2ー26  黒幕

まおダラ the 2nd

第26話 黒幕



「はぁあ。結局全部失敗か。魔王様よぉ、子汚ねぇガキどもとの再会は嬉しいかぃ?」



無事を確認して安堵したのも束の間、無粋な声によって再び辺りは緊張した。

息の残っていた7人と共に縛り上げられた、セロの兄からの言葉だった。



「兄上! いや、もはや兄とは思わん! これ以上一族の恥を晒さぬよう斬って捨ててくれる!」

「おー、やれやれ! 早いところ殺してくんなぁ!」

「言われるまでも無いわッ!」

「待て、セロ!」



嫌な予感がしてセロを止めた。

オレに刺すような視線が集中する。



「魔王殿、なぜ止められました! このような輩を生かしても不利益になるばかりです!」

「ダメだ。コイツは望んで殺されようとした。必ず裏があるぞ」

「裏……でございますか? それは一体どのような?」

「おう。ちょっと待ってろ」



それは今考える。

こういうのはクライスの役目なんだが、あの野郎は不在だ。

肝心な時に居ないんだから使えねぇよ。


さて、コイツの腹のうちについてだ。

たぶん一番の狙いはオレの命だろう。

和平派であり、戦力としても邪魔すぎるオレを亡き者にしたかった。

だがそれも叶わず、敗れ去った。


次点でセロかメリッサだろう。

どちらかを殺して地域に火種を生み出したかったが、それも頓挫している。

そうなると、これは……。



「自分の命を犠牲にして、反亜人派を煽ろうとしてるな?」

「それはどういう事です?」

「貴人たちが安らげる場所で王族が殺された。経緯はどうあれショッキングだろ? たぶんそれを元に根も葉もない噂を流して、別の企みに利用しようとしている」

「まさか。この性根の腐った男がそこまで……」

「そうすると、ひとつの答えが導き出される」

「それは、何でございますか?!」



みんなの視線が色を変えてオレに集まった。

うん、気持ちいいなコレ。

手品の種を自分だけが知っているような優越感。

クセになりそうだ。



「黒幕がいるぞ。コイツがリーダーじゃない」

「そんな。この尊大な男が誰かの下風に立つなんて!」

「理由は知らんよ。餌に釣られたか、脅されたか。その理由は大して重要じゃないだろ」

「じゃあここで殺してしまっては……」

「それはそれで、向こうの思惑通りってことだ」



オレの推理を聞いて、みんな唸ったような声をあげた。

どうやらソコソコ的を射ているらしい。

これで検討違いな見解を披露していたらと思うと、遅れながら寒気がした。

それから少し間を置いて、エレナが言った。



「それなら本人に聞いた方が早いだろう。アルフの力で出来ないか?」

「そうだな。ちょっと試してみるか」



オレは男の額に向けて手をかざした。

いつもの心を読む力だ。

存分に魔力を込めようとしたとき、思わぬ所から待ったがかかった。



「待ってください! 魔法をかけちゃダメですよ!」

「何だよアシュリー。話は聞いてただろ?」

「そいつらにはプロテクトがかけられてます。魔法や尋問で聞き出そうとしたら、頭がドパーンですよ?」



なんだそれ、えげつない。

アシュリーの言葉を証明するように、確かに異変は見受けられた。

男たちの頭に何やら文字の羅列が浮かびあがったからだ。

オレの力に呼応したらしい。



「なんだぃ。さっきからピィピィうるせぇな。おっかなくて質問すら出来ねぇのか?」

「ふん。オレの挑発に乗ってやらかした男が、仕返しに罵倒するのか? 屁でもねぇよ」

「チッ。知恵者気取りやがってぇ」

「そうすると、このニンゲンどうします? 殺せないんなら釈放ですか?」

「まさか! それはなりませんぞ! 王には私が取り成しますので、どうか討たせてくだされ!」



うーん、セロの意見もアシュリーの意見もダメな気がする。

もっと良い落とし所はないもんかねぇ。

……無くはない、か。



「エレナ、縄持ってきてるだろ? ありったけここに用意しろ」

「う、うむ。良いだろう」

「セロは護送の手配だな。台車で連れていかせたい。重くなるから多めに頼む」

「はぁ、分かりました」

「アシュリー。この辺りで花畑知らないか? 大きめの花があると良い」

「割と近くにありますけど、どうするんです?」

「まぁまぁ、見てのお楽しみだ。じゃあ各人行動開始!」



皆は首を傾げつつも散っていった。


しばらくして、希望のものは集められた。

荒縄と大輪の華8本、丸太も人数分オレが調達した。

そして護送車。

4頭だての立派な護送車が、台車と共にいくつも並んでいる。

短時間でここまで揃ったのだから、みんな真面目に行動してくれたようだ。



「アルフ、これからどうしようというのだ?」

「じゃあオレが実践するから、男連中は見よう見まねでやってくれ」

「男だけで、ですかー?」



アルフの、刑罰教室ぅ!


