第二十話 活動開始
――レイドアース。
「ってゆーことがあったんだけどさ、面白くない?うふふ」
口角を釣り上げて大きな口で獰猛に笑う、金髪セミロング、青い水系魔物の鱗防具を付けた豊乳の女性。
「なんだと?それは面白いな。そして使えるな。その男は……こちらへ引きずり込んでは来れんのか?」
「ちゃーんと依頼、してよねぇ?」
雷獣のキャンディス。彼女の現在の所属はレイドアース国家公認の裏組織、〈星の爪〉。
請け負う仕事はいわゆる闇の仕事である。
表の顔は善良な二つ名冒険者。隠れ蓑ともいうが。
そんなキャンディスが話している内容は先日の馬車での出来事。不可解な事件に荒れているエアハートの内情、さらには謎のスキルを取得したという男。
レイドアースは人間至上主義、さらには国家統一までも悲願としている。
そのために必要な戦力を集めるべく余念がないのだ、そんな国へ持ち帰った情報が突然スキルを得たという男の情報。何の苦労もせずになぜスキルを手に入れられたのかスキルを手に入れる裏道があるというのなら是非その謎を解明し独占技術にしたいと。
キャンディスと話す男、オルソ=ペレッツ。頭から全身をすっぽり覆うローブを身に着け、肌の色は健康的ではない。キャンディスの方をちらりとも見ることなく、手元の試験管などに魔物のエキスのようなものを混ぜて反応を見ている。
そんな二人が話しているのはレイドアース地下の施設。地上への移動は階段である。
「しかし不安な要素も多いぞ。たった一人だけのサンプルであるし、なによりスキル付与の研究などどうやってしたらよいものか……。魔法を研究するのとはわけが違いすぎる」
「そこはなんとかしてよぉ、研究者だろー?、楽してスキルが手に入るんなら使い捨て兵の価値だってあがるしコストも削減できるじゃんか」
「簡単に言うな。魔法を研究するのでさえ難しいのだ。新しい術を組むのは神がそうできるもの、として魔法を授けたからできるがな。神の設定した範囲外の事をするのは困難を極める……。せめて神を解体してその力の根源を模倣できたりすれば変わるのだろうが……」
「まぁとりあえずその男の情報はあげたかんねー。エアハート国の男だからいつもみたいに連れ去りやすいんじゃなーいの?」
「それもそろそろ厳しい。エアハートの諜報員がそこそこの人数入ってきている、ああそうだ。そいつらの掃討も頼んだ。リストは後で作って送っておく」
「うへぇ、めんどい依頼だけど……殺せるのはいいかもねぇ」
蛇のように長い舌をだらんと垂らして唇を舐める。眼を細めて殺害の瞬間を想像し、ぶるりと震えるキャンディス。
「それにしても、この国子供殺しすぎでしょ」
ちらりと見るのは部屋の左右にずらりと並べられた人形のようにうつろな顔をした子供たち。身動ぎ一つすることはなく、衣服も身に着けてはいない。
「まだ死んでないだろ」
「これから死ぬ意外なにがあんのさ、感情を破壊して命令に置き換える魔法。怖すぎ」
「強ければこうなることもなかったのだ。お前のようにな。それとかなりの魔力反応を持つ子供を捕獲したそうだ、今回のはなかなかユニークな力だぞ」
後で見てみるよ、と振り向かずに手を振って部屋を後にする。
――中央塔上層階廊下。
「ふふふ……、俺転生したーー!」
と、菅原真が喜んでいたのは数か月前の事。さらに一か月ほど前までは転生時にもらえる強力スキルを駆使して無双の冒険者としてハーレムを作り上げていた。
彼の授かったスキルは〈心感爆破〉。仲間は猫耳メイドや、筋肉質の姉御肌、豊乳のエルフ、と美人ぞろい。
本で読んだ主人公の様に全てが順風満帆これから楽しい異世界ライフを満喫するはずだった。
だが一か月前、胸の大きい金髪の女性とパーティを組んだ真くん。
