2ー28  セロ一家

まおダラ the 2nd

第28話 セロ一家



久しぶりにやってきたコロナの街は、随分様変わりしていた。

道や建物は立派に整備されてるし、露天や商店が立ち並んで、随分と活気に満ち溢れている。

昔のような堅苦しい雰囲気はなく、レジスタリアに負けないくらいに発展していた。



「さて、私は領主館に行ってくるから。良い子で待っててね」

「ゥオーン」



ちょっと拗ねたようなコロちゃんを置いて、私は館へと入っていった。

聞いた話じゃ子供が1人生まれたらしい。

本来の目的とは別に、それも楽しみだった。



「ようこそコロナへ。また一段と美しくなりましたな」

「セロさん、お久しぶりです。相変わらずお上手ですね」



私は応接室で夫妻と再会した。

メリッサさんの腕には赤ちゃんが抱かれている。

今は寝ているせいか大人しいものだった。



「そうだ。クライスさんから書状を預かってますよ」

「クライス殿とは……確かレジスタリアの執政官?」

「そうですね。立ち寄った街の領主に必ず見せなさい、なんて言われてるんですよ」

「わかりました、では拝見しましょう」



書状に目を通したセロさん。

しばらくすると顔を青くし、書状を握る手が小刻みに震え始めた。



「何と言うか、苛烈な書状ですなぁ」

「そうなんですか?」

「おや、内容をご存じないので?」

「ええ。私が読むと効果が無くなる……らしくて」

「あぁ、なるほど。確かに文面を知ってしまえば、書状を使い辛くなるでしょう。効果が無くなるとはそういう意味ですな」

「えっと、そんなに強烈な事が書いてあるんですか?」

「詳細は伏せますが、脅しですな。あなたを丁重に扱うように、さもなくば……、という内容です」



それは何というか……。

うちの大人気無い人たちがスミマセン。

そんな内容なら使いたくないけど、そうするとこっぴどく怒られるんだろうなぁ。

何というか悩ましい。



「さて、本日はどのような用向きで? もちろん、ただ遊びに来ていただいただけでも嬉しいですが」

「えっとですね、今日は情報集めですね。亜人の皆さんにお変わりはありませんか?」

「そうですなぁ。コロナに限っては平穏無事です、何か気掛かりな事でも?」

「まだ噂を聞いた程度なので詳しくはわかりませんが、ここ最近、獣人が消えるらしいのです」

「消える、とは?」

「はぐれ者や浮浪児に多いらしいんですが、ある日を境に見かけなくなるらしいのです」

「ふむ……。コロナでは起こり得ないでしょう。戸籍も作成しておりますしな」



うーん、空振りか。

この噂もレジスタリアでちょっと聞いたくらいだもんなぁ。

せめて大陸のどこで起きたのかくらいは知っておくべきだったかな。



「じゃあカタイ話は終わりにして、赤ちゃん見せてもらえます?」

「どうぞどうぞ。メリッサ、いいよね?」

「もちろんだとも。うちのセシリアを見てやってくれ」



かんわぃい~~。

プクプクしてて柔らかそう。

親指を口に咥えて寝息をたててるけど、それも物凄くちいちゃい!

ていうか呼吸だけじゃなく、目も耳も口も手のひらも全部ちいちゃいの!



「はぁ~、かわいい。セシリアって事は女の子ですよね?」

「そうだ。初めて授かった子だが、なかなかお転婆で手を焼かされる」

「元気な方が安心じゃないですか?」

「まぁ、そうなんだがな。大泣きしたときなんかは大変だぞ?」



今はすっかりスヤスヤ眠ってるけど、そんなにうるさくなるのかな?

こうしてみると天使さんみたいね。



「セシリアちゃん、お母さんに似て美人になるのかなー?」

「私には似ないで欲しいな。ガサツで無愛想な女に育ちかねない」

「何を言う! メリッサは誰よりも気高く、美しく、それはもう大陸で一番の……」

「ダーリ……セロ! 人前でそういう話はよせと言ってるだろう!」



今ダーリンって言いかけたね?

