第3報 強者国で同行先の事前情報について
ようやっと冒険者ギルドを出た私は、村人くんの引く荷台を後ろから押しながら彼の仕事について聞く。
村人くんは私とそう歳が離れているというわけでもなく、両親は既に他界しているらしい。彼の両親が何歳で他界したのかはわからないが、このくらいの歳で両親がいないというのも今のご時世珍しいことではないだろう。
今は国郊外にある家に一人で住み、両親と共にやっていた農業をたまに近隣の人に手伝ってもらいながら続け、畑で出来た物や近場の山や森で取れた物を納品して生計を立てているそうだ。冒険者ギルドに納めていたものも、その一つだという。結構な量があったが一人でなんとかしたのだろうか。
荷台に残っているのは大きめな木箱が三つと一人でなんとか持ち運べそうな木箱が一つ。
彼の納品先はそう多くはないそうで、次の所に品物を納めれば仕事は終わるらしい。
「次の所はここからちょっと距離が離れているんだけど、そこさえ終われば神官姉ちゃんの案内が出来るよ!期待しててね!」
村人くんの顔は見えないが、聞こえてくる彼の弾むような声に私の頬は緩んでくる。拒否権のない国の命令に絶望しつつ強者の国に来たが、彼の嬉しそうな姿を見るとそこまで絶望するようなものでもなかったのではないかと思えて来た。
「ねぇ、次の納品先はどういう所なの?」
だから私も自然と弾む声で村人くんに言葉を返す。
「次は王城、国王様のところだよ。別の所でも仕入れているのに、僕の所で出来るのが気に入ってるって個人的に買ってくれるんだ〜」
「!?」
王城、強者の国の王城。その国王ということはこの国で最強の強者、強国王のことだ。
やっぱり私の前にあるのは絶望しかないのではないか?
◇ ◇ ◇
静まり返った広い廊下を、村人くん先頭で歩く。
荷台は王城の裏手に止めて三つの大きめな木箱は納品し、残っているのは村人くんが持つ木箱だけ。これは強国王に直接納品するのだという。
王城に入るのも強国王に対面するのも部外者である自分が同行するのは不味いのではないかという疑問は、村人くんの強国王に仲良くなった者が出来たら連れて来なさいと言われたのだという言葉で一蹴されてしまった。村人くんは強国王の何なのであろうか。
正直ここで逃亡を選んでいない自分を褒めて上げたい気持ちだ。それと同時に罵倒したい気持ちではあるが。
私が逃亡しないのは国の命令である潜入捜査という理由が一つ、それとこの村人くんが心配だったという理由がある。
彼はこれまでも同じように強国王に品を納品していたのだから何も問題はないとは思うのだが、こと強者の国でのことである事がどうしようもなく心配の要因になってしまったのだ。何か一つ間違えば、強国王の機嫌を損ねれば村人くんの身に大変な事が起きてしまうのではないかと心配してしまう。そうでなくてもその周りにいるのは強者ばかり、ちょっとした衝突でも彼を死に至らしめてしまうのではないかと要らぬ気を回してしまう。
ふと、なぜここまで村人くんを心配してしまうのかと考える。
私はそう簡単に人を懐に入れることはしない、言って仕舞えば冷淡な性格だ。それが何故こう村人くんを猫可愛がりしようとしてしまうのか。少し首を傾げて今の自分の現状と、彼と自分の共通点からそれらしい理由を考える。
自分も天涯孤独の身。とはいえ村人くんとは違って両親が他界も何も、私は両親の顔すら知らない、要は孤児だ。そして身体能力は低く、神官の服は着ているものの他人を癒すことはできない。弱者の国で生まれ育ったが、私にとって周りにいるのはすべての人間が強者であった。
そんな私が人身御供よろしく潜入調査という生贄に選ばれてしまった。
色々と限界だった。
そんな中で彼を見つけた。
私とは違って縮こまることなく、一生懸命生きようとしている彼を。
そんな彼がこの国で最も危険な者が居る場所に行こうとする事が心配でならなかったのだろう。それと同時に、自分と同じ環境で自分とは違う生き方をする彼の側を離れる事が嫌だったのではないかとも思う。
要は寂しかったのではないかと。
「神官姉ちゃん?どうかしたの?」
初めての感情にモヤモヤした気持ちを抱きつつ考え事をしていたせいか、いつの間にか私の足は止まっていたようだ。
「…何でもないの。初めての王城に入ったからちょっと緊張しちゃっただけよ。」
苦笑を浮かべながら再び足を動かして村人くんへと歩み寄る。
心配そうにこちらを見つめる村人くんの姿に私は、何かあれば体を張ってでも彼の事を守ろうと密かに決心したのであった。
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