真はその強さゆえ、すぐさま都市中にその名が知れ渡り連日パーティを組まないかと誘われていた。大体が強さに憧れる筋肉質の男だったがたまに女性が申し込んでくることもあった。
変な噂が立つのを恐れて男女混合のパーティの女の子には手が出せなかったが、ある日一人でパーティを申し込んできた女性が居た。その金髪の女性は一人でいつも依頼をこなしているらしく、この世界で人間としてはかなり強い部類に入る二つ名と言われる存在らしく、周囲からも一目置かれていた。
真は自分の方がこの女性より強いと思ったがこの世界で認められている実力者から声を駆けられるのはとても良い気がしたのだ。このまま国の重鎮とか、英雄とかになれるのではないかと心躍らせた。
そうしてその金髪女性、二つ名雷獣のキャンディスと真率いるエルフ、筋肉姉御、猫耳メイドの五人パーティは依頼へ向かった。
内容はソルスライムという魔物の討伐。
真は後から知ったがこの魔物は冒険者ランク6相当でそこそこ強い。特徴は名前の通り巨大な土の塊が粘生体になっている。特殊攻撃などは無くただ物量で攻めるが物理が効きにくい。
真の転生する際に女神にもらった強力能力で出合い頭にすぐさま討滅したのだがその時残骸の飛沫を浴びたラディアスが体調が悪くなったという。そんな効力は無いと真以外の三人は思ったのだが二つ名に異を唱えるのはどうかと、尻込みし何も言わなかった。
その後看病の名目で二人きりになった時、真はキャンディスからベッドへ誘われ、迷うことなく素直に応じた。その最中に口移しにて中毒性の高い魔物のエキスを合成したオリジナルの混合薬を飲ませられる。
後は簡単にはめられてしまう真。薬を餌に魔法での契約を取り付け支配下に置く。
こうして簡単に転生者菅原真とそのパーティはキャンディスの、いやレイドアースの手中に収められた。
今回はたまたま転生者が餌食になったわけだが、転生者であることを知っているわけでもなく、異世界の存在を知っているものはこの世界にはいない。
強いとうわさになった者には同じような手で戦争時の手ごまとするべく近づいては陥れ、を繰り返しているのだ。
いつもうまくいくわけではなく、明らかに薬と相性の悪いスキルを宿していたり警戒心が高かったり、化け物みたいなステータスを持っている転生者には逃げられ他国へと亡命されているが、すでにレイドアースに従属している転生者は7人。さらに他国から集めた二つ名持ち3人に元々レイドアース育ちの二つ名を加えればかなりの戦力になる。
「くそが……なんとか解除方法はないのかよ!!」
そんな簡単に陥れられた真に毎日のようにいつもの如く割り当てられた牢屋の様な自室にて怒鳴り散らされる真パーティの三名。内容も毎日同じである。だが見た目だけで選ばれた彼女らにはそんな知識は無く、何とかしたいと街を奔走するもなかなか手がかりが掴めない。
今日もそうしてまごまごしているうちに指令が下り、アドリアーネへと新たな戦力集めに向かわされるのであった。
他種族排斥、人類統一、悲願へ向けて邁進するレイドアース。その闇は深い。
――牢屋にて。
魔法で行動を制限されていることもあり大人しく牢屋に入れられているキルシー。
そしてその前に立つベリト。
「特に何か聞こうとは思いませんが、とりあえず例の一団を討滅するまではここに捕まっていてくださいね。特にあなたに罪はないので」
「吠えてなさいよ、格の違いをそのうち知るわよ」
ベリトは何も言い返さず踵を返す。
今は言い合いなどしている暇はないのだ。大問題が発生したからである。だがベリトはようやくこの一連の依頼を達成し悩みが一つ消えることになると考えていた。
数時間前、異様に大きなカラスがアドリアーネ中央塔へ向かってきた。その嘴にはなにやら白い封筒のようなものが咥えられていたので、これはなにか動きがあったと判断したベリトが騎兵団に迎撃を辞めさせる。
