intermission
boy meets girl.
日向肇
県立中央高等学校は難易度は普通よりは上。でもトップクラスではないが、比較的自由な校風で知られている。父は仕事人間で大して相談に乗ってくれなかった。言われたのは、
「学費は出すから好きにしたらいい」
だけだった。高校でガリ勉するなら自分でするし、わりと近くて自由な気風の方が好きだったので中央高に願書を出して無事合格した。
1年A組はどうやら一家言持つ変人奇人が集まった学級だった。担任で数学教諭の岡本先生も少し頼りない印象を受けた。入学式の後、教室で学級委員の選任があった時、岡本先生が学級委員長のなり手がおらずクジ引きとか言い出しかねない情勢だったので、手を挙げて立候補した。
「なり手がいないなら、俺がやりますよ」
対抗馬もいなかったのであっさり俺が無投票で学級委員長に選任された。
もう一人手を挙げかけた奴はいたらしいとは本人から後で聞いた。多分その子がクラス一番の変人だと思うのだけど、俺と同様にイライラする展開を嫌うらしいと知って、たまに話をしたりするようになった。その子の名前は古城ミフユといった。夕方は家の事をやっているとかで帰宅部。このクラスは運動部、文化部と帰宅部の勢力が拮抗していた。調整が必要な時に帰宅部利益代表として古城の意見と調整を当てにするようになった。
学級委員長選挙の翌週の事。朝のホームルーム後に岡本先生に生徒自治会の学級委員長会議が今日16時からあるから生徒自治会会議室に集合との連絡が来ているから出席するようにと指示があった。
「岡本先生。今日の16時ですか?」
「職員室で生徒自治会の顧問の先生からはそう伝えて欲しいと言われたぞ」
「そうですか。わかりました」
流石にその日の朝の連絡で夕方には開催とか無茶が過ぎるが、幸い予定はなかった。
16時前に生徒自治会の会議室へ行った。運動部所属の人はユニホームや練習着を着て出席していた。長机は口形に配置されていたので、端の方へ座った。直後に駆け込んできた女子生徒がいた。彼女は部屋を見回すと空いていた俺の隣の椅子へと座った。美しい黒髪が肩の下までのびている。そして前髪を切りそろえた美しい人だった。
ほどなく、2年生で副会長の渡さんと他の生徒自治体幹部が数名会議室へ入ってきた。中肉中背で眼鏡を掛けた一年生を見下ろしているような印象を受ける人物だった。
「1年学級委員長の皆さん、こんにちは。生徒自治会副会長の渡です。今日集まってもらったのは、生徒自治会役員との顔合わせと自治会の説明が目的です」
急に隣の椅子の音がした。先ほどやってきた女子生徒が立ち上がっていた。
「すいません。1年E組の三重です。今日のこの会議の案内、今朝先生から言われたんですが、どうなってるのでしょうか。顔合わせは必要だとは思いますが、朝言われて、夕方集まれはないと思うんです」
渡副会長が「何を言っているんだ、こいつは?」という顔をしていた。
俺は手を挙げたが指されるのを待たずに勝手に話し始めた。
「1年A組の日向です。今の話は同感です。俺も今朝担任から言われました。予定がたまたまなかったから来ましたが、そうじゃなかったら当然予定優先してましたね」
渡さんは激怒と困惑をしていたらしく、顔を真っ赤にして言葉に詰まっていた。そこに3年生の生徒自治会長の神村さんが会議室へと入ってきた。
「遅れてごめん。っていうか渡、連絡ってもっと早くに顧問の先生にお願いしたんじゃなかったのか?」
渡副会長は顔を真っ赤にしたまま、ポツっと言った。
「先週のうちには言ってましたよ。あの人、俺の担任でもあるんですから。で、あの人が昨日までどうやら忘れてたみたいですね。それ以外に理由は思い当たらない。残念ながら1年の担任に伝わったか分かる手段はないですから」
神村さんが溜息をついた。
「おまえのところの担任がまさか職員会議の伝達依頼を言ってくれてなかったなんて分からなかった訳ね」
「はい」
神村会長は渡副会長と何か小声で話をしていた。渡副会長は何か抵抗していたが会長に説得されて黙った。
神村会長は正面の席に行くと頭を下げた。
「執行部の不手際だ。この点はこんな酷い条件でも集まってくれた1年生の学級委員長の5人諸君に謝る。部活の格好をしている人もいるな。今日の議題は緊急性はないのでまた後日きちんと案内した上で開催とさせてもらいたい。本当に申し訳なかった。これに愛想尽かさずに協力して欲しい」
そういうと神村会長は再び頭を下げて渡副会長についてくるように言って隣の自治会事務室へと引っ込んだ。
B、C、D組の委員長は部活組だったので、ホッとした顔ですぐ会議室を出て行った。俺とE組の三重さんも続いて会議室を出た。彼女はスクールバックを肩に掛けていた。
「三重さんだったっけ」
俺は声を掛けた。
「もし時間があるなら、甘いものを食べてこの怒りを忘れにいかないか?」
彼女はフッと笑った。
「何それ。デートのお誘いなのかな?」
「いや。全く違うな。さっきの啖呵の先を越された事、その勇気への敬意を表したい。俺も不愉快だから甘いものでも食べて忘れたい。そういう場への誘いだけど。勿論、これはおれの奢り」
彼女が笑顔になった。
「いいけど、店はどこ?」
「実はいいパフェを出す店を知っている。穴場だ。きっと君も食べたら納得すると思うんだ」
「パフェはねえ。実は大好きなのよ。とっても気になるなあ。そのお店、行きましょ」
三重さんと肩を並べて下足箱へと向かった。俺はスマフォを取りだしてフォトアルバムに入っているパフェの写真を探し出すと三重さんに見せた。
「こういうパフェが食べられる所だけど、知ってる?」
それは入学試験の後の帰り道、たまたま見つけた珈琲店で見つけて入ったお店のフルーツ・パフェだった。
「果物が色々とてんこ盛りだね。このフルーツパフェは見た事ないから楽しみ」
良かった。三重さんも知らない店なんだと内心ホッとした。
ミフユ
11月4日、クラスのカラオケ打ち上げの後、陽子ちゃんと日向くんと三人での文化祭打ち上げをしにとある珈琲店に入った。
「……へぇ。そういう初めてのデートのお店なんだ。ここ」
『いや、デートじゃないから』
日向くんと陽子ちゃんの二人がハモって文句を言ってきた。
いや、それがデートじゃなかったら、何だって言うの?とは思ったけど、これ以上言っても、また仲良く反論してくるだけだから止めておいた。
「それより、ミフユ。聞いてよ。マナーハウスの食券争奪戦、僅差で負けちゃったのよ。アンケートであと一人私に入れてくれたら勝ったのになあ」
「二位だったんだよね。あんな美人執事は他にいないよ。私の中ではダントツ1位。隣にいる誰かさんよりめっちゃ美男だったからさ」
「古城はトコトン俺を貶めるなあ」
「だって、事実じゃん」
なんて少々彼にはひどい事を言っていたらフルーツパフェが3つやってきた。
『ええい。やけ食いだ』
陽子ちゃんと日向くんの二人がまたハモって猛然とフルーツパフェに挑んでいった。ほんと、ごちそうさま。
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