祭を振り返るならお前もいてくれた方が面白い話になりそうだし。ちなみにパフェの美味しいお店に行く予定になってる」

「お邪魔じゃければ、行こうかな」


 先生は相変わらず優柔不断な所があったけど、あれからちょっとかわった。生徒に意見を聞いてから判断する事が増え生徒からも信用される人に変った。

 妹に言わせれば「りこん」したらやってけない人に見えたとかいうけど反省はされたのかな。そこまでしてあの人を変える事になったあの本は奥さんとの間でどんな意味があったのだろうかというのは少し頭をかすめたが、確認する術もない話なのでそのまま忘れていった。ただ、たまに先生が奥さんの惚気話を言う事が増えてきたので何か良い方向に変ったのだろうと勝手に思っている。


 1年E組の「中央高マナーハウス」の執事、メイドのキャバレーまたはホストの人気競争のスペシャル定食券10枚争奪戦はたった1ポイント差で「のだ ともあき」くんがかっさらった。陽子ちゃん、大変悔しがったけど、あいつの覚悟に負けたと言っていた。

 お母さんを連れて行った時のアンケート投票では私は陽子ちゃんを選んだけど、どうもお母さんは「のだ ともあき」くんが気に入ったらしくアンケート投票でも彼に一票投じたらしい。これが決勝点だったのかも知れない。

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