撃墜されることなく無事にその封筒を中央塔屋上の一角に落とし、カラスの姿は一瞬のうちに消えてしまった。
またも手がかりを失うことになったがメッセンジャーの情報などどうでもいいのだ。問題なのはそのメッセージの内容。
おそらく中身は彼方等。初めて向こうからその存在をむき出しにして積極的にかかわってきたのだ。これが大きな転機となるだろうとベリトは考えていた。
そして一応キルシーの様子を見に牢屋を訪れ脱走など変わったことが無いのを確認し、再び会議室に集まったベリトとユーリウス、マリーに国王ライザの面子で封筒を開封することになったのだ。
曰く、そこには……。
「私は彼方。私含めて八人からなる仲間達、呼びづらいのでこのたび名前を考えることにしました。可愛らしいという意味で〈シャルマータ〉です。そろそろ龍人一派とか彼方等とか例の一団とか呼びづらいと思ってそうだったのでお近づきの印の親切心であります。あとそのうち建国します。その時には仲間を迎えに上がるので。以上」
ベリトが代表して読み上げ、その内容に一息つく一同。
「ふぅ。大臣達が見たら発狂するような内容だな」
「この呼び名。報告してからは大臣達も使っていたんですかね。どこから情報が洩れているのか。今までそのせいで見つからなかったとかだったらちょっと笑えないですね」
龍人一派などの呼び名は二つ名や大臣などの国の上層部の者が会議でしか使っていない名前のはずだった。
「儂が相対したあの少女がリーダーか。とするとまぁ、てこずることはあれどそこまで困ったことにはならんじゃろ、若いころ連龍国が攻めてきた時の方が絶望したのう」
今は良好な関係を気づいているが昔は気が早った人間たちが龍人を支配下に置こうとして戦争を仕掛け痛み分けていた。それも今より祖龍が少なかった時にだ。
「建国すると言っていますが場所はどこでしょう、悠長に待って居場所が分かってからでもいいですけど、先に叩いても悪くないですね。建国って何言ってるんだろうっていうのはおいといて」
「仲間ってキルシーのことかなぁ、やっぱり」
「シャルマータ、だそうだな。まぁ名前はなんでもいいが。それではシャルマータ対策殲滅部隊としてある程度の戦力を集めよう。と言っても……建国するのがエアハートの領内でないなら私たちの管轄ではなくなるのだが」
「でもでも、リンドホルムは殆ど一瞬で壊滅させられちゃったんだよね?大丈夫なのかな?」
「まぁ無防備なところ叩かれたら多少被害はでるじゃろうが、今回は建国するだけらしいからのう。攻めるのは儂らじゃて。大規模魔法の対策を十分行わんとな」
当然リンドホルムを壊滅に追い込んだのがただの力技だとは誰も想像すらできない。その考えすら浮かばない。
「引き続き探索は続けよう。確たる証拠はないがシャルマータがリンドホルム壊滅事件及びラツィオでのもろもろの主犯だとして追うものとする。ドワーフにも既にそのように通達した。行いをみれば一線級の犯罪者だ。引き続き二つ名のベリトとマリーで捜索を行う様に。
相手の姿も多少は見えてきたことだしユーリウスは通常の仕事に戻っていい。ソフィアにもそのように伝える」
現在のエアハート含む人間国家において、戦闘力が都市ごとにかなりの偏りがあるため、都市一つ崩壊しても、ほぼ戦闘員も居ない都市で、しかも招集されたりすることもない程度の冒険者しかいないリンドホルムやラツィオ程度滅んでも特に差し支えは無い。
だが一線級の都市の様に常に最上級の防衛機構がなされている都市ではないので前代未聞の所業というわけではない。
