第八話 利用

※内容紹介とプロローグを大幅に加筆修正致しました。良ければご覧下さい

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助けてくれ……違うんだ……何も知らない……。


「俺はやってねぇえええーー!!!」


「暴れるな!、都市民のみなさんは逃げてください!間もなく巫女様が到着します!」


「化け物!、どうしてここにいる!?、騎兵団はなにしてた!?」


「逃げろ!逃げろ!逃げろぉ!!!」



「ぐぁあああっっ…さ、刺すな……痛い、んだよぉ……全部、俺とつながってんだ……やめてくれ!!」



「都市民はみんな逃げた?それじゃ一旦、結界で閉じ込める」

 ぼこぼこと膨れ上がる化け物を取り囲んだ、ランク後半の冒険者、五名による封魔結界が張られる。


「うおおおお!!」

 硝子を割ったような音と共に男の怒号が響き渡り、張ったばかりの結界が破られる。すかさず二度目の術式を展開する熟練の冒険者たち。


「どんどん用意しろ!、封陣多重式っ」


 あらゆる封印系統の魔法を試し、そして破られる。その繰り返し。

 そんな冒険者らに高速で迫る黒い影。


「なんです?こいつは。現状はどうなっていますか?」

 連理ベリト=ヘダーが調査から戻り空を駆けて現れる。


「連理さん!こいつ訳がわかりません、発生までの経緯は不明。我々が駆け付けた時には多数の都市民を食らいながらその大きさを増大させてます!、今いろんな魔法試してるんですが封印が効かないんですっ」


「なぜ封印を?この際捕獲より討滅優先でもいいではないですか?」


「それが……あの化け物の頭部を見てください、人間の男が見えますよね?、完全に化け物と融合しています。寄生されたとか騒いでるんですが、一応ここの都市民だと思いまして、化け物の部分を攻撃しても痛がりやがるんですよ。迂闊になにもできなくて…」


「ほう。……試してみます」

 名前すらない下級魔術、手のひらに火の玉を作り上げ暴れ狂う化け物部分にぶつけてみる。


「うぁあああ!、あ、熱い……攻撃するなぁあ!!」

 当然そんな弱い魔術ではこんな大きな化け物には効かない。ハーピィにすら効果は薄いだろう。だが人間に当たればそれなりに痛いし熱い。そう威力を調整して放ってみた下級魔術であったが……。


「奇怪です……。奇怪すぎますね」


「連理さん…、二つ名さんでも見たことがないですか?!」


「当然です。一応封印を連続することで足止めはできているようですので。今いる冒険者さんたちは現状維持に努めてください。体力を尽かさないよう交代で、化け物が動かない程度の結界魔法をかけ続けるんです。何かあったら大規模な攻撃魔法を使ってください。俺が気づきますので」


「攻撃魔法!?それはあの化け物にですか?」


「やむを得ません。あの男だって何者かよくわからないのですから。いいですか?今の化け物の大きさより十メートルほど巨大化したら動かなくても攻撃をしてください。都市が陥落してしまいます」


「……了解しました!」

 連理さんのいう事はもっともだ……巨大化を許せば体力も防御力もあがるだろう。それらを削るには強い魔法がいる。ここは都市の中だ……そんな魔法を使わなければ対処できない程大きくさせちまったら都市の方がもたねぇ……。


 

 歯噛み悔やむ冒険者たちは必死に自分の役目をこなすべく、結界を張り続けながら連携を取り体力を回復させるためのローテーションを決めてゆく。それぞれ普段は別パーティの冒険者たちだがランク後半ともなれば即興でその程度はこなせるのだ。

 言われた通り指示に従う冒険者を確認するとベリトは再び空へ飛び立つ。




――中央塔会議室にて。


「この地は呪われ始めてるのか?くそが……。はぁ、弱音も吐いてられんな。情報を共有するぞ」

 禿頭を掻きむしりながらシュトルンツォが切り出す。


「是非お願いします。俺は調査に行っていて事の起こりがわからないので。一応一目みては来ましたけど」


「レザーズ、説明しろ」


「はっ。正確ではありませんが聞き取りによると、歩いていた男が突然ふらふらと足元が覚束なくなり、不審に思った近くの騎兵が声をかけたところいきなり突き飛ばされ、次見たときにはすでに化け物の姿になっていたとのこと。化け物の姿形は海獣種、海王のクラーケンに酷似しています。ただ異なるのがその大きさと足の数。そしてなによりその男が頭部から生えているように融合のようなものをしているということです。さらにはその痛覚を共有しているようで、融合している男の叫びを聞く限りでは操作はできないらしいです、以上」


