「秋」 4 ミアキの大作戦

ミアキ


 わたしは退屈していた。学校は休日で休み。お母さんは仕事の調整がうまくつかなかったと言って、午前中は仕事だからと出勤していったみたい。お父さん曰く何か思いついたみたいで「いつもより1時間も早く飛び出して行ったよ」と言われた。お母さんからは前夜に仕事が早く終わったら買い物に出かけいようかと言われた。ただ時間の確約が出来ないから家に電話するねと言われたけど、こんなので当てになるのかな?

 お父さんも仕事だったけど、遅くに出れば良かったらしくお姉ちゃんとわたしに朝食を作ってくれた。チーズオムレツ。形もきれいでふんわりしていて美味しかった。いつかお父さんに作り方を教えてもらおうって思っている。

 うちのお父さんはよく台所に立って料理をしている。学校で話をすると何もしないお父さんも多いらしい。そんなので「りこん」されたらどうするんだろう?、だって海外ドラマじゃお父さんと小さな子どもだけとかよくあるじゃんって思うのだけど。うちはお父さんとお母さんは「らぶらぶ」だからそんな心配はないし。それにお父さんの料理とか洗濯とか家事の巧さ見ているとそんな事があっても普通に日々をこなしていくと思うし。

……なんて事を考えている場合ではなかった。退屈なのだ。小学1年生最大の敵。今日は海外ドラマとか映画で見たいなあと思えるものがやってなかったのだ。

 朝食の時、お父さんがお姉ちゃんに何か聞きたそうにしていたけど、お姉ちゃんがお父さんを睨むと黙っていた。不思議。何だったんだろう。そういえば、お姉ちゃんの挙動がおかしい。また何かわたしに隠し事をしてるんじゃないか。

 お姉ちゃんも何故か今日は制服に着替えて学校に行った。「ほしゅう」があるからと言っていて、お父さんはお姉ちゃんの言った事に対して何かあきれた顔をしていた気がする。

休日で小学校が休みなら高校も休みの筈なのに。夏休みとか違いはあるけど、こういうカレンダーに印刷されているような休日、祭日には違いはないはずだ。

灰色の脳が何かおかしいよって言ってる。

 そういえば、この間、お父さんと映画を観に行った。お父さんが最初、お子ちゃま向けアニメ映画をわたしに見せようとしたけど、もう少し年齢層が上の面白そうな作品があったのであの手この手で説得して(いうほどお父さんだってお子ちゃま向け作品の事を知らなかった事も幸いした)そちらにしてもらった。その作品では高校生達たちが学校のお祭り「ぶんかさい」っていうのをやっていて、学校が終わった後の学童保育的なもの、高校生だと「ぶかつどう」っていうらしい、で作った文集を巡ってのミステリーをやっていた。「ぶんかさい」は春か秋頃にやるものらしい。

 そしてひらめいた。今日、お姉ちゃんが出かけた理由も「ほしゅう」とかじゃなくて「ぶんかさい」なんじゃないかな。

これは行ってみたら分かるんじゃないかな。

もし「ぶんかさい」なら中にはいれるんじゃないかな。


 思いついたら吉日。お父さんがわたしのお昼にって作っておいてくれたサンドイッチをまだ早いけどパクッと食べた。そして食卓の上に「あそびにいってきます。スマフォは持っていくから。 ミアキ」とメモを書いて残しておいた。もしわたしに隠し事しているなら下手にSNSメッセとかで連絡したら、すぐ行くなって言われるに決まっている。これならとりあえず連絡が来るまでは時間が稼げる。準備が出来るとヘルメットをかぶって自転車に乗って家を飛び出した。


ミフユ


 私は教室へ戻ると紙袋の件を第1班の子たち4人に伝えた。

「紙袋、岡本先生からの寄付の本だったわ。今朝早くに鍵を開けて置いたんだって」

4人とも呆れ顔になった。

「何、それ」

「あの人、小売業とかバイトした事ないのかな。仕入れから販売までの段取りって思いつかないのかな」

ぶーたれるクラスメイトたち。確かに無理ないわ。

「ほらほら。そうは言っても善意の寄付なんだからさ。あまり文句は言わないの。台帳に載せて並べよう。悪いけど手伝って」

「古城がそういうならやるけどね。それにしてもひどいや」

家が果物農家だという東峰くんが呆れ顔でみんなの意見を集約してくれた。


ミアキ


 お姉ちゃんの高校に着いた。やけに賑やかで看板とか色々と出ている。前に来た時はこんなのなかった!

