幕間その1  その頃アルフ1

まおダラ the 2nd

第31.5話 その頃アルフ1




シルヴィが家を出てからすでに1ヶ月近くの月日が流れた。

最後の子供の自立という事もあって、この家はすっかり静かになってしまった。

アシュリーはしばらくソワソワしていたし、エレナも修練場に行くときはどこか寂しそうだった。

かくいう私も、つい多めに料理を作ってしまったり、着替えを用意してしまったり。

その度に「あの子たちはもう居ない」などと思うのだった。


そんな暮らしもすっかり慣れて、新しい生活を迎える事が出来た。

……アルフ以外は。



「アシュリーまた発作よ。お願い!」

「グゥゥ……シルヴィアァ、シルヴィアァァア!!」

「はいはーいアルフ、おっぱいですよー」

「ウグッ!?」



発作が出たらすかさず薬が投与される。

アルフは最近禍々しい気を放つようになった。

全身を大きく痙攣させ、娘の名を叫び続けるのだ。

時には鋭利なツノを生やし、時にはコウモリのような翼を生やしかけた。

このままでは本当に邪悪な魔王となってしまいそうだ。



「アシュリー殿。その薬は一体何なのだ?」

「何って、毒ですよ? 一般人なら一口で即死ですね」

「……精神安定薬だとばかり思っていたが」

「そんなもん効きゃしませんよ。こうしてヤベェ毒で眠らせるしか方法はないんです」

「そうね。可哀想だけど、大暴れされるよりはマシかしら」



ちなみに1日6回発作が起きる。

そこに朝も夜もない。

なので私たちは交代で眠りにつきながら見張りをしている。



「アルフ、ご馳走様ですかー?」

「ウウゥ……シルヴィァ……」

「うーーん、ちょびっと残ってますね。全部飲んじゃいましょ」

「グホッ」

「はい、よく飲めましたー」



全て飲み干すなり、アルフは眠りについた。

ここ数日はすっかりこんな調子だ。



「じゃあ、今のうちに体拭いちゃいましょうか」

「そうか。私もやろう」

「お手柄アシュリーちゃんは腰回りを担当しますね」

「ダメよ。昨日もあなたがやったじゃない。今日は私よ」

「えーー、じゃあ胸元を……」

「ふふ、残念ながら私がいただいたぞ」

「そんなぁ、ずるいですよ2人とも!」



これは看護なのだから、正当な行為である。

やましい気持ちやふしだらな感情は、そんなに無い。



「アルフが口寂しそうにモゴモゴさせてますね、よいしょっと」



そんな独り言を言いつつ、アシュリーは上だけ脱いだ。

彼女ご自慢の大きな胸が露わとなる。



「何してるの?」

「いやね、アルフに本当のおっぱいをあげようかなーって」

「猛毒を含んだ口に? あなたの乳首がもげないといいわね」

「……あっ」



何かに気づいたのか、何もせずに再び服を着た。

確信の無い牽制だったけど功を奏したようだ。



「アルフって、いつまでこのまま何ですかね……」

「どうかしら。早く子供の自立を自覚してくれれば治るかも?」

「自覚ったってねえ。普段眠ってるんだから期待できませんよ」

「なぁアシュリー殿。ちょっと様子が変じゃないか?」



エレナがアルフの手を掴んで、私たちに見せた。

まるで老人のような枯れた手だった。



「こりゃあ、うん。飲ませすぎましたかね?」

「解毒させなくて平気なの?」

「へーきへーき。ちょっと胸焼けっぽくなってるだけですよ」

「手がシワシワになる胸焼けって恐ろしいわね」



ともかく、こんな暮らしをいつまでも続けられない。

1日も早くシルヴィによる顔出しを待つしか無さそうだ。

それまで私たちが保てばいいけど。


少し不安を覚えるようになった最中、結論から言うと状況は変わった。

凶悪な気配が消え、魔力の色合いも随分優しげになった。

いや、ひ弱になったと言うべきだろうか。



「腹が減ったのう。婆さんや、飯を用意しとくれ」



アルフがお爺ちゃんになってしまった。

意味不明な言葉かもしれないけど、正確に事態を表すとこの通りだ。

これより私たちは介護暮らしに突入することになる。

早く青年期に戻ってくれないかしら。

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