「付け加えますね。俺が見た感じあれは融合というより寄生されています。本人もそういっていたようですけど。それでその痛覚の強弱がおかしいです。魔物部分に攻撃はあたっているのにそこは痛む気配もなく平然としている、それなのに寄生宿主である男は異様に痛がっている。全てが奇怪です」


「寄生…なのですか?それは……とても私からしたら信じられない、あ!疑っては無いのです……しかし寄生するのは小鬼種以下の、魔物の区分ではない小さな昆虫……だけですよね?魔物が寄生なんてする例はなかったというのに……」


「あれは何かの実験体みたいな印象を受けましたね。強制的に寄生させられています。そしてあの痛覚異常は寄生させた何者かによって意図的に引き起こされています」


「連理殿、そんな実験やら研究やらが他の都市では行われていると?」


「いえ、確認したことはありません。ただ見た感じそれがしっくりくるという憶測です」


「うーむ……そんなもの発想すら儂にもないのだが。だが仮にそうだとしてどうすればあの男を引きはがせるのだ?、問題はそこだけなのだ。討滅した後で死体検査などいくらでもできる。ただ都市民を犠牲にするのはちょっとまずいぞ。痛みで死んだりはせんのか?」


「い、い、痛みで……し、死ぬんですかぁ!?…う、うぁあ…ん」


「それはわかりません。仮に俺の憶測どおりの場合、寄生させた者の性格によるかと。都市民を犠牲にさせたいのか、それともあの男に痛みを味あわせたいのか。後者ならば若干死なない確率が高いでしょう」


「引きはがせんのか?」


「融合なら無理ですね。寄生であるなら可能性はあります。あの男の腰から下が化け物に埋まってて確認できませんがもし原形をとどめている程度の寄生ならば周りの組織を破壊し男を救出するんです。ですがそうするとその破壊に伴う痛みで死ぬかもしれません。何をしようが憶測の上で動くしかないですが――」


 轟音が声を遮り会議室に響き渡る。


「む?氷柱?」


 窓からはかなり大きな氷柱が崩れ去るところだった。


「合図ですね。あの化け物巨大化していくので。そろそろ倒さないと都市に被害が及ぶほどの魔法使わないといけなくなりますね」


「む……わかった。シュトルンツォの名で都市内戦闘行為、及び都市民救出のため化け物への攻撃を許す……。できるだけ男は助けろ」


「ええ。それでは巫女さん連れていきますね。団長と副団長は手薄になる反対側でも守っていてください。それでは」




――中央塔廊下。

 急がなくっちゃ急がなくっちゃ……。


 ギルド受付嬢は、今度は自らの意思で会議室へ走る。警備兵たちは重要情報をお伝えすると言って素通りする。勿論嘘ではない。

 化け物が現れた時、野次馬の後ろからぴょんぴょん跳ねて確認した頭部に埋まっているという男の顔。その顔を受付嬢は知っていた。人命救助のため、そしてちょっぴり巫女に会えるかもという希望を抱いて扉を開ける。


「あの!化け物の頭部に埋まってる男の人!……あれ?」


「なんです?続きは?」


「副団長さん…巫女さんは?」


「窓から現場へ駆けつけましたよ。連理さんと一緒に。それで男が誰か判明したんですか?」


「ああ、はい……えっと数日前に冒険者登録をされて、現在ランク2の冒険者クラッド=オールソンさんです」









――戦場。


「巫女さん、結界を張ってる冒険者とその仲間を使って波状攻撃をしかけてください」


「わかりました……!、みなさんっ…お体をお借りしてスキルを使っても、よろしいでしょうかっ」


 ベリトに抱き抱えられ共に飛んできた巫女。化け物から離れたところへ降ろされ、スキル使用の許諾を得ようと声を張り上げる。巫女の能力には強制力は無い。同意が得られなければ天使化させることができないのだ。

