手のひらの中の日輪

結城かおる

序 烏翠開国記

――さてこのようにして、御方おんかたはお子達に豊かな地味の封土ほうどを分け、一字の国号もそれぞれ賜り、最後に残るはただお一方、末子まっしきみだけになりました。

 しかしどういうわけか、御方はこのお子には雲なす山間の瘠地せきちに封じ、賜った国号も兄弟はらからとは異なり、二字の国号でございました。


 当然のことながら、末子の君はこのご処置に大層なご不満を抱かれました。実は末子は生まれながらに紫色の瞳を持ち、のみならずいささか常人とは異なる面もお持ちでしたので、それを親御にいとわれた結果、体よく化外けがいの地へ放逐されたのだ、とお思いになったのです。


 末子の君は御方に切々とお訴えになりました。そこで御方は金龍の割符、一振りの宝剣、そして最後に「あるもの」をお与えになりました。ご納得あそばしたお子は白い烏に見守られながら彼の地に赴かれ、自ら畑を耕し獣を追い、民草と力を合わせて御国をお開きになりました。それ以降、天が下の国々は一字国いちじのくに二字国にじのくにも、あるものは滅び、あるものは栄え、あるものは衰え、またあるものは新しく生まれ出でましたが、末子の御国は大きくもならず、小さくもならず、ただ連綿としてそこにありつづけました。

 これこそ我が烏翠うすいの、「開国の君」の物語でございます――。

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