シャルマータと同じような案件はいくつもある。ただシャルマータは行方が知れないために手間取っているだけで、他の二つ名は他の都市に被害を及ぼしている一団や荒くれものなどを追っている。どの案件も一都市速攻壊滅ほどのインパクトのあるものは無いが、それらと同様の類だとこの時点では考えている。対処不可能なほどではないだろうと。
国を回してるのはアドリアーネ以下上から数えて数都市のみ、そこさえあればエアハートとして機能すると言える。そのためドワーフが絡んでいることもあって二つ名を使っての探索をしてはいるものの、いまだあまり重要視されていない。
これがアドリアーネが壊滅したとかであれば他都市が機能していようが国家存亡の危機である、周辺の他種族国家やレイドアース含む人間国ですら無視できない事態になる。
人体と同じように重要なとことそうでないとこが、この世界の国にはある。
「それにしても都市壊滅するほどの魔法の使い手やスキル持ちだとするなら、どうしていままで名前聞いたことないんだろ?」
たいてい、強い者は生まれたときから強いのだ。先天性の祝福持ち。後天性は無い。通称後天性とされるのは努力によってスキルを獲得した者である。生まれたときに外れたら努力以外で強くなる術はないのだ。
だが絶望することは無い、努力次第で埋められる差なのだから。強力なスキルを取得できるのが後か先かの違いである。
努力組としてはアルマンドやレザーズ、マリーなどがあげられる。これらは生まれたのちの活躍によって自力でスキル獲得に至ったり、その功績からの二つ名受諾によりスキルを獲得したもの。
たいしてベリトなどは元からオートマタを持っていたし、ソフィアも聖骸シリーズを生まれながらに持っていた。
ちなみに先天性獲得者は二つ名を受諾した時はスキルを受け取ることはできなかった。
「今まで隠れ潜んでおったのかのう、他種族混成団のようじゃし人間種以外の事はそこまでわかるわけでもないしのう。それに他の国で育ったとかならわかるはずもない」
鎖国しているわけではないとはいえ、国家間での情報戦は熾烈を極める。特に強い者の情報は貴重で手に入りにくいのだ。
国民からの強い希望での二つ名に関する本を人間種は出版するに至ってはいるがその能力などの情報は書かれていないし、全部が乗っているわけでもない。すでに他国にも知れ渡っている、切ったカードというか、実践投入によりその詳細が知られている二つ名のみ記載されているのだ。
「では建国がなされたとして、何をもって建国としているのかも謎だがそれらしき拠点の場所が判明したとして誰を送り込むべきだろうか」
「そうじゃなぁ……」
「あまり過小評価はできませんよ?、クラッドさんに寄生していた化け物は天使兵を壊したんですから」
「それとシャルマータは同一だというのか?」
「クラッドさんの話してくれた最初変態する化け物がいましたよね、それの能力の可能性もあるかと」
「その話自体にわかには信じられんのう。そんな生物発見されたことも無い。あの男どこかおかしいしのう……」
「エンビィにぶつけるのはアルマンドと決めてはいるが……」
「内容からして次は倒せそうでしたからね。他の七人をどうするかですが」
「ソフィアは手数の上でも制圧面でも有利だが、どうするか」
「恐らくですが敵は幻獣種よりはかなり強いと思います、そこそこそろえた方が良いと思いますよ。人選は任せますが」
王は唸る。人選は自分の仕事だが誰を選んだものか。戦闘のプロであるベリトらが決めた方が良いのだが、実際相手の戦力も能力もイマイチわかっていない、となるとあまり誰が選んだとて差異は無い。ならばオールランドに組むのが吉か、とライザ国王は考える。
「よし、不落、山薙ぎ、巫女それぞれをリーダーとして10級冒険者で型めた班作る。数は五名程度でいいだろう、敵はたったの八人だ。数の上でも勝るし、ベリトのいう八海大蛇級の戦力があったとしても余裕あまりある対応ができる面子だ、龍人もいるから注意は怠るな。それと相性が悪いかもしれない巫女はレイナスとは当たらないように言っておけ」
