第4報 強者国の王という人物について

 目を見開いて、動きを止める。

 村人くんの後をついて入った部屋は厳かな雰囲気漂わせる大きな広間だった。奥に数段高く作られた台の上には派手すぎない、しかし一目で豪華と言える大きめな椅子が置かれている。

 たしか謁見室がこんな感じだったかと、昔人伝てに聞いた情報を頭の奥から引っ張り出す。

 本来ならココでは礼儀作法正しく行動しなければ不敬に処されるとの話なのだが、目の前で繰り広げられる光景がそうは思わせない。

「おお!よく来たな、坊主!待ちわびたぞ〜。謁見がなければ菓子の一つでも用意して、場を整えておいたというのになぁ。」

 大きな扉をペチペチと村人くんが叩けば即座に内側へと扉は引かれ、中の様子が見えた瞬間に奥にいた人物が瞬間移動の様に村人くんに抱きついたのだ。さすが強者のトップ陣、瞬きすらさせない間の動きをする。しかし村人くんに頬を擦り寄せるその姿には威厳も何も感じられず、久し振りに顔を合わせた孫に感激する叔母の様だ。

「王様、王様。先に品物を渡させてください。今日も美味しい果物を持って来ました。」

 撫でられ抱きしめられと揉みくちゃされている姿は大変そうだが、村人くんの辿々しい敬語はどうにも癒される。

 彼の言葉から推測するに、この飛び出して来た豪華な洋装の赤髪の女性がこの国の王、強国王なのだろう。この状況に困惑しながら大きく開け放たれた扉の横手に控えていた銀色の鎧の騎士の方へ目をやると、一瞬の間の後やれやれと僅かに首を横に振った。毎度のことなのだろうか。

「うむ、そうじゃな。坊主の元気そうな姿を見るのも楽しみの一つだが、お前さんの作る果物も絶品じゃからのぉ」

 国の者はガサツな者が多くて困ると小さく呟き、村人くんの抱えていた木箱を片手でヒョイと受け取る。同情からでなく、村人くんの作るものを正当に評価していることに驚いてしまった。

 未だに扉の側で話をしていた村人くんを中へと促しながら、強国王は私の方を一瞥する。

「して、お前さんは坊主とどういう関係なんじゃ?」

 話によっては唯では済まさないと言った顔で睨め付けるその目に、話に聞いたことのある嫁姑戦争の序章を思い出しながら姿勢を正して礼をした。

「初めまして国王様。私は方々を旅するしがない神官でございます。本日この国に入国いたしまして、たまたま縁の出来た彼にこの国の案内をお願いしている次第でございます。」

 私は失礼なく対応できているだろうか。下げた頭の上から僅かに威圧の篭った視線が突き刺さる。

「王様ダメだよ、ですよ!神官姉ちゃんは弱いんだからいじめちゃダメ、なんですよ?」

 うん。村人くんの頑張った敬語には癒されるし庇ってくれたのは嬉しいのだけど、その内容は心に直接ダメージが来るね。確かに強国王様のデコピンで頭吹っ飛ぶ自信があるぐらいには弱いけれど、その言い方だと村人くんよりも私の方が脆い様に聞こえるよ。

「し、しかしだな、お前さんに変な輩がまとわりつく様なことを許す事はできんのだよ。」

 頬を膨らませて言う村人くんに、強国王は呻く様に言葉を返す。あなたはこの子の母親ですか?

「神官姉ちゃんは僕の仕事のお手伝いしてくれてるの!力もないのに、フラフラしながら吐きそうな顔して運べない荷物を顔真っ赤にして運んでくれたの!だからそのお礼に僕がこの国を案内してあげるんです!」

 プリプリと怒る村人くんは可愛いが、ちょっと私の事を詳細に話すのはやめてほしい。いかに非力なのかを客観的に言われると結構傷つく。

「…国王、あまり過保護になりすぎると嫌われるぞ?」

 怒る村人くんの様子に小さく呻き声を上げていた強国王に、控えていた銀色鎧の騎士が助け舟を出した。

 嫌われると言う言葉に小さく肩を跳ね上げ、強国王は焦った声音を出す。

「あ〜、すまなかったな神官の娘。そんなひ弱では、坊主をどうこう出来るはずもないじゃろうな。要らぬ勘ぐりじゃった。」

「いえ。力もない、人を治癒することすら出来ない神官とは名ばかりの無力な人間ですので、どうぞその辺の砂が彼の衣服にでもついたのだとでも思ってください。」

 強国王の労わる様な言葉にもはや涙が出そうです。ちょっとそこの部屋の隅をお借りしてもいいですかね。

「神官姉ちゃん…」

 村人くんが心配する様に私の袖を引く。多分私は彼を持ち上げることすら出来ないんだろうなぁと更に気分を落ち込ませた。

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