2ー29  受け継がれる魂

まおダラ the 2nd

第29話 裏ビジネス




私は剣を構えて男たちに向き合った。

相手はというと驚いた素振りを見せず、薄ら笑いさえ浮かべている。

どこまでも腹立たしい連中だと思う。



「許さねぇってお前がか?」

「ガキが正義漢ぶってらぁ。命がいらねぇらしいな?」



人の神経を逆撫でするような笑い声があがる。

男は全部で4人居る。

多数派な事もあって気が大きくなっているようだ。

私は相手の挑発には乗らず、ゆっくりと剣に闘気を込めていく。



「その娘を放しなさい。最後の警告よ」

「最後の警告たぁアッハッハ!」

「そんなガリッガリの体で何しようってんだ!」



……ア?


言ってはならないことを言ったね?


決して触れてはいけないことを、言ったよね?


今、運命が変わったよ?



私の魂には、豊穣の森のみんなの生きざまが刻まれている。

今体現しようとしているリタ姉さんも、もちろんその1人だ。



「……な、なんだ? このガキ、急に雰囲気が!」

「おおおい、何だかささ寒気がしねぇか?」

「あなたたち、怖いもの知らずねぇ。命がいらないのは、どっちかしら?」

「ひ、ヒィイッ」



私の背中に狐の残像が見えるか?

それを見たらな、タダじゃ済まない。



すっかり怯えきった男どもを前にして、私は足元の石畳を踏みつけた。

それは見事に粉々になり、周りの地面が歪になる。

ただの威嚇だけど、効果は十分だった。



「何だよ何だよ! コイツはやべぇぞ!?」

「おい、逃げようぜ。このままじゃ殺される!」

「いや、この女を連れて戻らねぇと……」



向こうの戦意はもはや微塵もない。

それでも尚、悪事を諦めないから面倒だ。

もういい加減終わらせよう。

不愉快なあまり、本格的に自分を見失いそうだ。


後ひと押し。

それでこの茶番にも片が付く。



「誰が貧乳ですって?」

「いいぃ?! 言ってません言ってません!」

「言ったわよね? 貧相な体だって。胸元が寒々しいって。少年と見分けがつかないって……!」

「違います違います、ほんとにもう滅相もねぇ!」

「ご託はいらないわ。潔く散りなさい!」

「に、逃げろぉ! コイツのキレ方やべぇぞ!」



我先に逃げていく悪党たち。

もちろんそのまま逃がすはずもなく、全員の背中に強烈な剣撃をくれてやった。

命までは落とさないだろうけど、面目は丸潰れとなる。

裏社会で背中に傷を持つことの意味、連中なら良くわかるだろう。


男たちの居なくなった路地は、さっきまでとは打って変わって静かになった。

そして被害者の女の子。

その子が立ち上がるのを見ているうちに、私の心は落ち着きを取り戻していった。



「あの、その、ありがとうございました」



女の子が小さくお礼を言った。

歳は私と同じくらいの、犬系の獣人だ。

その姿にはつい親近感を覚える。



「大丈夫だった? 怪我は……アザが出来てるね」

「ええ、でも大したものじゃ」

「待っててね。今治してあげるから」



リタ姉さん直伝の回復魔法を披露した。

といっても、私のは初歩も初歩。

ちっちゃいケガしか治せないんだよね。

でもアザくらいなら大丈夫。



「はい、キレイになりましたっと」

「すいません! ケガの手当てまでしてもらって!」

「ううん、いいの。そのかわり話を聞かせてもらえる?」

「話……ですか?」

「そうそう。立ち話もなんだから、場所変えようよ」

「ええ。わかりました」



それから私は宿をとって、部屋の中に女の子を招き入れた。

まだ恐怖心が消えていないのか動きはぎこちない。



「自己紹介がまだだったね。私はシルヴィアっていうの。よろしくね」

「ミアです。よろしくお願いします」

「早速だけど、さっきの騒ぎについて教えてもらえる?」

「わかりました」



この事件は、獣人の失踪騒ぎの件に繋がるかもしれない。

たぶん、有力な手がかりになると思う。



「私はアイリス村という所に住んでいました。雪がたくさん降る、とても寒い所です」

「大陸の北端だったかしら? ゴルディナの北西にあるのよね」

「たぶん、そうです。私の家はお父さんお母さん、そして弟の4人家族です。貧しかったんけれど、なんとか食べていけました」

「うんうん。それで?」

「ある日どこかの国の商隊がやってきて、彼らは私たちに『弟を身請けさせて欲しい』と言いました。袋いっぱいのお金を持って」

「そうなの、それは村で良くある事?」

「ええと……頻繁じゃないですけど、珍しくもないです」



貧しい農村に人買いが現れるという話は聞いたことがある。

モラルとしてはどうかと思うけど、一応真っ当な商売だ。

身請けした子供たちに教育を受けさせ、工房見習いや下働きとして派遣する。

それは真っ当な商売人であれば、だけど。



「父は断りました。商人の長い説得を頑としてはね除け続けたのです。彼らは諦めたのか、その日は帰りました」

「その日はっていうと、まだ終わらないのね?」

「はい。翌日、弟が拐われてしまいました。その場面を目撃したときは、周りに誰も居なくて。助けを呼ぶ余裕もありませんでした」

「何よそれ、犯罪じゃない!」

「とにかく何とかしなきゃと思い、私はこっそり馬車に乗り込みました。隙をみて助け出そうと思ったのです。ですが、結局私も見つかってしまい、捕まってしまいました」

「そんな事があったのね……」



こんな酷いやり口がまかり通っていただなんて、許せない。

1日も早く止めさせないと!



「この街に着いてからは倉庫に押し込められました。幸いなことに私の方は見張りが少なくて、そこから逃げることができました。それからすぐに助けを呼ぼうと思い、街を駆け回っていたのですが。格好が目立ったせいかすぐに気づかれて、逃げ回っているうちに裏路地に追い込まれて……」

「そこに私が現れた訳ね?」

「そうです……」



ということは、今現在も弟君は捕まったままなんだね。

もしかすると他にも拐われた子がいるのかも。

となると、のんびりはして居られないね。



「ミアちゃん、安心して。弟君は私が助けてあげる!」

「でも、危険です! 向こうにはたくさんの男たちがいて……」

「大丈夫よ。私はこれでも魔王の娘なんだからね!」

「ええっ?!」



そういえば、お父さんも昔人拐いを退治したのよね、ミレイアちゃんを助けにさ。

私の初仕事としてはうってつけだね。

サクッと解決して『さすがはオレの娘だ!』って言わせてやるんだから!

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