……裏の最高戦力を出すまでもないだろうしな。
「異議なし」
三人の声が重なる。こうして彼方等一行、改めシャルマータとの戦闘準備が整えられていく。
その後のエアハート国の重鎮を含めた本会議でも同様の報告がなされ、特に反論異論もなくその対策案が受理されることとなった。
――アドリアーネギルド。
「ほう、それで俺が呼び戻されたというわけか」
短髪黒髪に銀の標準的な恰好の鎧、しかし輝きは普通の銀以上のものを放っている、大柄な男。腰には様々な小さい武器がベルトに固定されている。ハンマーや短剣など、鎚が一番多いか。
「そして私も帰ってこれた。エルフ国から帰ってきたその足で来たから多少疲れたな」
人員選出の会議後すぐに念話や伝書にて国としての依頼のため招集と現依頼の一時凍結の旨が知らされた不落、山薙ぎ、巫女はアドリアーネのギルドで落ち合う事とした。
巫女はもともとアドリアーネに居たので一番、次にエルフ国から帰ってくる途中だった不落、最後に遠くの地まで依頼で行っていた山薙ぎが集まった。
「ところでそいつは誰なんだ?」
特に不快な視線を向けることも無い、純粋な疑問として口に出す山薙ぎのカルロッタ=ガラン。その視線の先にはクラッドが居た。
周囲にいる冒険者は二つ名の集まりを羨望の眼差して見るとともにクラッドに気づくと誰だあいつは、と訝し気な視線を送っている。
「俺はクラッドっていいます。ラツィオでの事件に巻き込まれてベリトさんにこの町まで連れてこられて、そのあとエルフ国までリズィーさんと同行して、ついでだからということで俺もここに呼ばれてまして……」
「ほう、そうなのか。まだ駆け出しの冒険者のようだしこれからに期待だな!」
その言葉にぴくりと反応するクラッド、確かにその通りだ。だが今となっては違う、もう二つ名並みの力があるんだと。その力を誇りたい、認めてもらいたい欲求にかられる。
「そういえば、クラッドさんは不思議なスキルの授かり方をされたそうで……今はとてもお強くなっているのでしたよね?」
おおう、と予想外のところからスキルの事を言い出されて驚くクラッド。発言したのはソフィアで純粋に何故だろう、と小首を傾げている。
「ほう、俺も初めて聞くな。そんな突然スキルがなんて……。何か努力の末にとかではないのだろう?」
「神の天啓みたいなものですかね、結構強いんですよ?、今度のシャルマータ討伐戦に参加したいなとか考えていたりして……」
「やる気があって大変結構だな!、だがその前に私たちはそのシャルマータという一団についてあまり知らないのだ。カルロッタもそうだろう?、概要を聞かせてくれソフィア」
「はい。えぇとですね……」
ソファイアが同行していた時だけでなく、その後の活動についてもベリトから報告書を受け取りきちんと目を通していた。すらすらと自分の所見を踏まえて順序立て説明していく。
「突っ込みどころの多い話だなおい。クラッドは今は何ともないのか?」
寄生された件。水巨兵の件。天使兵にひびが入った件。それぞれ疑問や意見を活発に飛ばし、理解を深めていく。その様はクラッドからしたら圧巻だった。綿密に対処法や行動の一挙手一投足までも決めるかのように動きを詰めていく。未知に相対するための姿勢。今までの経験や培ってきた技術など惜しげもなく披露し使えそうかどうかの検討も進めていく。二つ名というのは戦場でなくとも魅せるのかと。
ただ戦うだけでなれるわけじゃないという二つ名贈呈の基準の一端が垣間見えた気がした。
萎縮したクラッドは大丈夫です、と簡単に呟くことしかできない。