 即座に同意の言葉を口にする冒険者たち。能力説明を受けなくともランク後半ともなればどの冒険者も巫女の能力がどのようなものか知っている。


「いきます。スキルシリーズ〈聖骸〉、聖魂変生!発動しますっ」

 人の身体を借りて能力を行使する、ありがたい……みなさんの力が無ければ私の能力は意味がない。みなさんの頑張りが私を役に立ててくれます…っ。


 祈りと共に即座に発光する冒険者、総勢二十名の天使兵が空へ舞い上がる。


「こうなるならまぁ無駄になりましたかね、俺のスキルは」

 駆け付ける前に溜めておいた術式とスキルはまだ解除してはいないが天使兵だけで十分だと、またも出番がないかと肩を竦めるベリト。


「お願いしますっ」

 次々と光の剣を両手に作り出し突撃をしかける天使兵。化け物は結界が消えたことによりその姿を更に増大、暴れ狂い周囲の建物は軒並み全壊している。

 

「まずは男の方の埋まっている周囲を切り取って救出しますっ」

 天使種と化した冒険者に物理攻撃は効かない。暴れ狂う化け物クラーケンの足も当然の如く、避けるなどという考えはない。


「はぇ!?」

「なんですか、これは……」


 ところが薙ぎ払われる天使兵。その姿に両名とも目が離せない、なぜ?疑問が頭を埋め尽くす。見た目通りのクラーケンでないのはわかっている。寄生なんて奇怪な事をしているのだから。しかし目の前の化け物は普通の魔物の足でしかない。神聖要素もなければ格が上ということもない、悪魔の加護も感じ取れない。異常な行動ことすれどその性質は通常の魔物の物であるはずなのだ。


「あ、え、っと……と、その、避けて救出させますっ」

 あまりの自体に歴戦の巫女も焦る、泣く余裕もないのだ。いままでこの能力で多くの他種族を葬ってきたが例外などなかったから。


 人間種の強さは試行錯誤。いろいろ試して倒し方を見つけていくその成長、学習性である。そうして身に着けた知識情報が武器となる。

 しかし、それが役に立たないと知った巫女は素直に恐怖する。訓練など受けていないから、戦闘知識など触れたことも無いから。ただその能力故必要とされてきただけだから。そんな巫女に冷静な声がかかる。

 


「方針を変えてください。あの男は見捨てますね。それと俺も参戦します」



 なにも問題ではない。巫女に足りないものは連理のベリトが持っている。知識のない未知も開拓してきた二つ名。戦闘系二つ名の持ち主ベリトが涼しい顔で支持を出す。


「反論はいりません。都市民のためです」



 その言葉は寄生宿主とされたクラッドに届いていた。天使兵の剣なんて人間が触っていいものですらない、そんな剣の攻撃を受けては本来痛み云々ではなく、即座に消滅である。それでもなお意識が微かに残り命さえ失っていないのは寄生した化け物の力ゆえである。

 その生き地獄の中、ただひたすらに痛みを感じ精神が崩壊しないのも化け物から送られ続ける液体によるもの。埋まっている腰に触手が一本刺さっている、その触手の先端の針は仙骨を突き抜け、脳脊髄液の通る管へ刺さっている。常に送り続けているのだ、合成神経毒。作用するのは痛覚増大、意識覚醒、魂格増強。


……俺だって都市民だろうが……、盗賊だって好きでやってたわけじゃねぇだろうが…、俺だけ痛いのかよ……。


 痛みは増して、しかし意識は失わず、魂の強度を上げさせられ死ぬこともない。


 簡単に言えばえげつなかった。一秒一秒が地獄。死とはありがたいものだったと思わずにはいられない、生の牢獄。



「救済のために……」

 そんなことは知る由もないが、殺害もやむなしと方針を変えたソフィアとベリト。

 その意思を砕くかのように更なる驚愕を二人が襲う。


「オオオオオオオ!!」

 湯が沸騰する時の泡のように、ぼこぼこぼこぼこと加速度的に膨張していくクラーケン。一匹の足の量では明らかにない、膨大な数の足を振り回し、当たった天使兵がひび割れた。


