テーマ:鏡 「秘密の庭」 ~極光王国奇譚~

 茨に守られた扉の向こう、光溢れる小さな庭で、今年も君は泥だらけになって笑う。

 水溜まりに移るその眩い笑顔は、僕だけの宝物。

「ねえ、かくれんぼしましょ」

「ダメだよ、まだ剪定が終わってないんだから」

 二人だけの秘密の庭で、短い夏を謳歌するように、はしゃいで、笑って。

「――陛下。お時間です」

 無情に告げられる、夏の終わり。

「分かった。今行く」

 無邪気な笑顔が、パリンと割れる音がした。

 水溜まりを踏みしめて、若き女王が庭を去る。振り返ることなく、ただ真っ直ぐに。

「また、来年」

 そう囁く君が今どんな顔をしているのか、僕には分からないけれど。

 君との約束を果たすため、僕はこの庭を守り続ける。

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