2ー33 一人旅の壁

まおダラ the 2nd

第33話 餅は餅屋に



すぐ帰る予定だったアイリス村も、すっかり3日もお世話になってしまった。

その間山羊のミルクを浴びるほど飲んだけど……効果はどうかな。

あるといいなぁ。



「それじゃあみんな元気でね!」

「シルヴィアさん、本当にありがとうございました!」

「またきてねー、あしたもね!」



ちょっとだけ寂しいけど仕方ないよね。

まだまだ助けを求めている人は一杯いるんだから!



「だからコロちゃん。いつまでもしょげてないの」

「ァウン」



ミム君とすっかり仲良くなったコロちゃんは、さっきから元気がない。

やっぱり犬人ばかりの村は居心地が良かったみたい。

気持ちはわかるけど切り替えていかなくちゃ。



「ほらほら、甘い匂いがするよー。なんの花かなぁ?」

「ワォン?」



森の中を進んでいると、ふんわりと漂ってきた。

あれ、なんでそんな匂いがするの?

周りは雪一色で何も咲いてなんかいないのに。

そしてそれは次第に強くなっていく。

これはひょっとして……?



「ほう、毒霧の中まだ動けるとはな。思ったよりも力があるようだ」

「あなたは……?」



道の先には一人の男が立っていた。

冒険者風の出で立ちで、騎士などではない。



「痛い目に会いたくなければ大人しくしろ。抵抗すれば安全の保証はない」

「何が、目的なの!」

「……やれ」



男の合図でさらに敵が増えた。

木々の間からは8人くらいの男が現れた。

まさか、ここまで接近を許すなんて!

この漂っている毒にやられてしまったよう。



「コロちゃん、動ける?」

「グルルル……」



コロちゃんは必死で構えようとするけど、足が笑っている。

私も剣を握る手が震えてまともに戦えそうにない。

でも助けなんか居ないのだから、私たちでやらなきゃ。



「まだ抗おうとするか。眠ってしまえば楽にもなろう」

「うるっさいわね、誰が言うこと聞くもんですか!」



手下らしき男たちが包囲を狭めてくる。

攻めるにも逃げるにも、足が言うことを利かない。

切っ先はもう目前に迫っている。

その腕ごと切りつけようとする、けど弾かれてしまった。



「暴れるな!」

「グ……ゥ」



男の蹴りが私のお腹に深々と突き刺さる。

それだけで体が悲鳴をあげたように痛みを発した。

コロちゃんも助けようと攻勢に出た。

けども、男たちの剣撃のもと斬り伏せられてしまう。



「手間をかけさせやがって。縛り付けろ!」



私の両手、両足が荒縄で縛られていく。

それが終わると担ぎ上げられた。

なんて呆気ないんだろう。

あれだけ戦い方を学んできたのに、肝心な時に役に立たないだなんて。

怒りが、涙が込み上げてくる。



「おと、さん」

「フン、親にすがろうなんてまだガキだな」



冷えた笑いがあちこちで上がる。

それを止める術は私にはない。

でも、誰かのひと声で止んだ。



「ちょっと待つッスー!」



女性の声が遠くから聞こえてくる。

耳に覚えの無いものだ。



「……誰だ貴様は?」

「はぁ、はぁ。アンタがこの集団のボスッスよね?」

「オレの質問に答えろ!」

「えーっと、うちのボスからの伝言をお伝えしまッス」

「消えろ! それが嫌ならここで……」

「シルヴィアたんに傷ひとつでも負わせたもの、貴賤問わず皆殺しにすんぞ。だそうでッス。だから殺しまーッス」

「なっ……ウワァァ!」



突然魔力が弾けたあと、火勢が巻き起こる。

私からはその場面が確認できない。

助けが来た……の?



「はいはーい。アンタら聞いてたなら早くお嬢様を下ろすんスよ」

「か、頭に何しやがった!」

「何って、見ての通りでスが?」

「ふざけやがって! かかれぇ!」



私を担いだ男以外が向かったらしい。

あの女性は大丈夫なんだろうか。



「ッスよねー。これは規定路線」

「くたばれオラァ!」

「……ウィンドブロウ」

「ゴフッ!」



何がおきたのか、私にはもはやわからない。

襲ってきたのは誰なのか。

助けに入ったのは誰なのか。

意識を保てなくなった私は、静かに意識を手放した。



目を醒ますと、見知らぬ女性の顔があった。

どこか泣いているようでもある。



「よかったぁー! 生きてる、生きてるっスよね?!」

「ええ、大丈夫みたい」



隣にはコロちゃんが眠っていた。

体の傷は無く、まだ起きていないだけらしい。



「いやぁ心臓止まるかと思ったッスよー。ギリ間に合いましたねー!」

「あの、あなたは?」

「アタシ? アタシはテレジア・ナイト・プリニシアでッス! レジスタリアのお偉いさんに依頼されて来たッスよ」



プリニシアの騎士さんらしい。

見た目も挙動もそれらしく無いのだけど。

恩人相手ではあるけど、つい疑いの目を向けてしまう。



「あなた、本当に騎士なの?」

「ほんとッスよ! ほらほら、魔王様の直筆の手紙だってあるんスから!」

「この字は……確かに」



そこには『魔法のエキスパートを派遣したから、好きに使いなさい。そして2日に1度は帰ってきなさい』と書かれていた。

うん、絶対お父さんだね。



「そうだ! ヤツラは?!」

「あー。さっきの人拐い?」

「こんなのんびり話してる場合じゃ……」

「あーあー、もう危なくはないッスよ。危なくは」



ちらりとテレジアさんが後ろを見た。

その視線の先は、真っ赤。

雪のキャンパスがデタラメな赤で乱されていた。



「ねぇ、もしかして?」

「違うんスよ、尋問しようとしたら突然くたばったんスよー。いきなり血を吹き出して!」



尋問したら死んだ?

それってどこかで聞いたような……。

すぐには思い出せないかなぁ。


その間、テレジアさんはソワソワしつつ目を泳がせていた。

責められるのを怖がってるらしい。



「えっと。あなたは旅に付いてきてくれるの?」

「もっちろんス! これからは片時も離れやせんぜ!」

「できれば一人で挑みたかったけどな」

「お嬢様。そりゃ無茶ってもんスよ。魔王様レベルならまだしも、普通は仲間と旅をするんスよ」



こうして私の旅に一人新たに加わった。

確かに魔法が得意な人は味方にしておきたい。


ちなみに本来ならもっと早く合流していたらしい。

なぜ今ごろになってかというと……それを知ろうとしたら彼女の怒濤の言い訳を聞く事になってしまった。

ほんとよく喋る子だなぁ。

賑やかになっていいけどさ。

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