2ー27  それから子供たちは

まおダラ the 2nd

第27話 それから子供たちは



あの別荘での一件以来、平穏な日々が続いた。

妖狐も反和平派も静かなもんだった。

諸々諦めてくれた……と考えるのは甘いかな?

それでも平和な時間を楽しめることは素直に嬉しかった。


不穏な動きに備える、との名目で豊穣の森に引きこもる作戦は成功した。

その建前によってクライスの持ち寄る仕事の大半を撃退できた、ざまぁみろ。


だからオレはシルヴィアやミレイアと程よく遊び、グレンとのんびり語らい、3人娘と相も変わらぬコメディを繰り広げた。


特に面倒だったのは、セロとメリッサの婚礼が成った時だな。

リタたちが『我らも続け』とばかりに迫ってきたっけなぁ。

その度にアーデンと酒飲みに逃げたんだわ。

豊穣の森とは違い、周りは目まぐるしく変化するもんだと感じたものだ。



そして変化と言えばグレンだな。

アイツは独立したいと言って、レジスタリアに店を構え出したんだ。

ずっと家に居て良いとは伝えたんだが、本人は首を横に振った。

自分は大人になったし、そろそろ自立するよ……と。

いやはや、グレンは本当に立派だよ。

オレだったら死ぬまで働かないで寄生するだろうな。


そしてミレイア。

こっちはロランで教師の仕事をお願いした。

人員不足だったことと、本人の適正を見ての依頼だったが、そちらはうまくいってるようだ。

何やら凄まじいモテ期が来て大変らしいが、真っ当な相手さえ見つけてくれれば良い。

場合によってはお父さんが出張ってやる。

『チミは娘とどういう関係かね?』なんて言ってネチネチ攻撃するのも悪くない。



そしてシルヴィア。

グランニアで助けたその日から、ずっと側にいる愛する我が娘。

毎日のように遊び、ともに飯を食い、添い寝も数えきれない程してやった。


まぁさすがに年頃になってからは、添い寝もお風呂も無くなったがな。

その時は嬉しくもあり、寂しくもあり、不思議な感覚だった。

昔ほど傍に居ることはなく、歳を重ねるごとに娘は手から離れていった。

まぁ『お父さん臭い!』とだけは一度も言われなかったことが救いかもな。


娘の成長を喜ばない父親は居ない。

あの子の幸せの為なら、何だってやってやる。

父親は娘の為であれば、魔王でも皇帝にもなれるんだからな。


だが、これだけは認めるわけにはいかない。

断固として諦めさせるべきである。



シルヴィアが、旅に出たいと言いだしたのだ。



ーーーーーーーー

ーーーー



当座のお金は持った、食料も1週間分ある。

クライスさんからの書状はあるし、緊急用の魔水晶もオッケー。

あとは、これね。

エレナ姉さんから貰った一振りの剣。


旅に出たいと言ったら、これをくれたんだよね。

本当はお父さんから武器を貰いたかったけど、そういうのに無頓着だもんね。


その剣を腰に挿して、準備オッケー!



「じゃあ、行ってくるね!」

「シルヴィアぁあ。本当に、本当に行ってしまうのかぁあ?!」



お父さんは最近ずっとこの調子だ。

こんな情けない魔王さまなんて、史上初めてじゃないかな。



「あのね、本来なら三日前には旅立ってるんだよ? それをあの手この手で引き伸ばしたんじゃない」



三日前はお父さんが胃痛で倒れて延期。

一昨日はお父さんが吐血して延期。

昨日はお父さんのお腹が破裂しかけて延期。


いったい何をやってるんだか。

ここまで私に入れ込んでくれて嬉しくはあるけど、いい加減子離れして欲しいとも思う。



「今日こそ行くからね。もうどこそこが痛い、とか止めてよね?」

「あぁ、ああ! 頭が破裂しそうだ!」

「お父さんってば!」

「アルフ。もう諦めなさいな。シルヴィアが困ってるでしょ?」

「リタ姉さん……」

「さぁ、私たちに後は任せて行ってらっしゃい」

「そうですそうです。アルフの事は私たちが責任もって幸せにしますから!」

「うん、ありがとうね!」



地面をのたうち回るお父さんを尻目に、姉代わりのみんなとお別れをした。

最後にエレナ姉さんが歩みより、私の肩を掴んで言った。



「いいか、剣はあくまでも手段のひとつでしかない。お前はある程度遣えてしまう分、武力に頼る傾向がある。あまり己を過信しすぎるなよ」

「……わかったわ。気を付ける」

「よし。じゃあ、行ってこい!」

「うん! コロちゃん、行くよ!」

「ワフッ!」



これから私とコロちゃんの旅が始まる。

世界のあちこちを巡り、困っている獣人たちを助けてあげるんだ。

かつてお父さんが、私にしてくれたように。



「コロちゃん遅いよ? 置いていっちゃうよーだ」

「ワゥォオオン!」



私の煽りにすぐ反応した。

前傾姿勢になり、速度が一気に跳ね上がった。

もちろん、私も負けていない。

互いに競争するように街道を駆けていった。

亜人の街、コロナを目指して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る