「なんと……対して強さは感じられないんですがね、対天使耐性の化け物ということですかね。どちらにしろ、方針も固まりましたしそろそろ倒しますよ」


 初めてだった。初めて砕けた天使兵。自分の能力に傷がつけられたのはこれが初めて、その衝撃は巫女と祭り上げられた少女には大きく、自分も死ぬのでは?という恐怖が襲い来る。しかし、悲鳴は上げない。


 不安ですし、怖いです。けれど信じる仲間もここにいる……、なにより私は巫女なのです。私を信じる者のために私がくじけてはなりません……っ。



「解放してください。オートマタ!」

 上空、まだクラーケンの足の届かない高さまで舞い上がり、自らの能力を出現させ、指示を出す。

 途端、ベリトの周囲に展開される無数の魔法術式。幾何学模様が何重にも折り重なり輝きだす。それと同時にベリトの背後に機械で動き露出した歯車などを体躯に持つ上半身だけの王冠を頭に着けた八本腕の人形が現れる。

 発動と同時、端から順に放たれる、マシンガンのような魔法の連撃。それを制御計算するのはベリト自身ではない。


「俺のスキル、オートマタ。俺の作った魔法のストックと制御を行う魔導の王シリーズです。男には悪いですが化け物は討滅させてもらいますね」

 言葉を紡ぐ間にも次々と魔法術式を組んでいくベリト、それは刃、氷、雷、火、土、光線、ありとあらゆる系統の魔法をオートマタへと授ける。受けとった背後の機械人形オートマタが八本の腕を華麗に振るい、次々と術式の制御開放をやりつつ事前に設定された術式の構築すらもやってのける。


「圧倒的な手数と魔法使いに最適な強力スキル。これを持って鬼人種軍隊一万体以上を一人でうち滅ぼしました。その時にもらった名が連理。途切れることなく紡ぎだされ、連なる理である。魔導の王だと自負していますね」


 

 溢れ出る音、氷結音、爆発音、雷撃音。それらが化け物の周囲を埋め尽くす。無論、近距離で戦っている天使兵はそれらの攻撃をすり抜けているため、同士討ちはしていないが、魔法の連撃で姿を確認すらできない。

 集中砲火によるダメージゆえか暴れまわり行動範囲を拡大する化け物。


「巫女さん、俺は空間系は使えませんので。被害縮小のため攻撃は俺に任せて行動の制限をお願いします」


「あわわわ…っ、は、はいっ…!」

 初見ではないが間近で見る魔法の濁流に気を取られ、慌てて返答する巫女。攻撃はやめさせ移動の妨害を行うよう天使兵へ念じ、指示を飛ばす。



 ……そろそろ様子を見るか…。

 自身の連撃で状況確認ができないため、一度手を止めるベリト。攻撃による白煙を吹き飛ばすため風の刃を最後に放ち化け物の状態を確認する、


「……思ったよりは、という程度ですかね。ん……?」

 化け物の足や本体は予想より若干耐えてはいるが皮膚はぼろぼろに崩れ、足も何本も残骸が地面に転がっている。胴体も半壊以上の効果が見て取れる。

 

「しかし、なぜですかね。あの男だけは無傷ですか……。疑問はありますが戦闘に支障はない様子。このまま倒します」

 

「オートマタ、術式収束。できたら撃ってください、終わります」

 指示を聞き、機械人形が動き出す。周囲に展開されていた幾何学模様の魔法術式すべて糸がほどける様に崩れ、一つの術式へと集まり、より複雑により大きくなってゆく。

 ガゴン。と歯車の止まる音と共に一瞬、煌めく収束術式。

 円形の術式の淵だけが伸びる、半透明の仮想砲塔が形成され、砲身が光りだす。


「…シュライトワーゼン!」

 眩い閃光が空間を埋め尽くす。砲塔から放たれた白い光撃。それは撃ちだされてはいるものの、線の破壊ではなく、面の破壊。その漏れだす光が届く全てが攻撃範囲。ベリトは化け物の身体全てを同時に最大火力で攻撃した。

 その光が見えた都市民は巫女を含め全員、その視覚的な荘厳さと感覚的力の強大さを感じ呆気にとられる。


「改めて、こんなに……すごかったのですね……近くで見たことはありませんでしたから……」


 光が収まり、明らかになる光景。地面は軽く抉れ、光に包まれた化け物は肉片すら残らず消滅した。

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