仮に萎縮していなかったとしても、クラッドには何もないのだ、提供できる知識も技御も何もなかった。言われなくとも話を聞いていればわかる。不確かな自分のスキルが作戦に組み込まれる余地なんかないのだと。閉口するしかない。
そんなクラッドを更に置き去りにして話し合いは進む。
「天使兵が破られたってことは、リズィー。お前も危ないんじゃないのか?」
「確かに。いい的になるだろうな……。根性で耐えるしかないが。そいつが出てきた場合はカルロッタが相手取った方がいいだろうかな?、ベリトのように吹き飛ばせば一応消滅するそうだしな」
その後も熱い作戦会議が繰り広げられる。クラッドはすっかり置いてきぼりになっていた。
そんなクラッドに三人も気づいているが誰も何も言わない、意地悪なわけではない。誰もが通る道なのだ、冒険者というものがただカッコよく活躍するだけが仕事じゃないと。自由がゆえになんでもこなせなければならない。ただのパワーマンはいらない世界。
ソフィアがしたように正確に事の経緯を伝える力も当然見られる。的確な指示、話のまとめ方、自他含めて理解を深めること。基本も基本だと思うだろうか、当たり前な事をいうが準備段階から冒険は始まっている。情報一つのミスでパーティが死ぬかもしれない。
何かを極めればいいということなんてない、常に向上し全てをこなす、オールラウンダーになりえてから一芸を極める。そんなどの仕事についても上位を目指せるような意識と技術の高さ。その証明が二つ名を持つという事なのだと。
クラッドは惨めだった。強力な能力を二つ得た。ただその程度の事で色々と吹聴していたことを。もし無理を言ってリズィーに無理矢理弟子として認めてもらっていたら、リズィーの評価が落ちていたかもしれない。
恥ずかしい思い。だがそれは恵まれたことだと三人は思っている。そういうことに気づかないのは駆け出しならば当然なのだ。だんだんとランクが上がり先達の英雄たちの背中や痕跡が見えてくる中で、そういうことに自ら気づいていくこと。それも大事だが、その過程をすっとばしこうして二つ名の作戦会議に立ち会う事ができた。
それはこれからの冒険や人生に大きくプラスになるだろうと解っているからだ。
先天性スキル持ちはその恵まれた境遇がある、だがそれゆえに努力せねばならない。後天性のスキル持ちに劣る事の無いように。あぐらをかけば足元をすくわれる。
これを機にクラッドが考えを改めるかどうかはわからないが……。
「ふむ、だいぶ時間がかかったな。依頼帰りで切らしてる回復薬を買って帰るとするか」
「宿はあるのか?確か契約してなかっただろう。どこも満員だぞ」
「ほう、アドリアーネの宿屋が満員ってなかなか最近はランク高いのが多いんだな。適当に野宿でもするさ」
そんな会話を最後に作戦会議は終わった。結果としてクラッドはシャルマータ討伐戦には参加することができなかった。
だがしかしそれ以上に今は大切な事が何かわかった…と思う。
三人が先に帰った中、1人反省会の様に酒場の大テーブルで酒を飲む。哀愁を漂わせた背中を丸めちびちびと呑んでいる、そんな背中を唐突に叩かれる。
アドリアーネに知り合いは居ない、今度は何だと振り返るとそこには。
「よぉ、あんた何者?二つ名三人と戦略立ててるなんてすげーな!」
そこには四人組のパーティであろう集団が居た。話しかけてきたのは少年。黒髪でかなり若い、というかむしろ子供だ。
だが年齢は強さではない。侮ることはしない、とクラッドは顔を引き締め何か用かと問いかける。
「俺の名前は菅原真。よかったらパーティを組まないか?、さっき話してたシャルマータとの件。興味あってさ……」
真と名乗った少年の背後には猫耳メイドや、筋肉質の姉御肌、豊乳のエルフが控えていた。
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