普段はクールっぽいメリッサさんがねぇ。

2人きりの時は、凄いのかな。

私も素敵な旦那さんが欲しいなぁ……とか思ったところで、頭の中にとあるイメージが浮かんできた。


『うちの娘に手を出すからには、死ぬ覚悟は出来てんだろうなぁーーッ!?』


……あまり考えないようにしようかな。

パートナーの件はしばらく保留って事で。



「ところでシルヴィア殿。しばらく逗留されるかね? それとも出立なさるのかな?」

「そうですね、ここに居ても情報が得られないので、こらからグランに向かおうと思います」

「ふむ。グランに行くことは良いのだが、陛下にお目通りは叶うまい」

「え、そうなんですか?」

「最近は魔道具の開発に精を出されていてね。特に今年に入ってからは私ですら拝謁も難しくなっておる」



それは悪いニュースだ。

情報収集は街でも出来るけど、なるべく有力者とも顔を合わせておきたい。

拒絶されたら諦めるけど、不在で会えないのなら話は別だ。



「そうですか……じゃあゴルディナに向かうことにします」

「陛下には私からもお伝えしておこう。そうすれば拝謁も叶うことだろう」

「ありがとうございます。助かります」



それから私たちは、紅茶を片手に世間話を楽しんだ。

ここ数日のお父さんの空騒ぎの話とか。

セロさんは目をまん丸にして驚いてたなぁ。

見る目変わっちゃったかな?


さてさて、コロナを発ってからはゴルディナ。

大陸北東部にある、商人が治める巨大都市だね。

誰かが『国が丸ごと都市におさまっている』なんて言ってたけど、あながち冗談とも思えない規模で、見る度に圧倒されてしまう。



「コロちゃんは、中に入れないかなぁ」

「ゥウオン」



人族の街は基本的に魔獣は入れないんだよね。

場合によっては門兵さんに預かってもらえるけど、ゴルディナはどうなのかな?

ダメもとで頼んでみよう。

ちょうど人の良さそうな兵士さんも居ることだしね。

ひとまず私だけで話しかけに向かった。



「すいませーん。ちょっといいですかぁ?」

「おやお嬢さん。何かお困りかな?」



若い兵士さんの感触は悪くない。

警戒もされてないし。

こういうときはアシュリー姉さんのマネがいいかな?



「えっとですね、うちのワンちゃんなんですけど、街に入れられないかなぁって」

「うーん。大きいのは厳しいねぇ。大型犬かい?」

「おっきいですねぇ。狼さんくらい」

「そっか。悪いけど、その子は中に入れられないなぁ」



やっぱりダメかー。

そうしたら次、ちょっと預かって作戦ね。

私は後ろで手を結び、少し首を傾げてみた。

アシュリー姉さんがよくやるポーズだ。

胸を強調するのは……止めておこう。



「厚かましいかもしれないんですけど……うちのコロちゃんを預かってもらえません?」

「そうしてあげたいけども、今満杯でねぇ」

「……ダメですか?」

「い、いや! 大丈夫! 私が責任持って預かろうじゃないか!」



うん? なんで覆(くつがえ)ったの?

まあいいや、引き受けてくれるみたいだし。

気が変わらないうちに呼んじゃおう。



「コロちゃーん、おいでー!」

「……え? ワンちゃんって、グレートウルフ!?」

「いい? 大人しくしてるのよ? 悪さしたらヒドイんだからね」

「ァオン」



不満気ながら納得してくれたみたい。

門の前でふて寝してるもん。

彼なりの抗議と服従が混ざったような感じだね。



「じゃあ、お願いしまーす!」

「待ってお嬢さん! この子は安全なの?! あと今度ご飯に……」



私は一目散に街へと駆けていった。

何か言われた気がするけど、気にしちゃいけない。

手のひら返しされたら面倒だもんね。

ごめん、そしてありがとう門兵さん。



「さてと、まずは領主館に……いや、埋まっちゃう前に宿の手配かな?」



ゴルディナは本日も大盛況。

特にマーケットエリアがすっごい混んでる!

人にぶつかりながらじゃないと歩けないほどだね。

そういや初めてお父さんに連れて来られたときもビックリしたっけ、懐かしいなぁ。


「あの時泊まった宿とか空いてないかなぁ? 久々に泊まりたいなぁ」


なんて暢気(のんき)に歩いていると、耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。



「キャァァーーッ!」

「悲鳴?!」



ここから遠くはない。

きっと路地裏のどこかだ。

宿の脇から奥へと入り、悲鳴をあげた人を探した。


二つ目の十字路の左手側。

そこは袋小路になっていて、何人かの男が集まっていた。

その足元には、ボロボロの服を着た女の人が倒れ込んでいる。

髪の毛を乱雑に捕まれていて、身動きがとれないようだ。



「なんてヤツらなの……!」



胸の下がドクン、と痛んだ。

お腹の奥に重たい血が流れたような気分がする。

こうなったら、私は止まれない。

勢い良く剣を抜き、男たちを怒鳴り付けた。



「手を離しなさい悪党ども! それ以上は私が許さない!」



剣による立ち会いはこれが初めてだ。

それでも私は、何も怖くはなかった。

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