2ー31 おじさんは甘い
まおダラ the 2nd
第31話 おじさんは甘い
ゴルディナの騒動からしばらくして、私はクライスおじさんのもとへやって来た。
例の組織の人たちを捕まえてからというものの、その対処に困って通信で相談したのだ。
そしたらすぐに兵士さんやら職員さんやらがやってきて、捕まえた全員をどこかへ連れ去ってしまった。
そして事の顛末を報告に、こうしてレジスタリアにやってきた訳だ。
「ここはキッチン、じゃないわよね?」
案内されたのは執務室……だと聞いている。
なのに文書やら書物はほとんどなくて、オタマやら調味料やらカマドやらが完備されてる。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとう。でも太るからいらないわ」
差し出されたのは黄色一色の、プルプル震える何か。
これはお茶……と呼んでいいの?
昔食べさせてくれたプリンとかいうお菓子を思い出す。
これもきっと頭痛がするくらい甘いに違いない。
ミレイアちゃんなら飛び付くんだろうけど、私はどっちかと言うと甘味は苦手だった。
「いやはや、お手柄でしたな。まさか一夜にして解決なさるとは」
「私だって拍子抜けしたよ。全然手応えがなかったもの」
「感触はどうあれ、暗躍する犯罪組織がひとつ消えたのです。この功績は大きいですな」
「そんなもんかなぁ」
私が捕まえたのはゴルディナの親分らしい。
そんな人が悪事に荷担してたと思うと、自然と気が重くなる。
こうして手放しで褒められている最中も、複雑な気分だった。
「ところでシルヴィア様」
「様なんてやめてよ、おじさん」
「わかりました。それではシルヴィアたんたん」
「それはもっとやめて」
「本件は私が引き取りましょう。これはもはや個人の手に負えるレベルではなく、国際審判ものですから」
「国際審判?」
「ゴルディナは大きな協定違反を犯しました。あろうことか議長が率先して、です。こうなっては彼を裁くのは各国の首脳陣となります」
「そうなんだ。話が大きすぎるから、後はお願いね」
「それでは報酬をお支払しましょう。あなたのお父上からは頑張りを高く評価するように、と仰せつかっております」
お金がもらえるってこと?
それは素直にありがたいね。
なにせ旅費が尽きたら日雇いの仕事やらに励まないといけないし。
働くのは嫌じゃないけど、調査が遅れるのは困るもんね。
「ありがとう。いくらくらいなの?」
「そうですな。金貨200枚ほどでいかがですか?」
「多い多い! 5枚くらいでいいよ!」
本当にこの人たちは私に甘すぎる。
自分で気を付けてないと、どんなアプローチで甘やかしてくるか分かったもんじゃない。
ちなみに金貨50枚もあったら一年くらい宿屋に泊まれてしまう。
「ではすぐにお渡ししましょう。お父上の元には帰られるので?」
「ううん。まだ家を出て半月も経ってないもの。まだ帰らなくて良いわ。それに……」
私はちらりと後ろに目をやった。
そこには簡易式のかまどに、大鍋がある。
もちろん私が気にしてるのは、調理器具ではなくその向こう側。
ソファに怯えたようにして座る姉弟だ。
「あの子たちを村に帰してあげたくてね。これからすぐに向かうつもり」
「そうですか。そちらも配下のものが手配致しますが」
「それがね、私じゃないとダメなの。人族には不信感が強すぎてさ」
「ふむ。誘拐騒動の被害者ですからな、無理もありません」
実際、2人は出されたお茶(と名付けられた何か)に手をつけていない。
それが事件から来る不信感のせいなのか、目の前の飲料に対して不審がってるのかは分からないけども。
それはともかく、アイリス村はレジスタリアからは遠い。
手持ちの旅費だけでは心許なかったけど、報酬がもらえるなら安心だ。
帰り際に皮袋を受け取ってから部屋を出た。
それから簡単な準備を終えてからレジスタリアイリス村へと向かった。
受け取った報酬を財布に入れ換えようとしたけど、中を見るなり違和感を覚えた。
「1、2、さ……、7枚入ってる!」
5枚で良いと言ったのにあの人は……。
よく見ると小さな紙切れも入っていた。
それはクライスおじさんからの手紙だった。
『7枚のうち2枚は私からです。これで美味しいお菓子でも食べてください』
「まったくもう。本当に甘いんだから」
端数のように加えられた2枚も、私にとっては大金だ。
でもどこか温もりを感じるこのお金は、嫌いにはなれない。
今回ばかりは有り難く使っちゃおうかな?
「ミム君、好きな食べ物ってなぁに?」
「えっとね、うんとね。トンボ!」
「うーんそっかぁ。ミアちゃんは?」
「私は……狼肉ですかね」
「キュゥウン」
「大丈夫よコロちゃん! 怯えないで?」
これはどっちもお金で解決できないヤツだ。
クライスおじさんの案は流れる感じになったゃうかなぁ。
ご飯に使わないとしたら、向こうのご家族に寄付してもいいかもね。
私がそんな事を考えていると、ミム君がまっすぐな声で私に話しかけてきた。
「シウビヤおねえちゃん、聞いてもいいぃ?」
「なぁにー? なんでも聞いてよー」
まだちっちゃいミム君は『シルヴィア』って発音ができないみたい。
かわいいなぁ、もう。
「あのね、うんとね。どうしてシウビヤおねえちゃんは、ミアねぇちゃんよりムネがちいさいの?」
「オッフゥ……」
やられた。
剣呑とした荒くれ者でさえ傷つけることが出来なかった私に、致命的なダメージを与えるなんてね。
へへっ、今のは効いたぜボウズ。
「あのね、私は剣士なの。だから動きやすいような体に出来上がったのよ?」
「そうなんだぁ! だからペッタンコなんだね!」
ーードォオオン!
私の心象風景ママ。
これが無邪気な暴力ってやつなのかな?
曇りがない分破壊力がバツグンじゃない。
もういいもん。
ミム君は後でくすぐりの系だからね。
涙目になるまで解放してあげないんだから!
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