 門の近くにいたお姉ちゃんの学校の制服を着た線の細いお兄ちゃんに聞いてみた。

「これってぶんかさいですか?誰でも見られるんですか?」

「そうだよ。小学生かい?大歓迎だから見ていってね」

「分かりました。自転車止められる場所ってあります?」

「あるよ」

そういうとその人は場所を教えてくれた。

「日向くーん、こっち。見て!この格好どう?」とその人は少し離れた場所にいる美男子な紳士の美人の女の人に声を掛けられていた。

「じゃあね。楽しんでいって。……陽子ちゃん、今、そっちに行くから」


 やっぱり「ぶんかさい」だった。お姉ちゃんは何がなんでも妹のわたしに来させないためにお父さんとお母さんの口封じをしてまで隠していたのだ。見ていいそうだから存分に探検して行こうっと。


ミフユ


 担任の本をさっと状態確認。さすがに問題はなさそうだった。台帳に記入して管理票を付けて本のコーナーに並べた。そうしているうちにお客さんがポツポツと入ってくるようになった。

「いらっしゃいませ!」

笑顔で対応する店員じゃなかった、第1班のクラスメイトたち。接客対応のバイトをやっていた子が三人も入っているので、この点は円滑だった。

大半の人は和やかに眺めて次の教室へと出て行く人達だったけど、本やCD、DVDを手に取って表、裏とよく見ている人もいて、その中の一部の方は買ってくれた。10分で2,3名程度。中々意気の上がりにくい時間帯。数あるバザー品の中で自転車に関しては呆れ気味な人が多かった。

「ちゃんと防犯登録の名義変更が出来るように書類が揃ってますよ」

とアピールしてみたけど苦笑いして立ち去っていく人ばかりだった。仕方ないか。

 小さな子たちが廊下を駆け回っているのが見えた。ミアキが来たら大変な事になるだろうなあ。父は朝はゆっくりだったけど、その後は仕事で来れないと悔しがっていた。母は午後からなら来れるかもという事で、来れる場合はミアキを連れてきてくれる事になっていた。ただ、どうなるか分からない部分があったのでミアキには情報管制をして伏せていたのだけど分かってくれるかな。


 そうしているうちに最初の当番が終わり第2班に交代した。

「ミフユ、お先。何かあればメッセしなよ。手が空いてたら来るから」

長谷部さんなんかはそんな事も言ってくれた。

 第2班は運動部と帰宅部の5人混成チームだった。大丈夫かなと思ったら案外、話せる関係の組み合わせをしていたらしく和やかに始まった。日向くん、結構人を見て組み合わせを決めてくれていたのがよく分かる。そして客は昼前なのでまだまだ少ない。

 そんなところへコスプレの準備を終えたらしい陽子ちゃんがやって来た。長めのベンチコートを着ている。どうやらコートの下にコスプレの衣装は隠しているらしい。

「冬ちゃん、売れてるの?」

「ボチボチかな。まだ時間が早いから人の流れが少ないし。日向くんは一緒じゃないの?」

「一緒に見て回ってたんだけどお互いのクラスは一人で行こうよとなってね。入れ替わりで来たって訳」

「ふーん。陽子ちゃんと一緒の所、自分のクラスメイトに見られたくないだけじゃない?」

「そうなのよ。何を今更って気がするんだけど」

「同感。というか彼が鈍感?」

「人の、あ、彼氏じゃないからね、とっても親しい親友の事を悪く言うな。韻踏んでいていいけど」

「ごめん、ごめん」

「うちの模擬店、結構いけてると思うから冬ちゃんも時間空いたら来てよ。私も午後からシフト入っているし」

「E組って何をやってるんだったっけ?」

「喫茶店。少し趣向は凝らしているからお楽しみに」

「分かった。じゃあ、午後には行くようにするね」

「来たら、私を指名してね」

「え?何、そのキャバレーだかホストだかのシステム」

「冬ちゃん、たまに性格だけじゃなく知識も言葉もおっさんみたいになるねえ。ホストはともかく今時キャバレーってどこでそんな知識覚えてくるのよ」

「ははは。ごめん」

 昭和時代の犯罪小説、警察小説とか読むとそういうの出てくるからなあ。つい染まっちゃう時がある。妹の海外ドラマオタクと良い勝負かも知れない。気をつけねば。


ミアキ


 お昼前。クレープとか焼き饅頭とか楽しみながら回っていた。どうして中々美味しい。お姉ちゃん達頑張って楽しんでるんだな。だから、わたしも楽しむ!と思っていたらスマフォが振動した。

 取りだしてみたらお母さんからSNSメッセが入っていた。まずいかも。


お母さん:家に電話したら出ないし。って事は家にいないよね。どこか遊びに行っているの?

ミアキ:お姉ちゃんの学校のぶんかさい

お母さん:えええええ?じゃあ、お姉ちゃんといっしょなの?

ミアキ:しらない。かってにみてまわっている。だってかくしてたでしょ、わたしに。たのしいよ。

お母さん:(−_−;)

お母さん:仕事が終わったら、ってちょっとおそくなりそうなんだけど、むかえに行くから。お姉ちゃんのところにいってなさい。1年A組のきょうしつをきいて、そこに行って。

ミアキ:えーーーーー。

お母さん:もっとおこられたいのかな?

ミアキ:わかった。お姉ちゃんのところにいってまってるから。


 そこに見えていた「コーヒー&チョコレートの世界」という模擬店が見えていて気になったけど、お母さんからのメッセの事もあったのでお姉ちゃんの教室を探して校舎の方へと向かった。

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