「秋」 2 1年A組の文化祭準備
夫
日曜日の夜、1年A組担任の岡本敏浩教諭は自分のクラスの何か手助けをしてやらないとなあと気に掛けていた。学級委員長がしっかりしているのでついつい「自治」という名目で何もかもやらせすぎたという事への後ろめたさもあった。
家で遅い夕食の際に妻の黎子にこの話をしてしまった。すると黎子は本が溜まっているんだから、あまり値段のつかないものを持っていけばいいじゃないと言われた。
たしかにバザーならそれがいいなと思い、本棚から10冊ほど本を見繕って紀伊國屋書店の紙袋に入れた。流石に漫画本という訳にいかず小説単行本やライトノベルから当たり障りのないものを選んで入れておいた。当日までに持っていけばいいか。
妻
水曜日の朝、夫が朝早く出て行った。今日が文化祭前日で明日の祝祭日が開催日当日なんだという。私は夫の本にうんざりしていた。すぐ増えていき廊下などに積まれていくのだ。掃除はし難いのでたまに本棚に押し込んで置いたりするけど、それを嫌がられる。なら整理すればいいのに。だから当てつけに本をバザーに持っていけば良いのよと言ったが真に受けてそうされてしまった。
減るのはいい。でも10冊ぐらい減ったからってどうだっていうの。そう思うと怒りが再びこみ上げてきた。
あの人、まだ本を入れた紙袋を持って行っていない。明日持っていくつもりなのか。こういうのは段取りとかあると思うのだけど、その辺りが杜撰なのはいつもの事か。生徒が可哀想になった。そして、ひらめいた。あの人が大事にしてくれている本を棚から引っ張り出すと、もう1冊思いついた事をやるために適当な本がないかと探し始めた。
ミフユ
文化祭は祝祭日になる木曜日1日開催で前日の水曜日午前中は授業で午後から準備に当てられていた。翌日は振替休日になるというスケジュール。
クラスメイトが持ってきたものは情報処理室で作った台帳用紙にどんどん書き込ませていった。40人分を分担してやってもらっているのでいうほど手間が掛かる作業ではなかったはずなんだけど、気付いたら、みんなが値付けに興味を持ってしまい難航した。本、服、CD、家電製品と思ったより寄付品の幅も広かった。
「動かないものはダメだからね」
企画委員、つまり私と日向くんがそう声を掛けて回った。若干の不届き者が見つかったが、動作確認係がチェックしてそういうものを弾いて持ち帰らせた。こうして問題がないと確認されたものだけ台帳用紙に書き込まれていった。そして一律価格から外れる服や家電品などは私と委員長で確認して値付けの最終判断を行った。
こうして全ての手続きを終えたものから一カ所にまとめて置いていった。
一番の驚きは自転車を持って来た子がいた事だった。よく手入れされていて状態はいい。わざわざ教室まで持って上がって来てくれた。
呆然とする委員長。
「マジか?」
私はもう何でも来いやという心境だったので問題がないか淡々と確認した。
「自転車って防犯登録があるよね。譲渡手続きは大丈夫?え、知っている。確認したって。偉い。登録の控えもあるのなら大丈夫だね。これ、誰の?自分ので新しい通学用自転車を買ったからどのみちリサイクル店で売るつもりだったから。なるほどね。売れなかったら持ち帰ってくれるならという条件付きになるけど、それで良ければ置いていいよ」
これじゃまるで質屋の人だなあと思いつつ対応した。
寄付は最低1点だけ。あまり高価なものはNGでという条件でみんなに頼んだけど、処分の機会とみたのか紙袋一杯に持ち込んできた子も結構いて、思ったより量が揃った。
夕方にはバザー品の受入れ作業も終わった。18時に委員長が全員集合を掛けると明日の当番表を改めてみるようにみんなに言った。
「今日の残り作業は明日の午後班の人でお願いします。机のレイアウト、バザー品の配置をよろしく。管理番号が商品から剥がれないように注意して下さい。その分、明日の君たちの当番は遅いんだから文句言わない!」
何やかんやいっても一番苦労しているのは日向くんだ。それはみんなも分かっているから、下手な担任の岡本先生からの指示よりもみんな言う事を聞く。そういう意味で信頼関係は出来ていて助かっている。
午後の班の主体を占める運動部と文化部の生徒が動き出した。
「ういーす。さあ、さっさとやって今日の仕事終わらせようぜ」
「おーう」
私も明日の午前組に声を掛けた。
「明日の第1班から第3班はこれで解散。帰宅していいよ。第1班は準備確認があるから悪いけど明日の朝9時30分には来てね。あと午前組は開会式にも参加だから遅刻厳禁でよろしく」
「あいよ!」
「じゃあねえ」
手を振りながら午前組の人達が帰っていった。
それを見ていた日向くんが声を掛けてきた。
「古城、お前も第1班からだろ。これで上がってくれ」
「了解。委員長。じゃあ、後はよろしく」
日向くんが少し笑いながら言った。
「古城、意外に明日の事、乗り気じゃないか?」
私は苦笑いしながら返した。
「どこが。誤解だよ、それ。楽しみにはしてるけどね。じゃあね」
ニヤリとしてスクールバックを担ぐと教室を出た。さて、家に早く帰って妹の面倒を見つつ夕食の準備をしなきゃ。
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