さて、まずは男たちの服をひっぺがします。

上も下も全部です。

腰巻きひとつ残してはいけません。

生まれたての姿に戻したら、丸太に縛り付けます。

現地に着いたら晒し者にするので、その事前準備ですね。


華は腰の部分に添えましょう。

ご婦人やお子さんにとって目の毒ですからね、その配慮です。

口許には猿ぐつわも忘れないように。

男たちの服を破いて即席の布地を作りましょう。


最後に立て看板をサラサラサラと書いたら……。

出来上がりィーー。



「うわぁ……なんだか恐ろしい刑罰が仕上がりましたね」

「これはキツい。いっそ首を撥ね飛ばす方が慈悲だろうに」

「それが出来りゃこんな手間かけてねぇよ」



ちなみに立て看板にはこう記した。


『この者たちは少女に欲情した手遅れ供である。あろうことか、その悪辣さは純朴少年にまで手が伸ばされた。その許されざる劣情を天に代わりここに誅する』


どうよ?



「ひどい、ひどすぎますよ! これじゃあ社会的に死んだも同然じゃないですか!」

「当たり前だ。国内で影響力を根こそぎ奪う目的もあるんだから。場合によっては黒幕が動くかもな」

「全部が全部嘘でない所がイヤらしい。ほぼ裸で晒すのも、国中で噂にして欲しいからか?」

「その通り。そこに気づくとはエレナも筋が良いな」

「何故だろう。褒められたのに嬉しくないのは……」



こうして、ほぼ全裸の男たちは護送されて行った。

グランの王都で晒されるために。

もちろん、グラン王には許諾済みだ。

正式な謝罪もしたいとも言われたが、それは遠慮した。

そんな気を回すよりも、この刑罰が執行されることに気遣ってほしい、と返答した。



「じゃあな、名も知らぬ王子様。強く生きろよ」

「フムーー! フググーーッ!」



去り際は言葉も無かった。

猿ぐつわがあるんだから、当たり前か。

運ばれていく台車を見送りつつ、オレはふと思った。



「争いって虚しいな。結局手元には何も残らないんだ」

「え? 何を言い出すんです? 凄い笑顔で裸にひん剥いてたじゃないですか」

「それはそれ、これはこれ。締めの言葉が必要だと思ったんだよ」



あいつらは今後、タチの悪いショタ・ロリコンとして生きていく事になる。

せめて餞(はなむけ)の言葉くらい残してやらないとな。

まぁ、それが相手に届いたかどうかは、どうでも良いことか。



「さて、戻るか。腹も減ったしな」

「メリッサ。もし疲れていなければ、あの料理をもう一度お願いできないか?」

「任せてくれ! 今度こそ食べて貰えるように頑張るぞ!」



そういや料理のレッスン中だったな。

念のため、またリタにもお願いしよう。

そんな保険を頭に描きつつ、オレたちは別荘へと戻っていった。




ーーーー

ーー



とある地下の一室。

薄暗い空間に、何人かが集められていた。

一人は椅子に腰掛けつつ、酒をゆっくりと味わっている。

残りの人物は、膝をついて恐縮している。

静寂を乱さない小さな声。

しわがれた老人特有の声が、室内にかすかに響いた。



「失敗した、か」

「はっ。それとなく焚き付け、大水晶まで用意しましたが……魔王には遥か及ばず」

「まぁ良い。力押しで叶わん相手だと知れた。それだけでも収穫よ」

「弟は命はあるものの、王都で晒し者となっておりますが」

「捨て置け。こちらの存在を気取られる方が余程問題だ。邪魔になるようなら殺して構わん」

「承知しました」



場合によっては王子を殺せ。

そんな大胆な言葉に、誰一人驚いた様子はない。



「そなたこそ気を付けよ。親亜人派として立ち回らねばならぬ」

「問題ありません。有力貴族の信を得るまでは先代の言葉に従う所存です」

「王に就いて間もないのだ。まだ基盤も危うい。尻尾をだすなよ?」

「ハハッ。先生もご自愛下さりませ」

「たわけ。小僧に気遣われるほど老いてはおらん」



少しだけ声色が高くなった。

配下の言葉に気を良くしているのかもしれない。

杯に新しく酒を注ぐのも、照れ隠しの為か。



「やるべき事が増えたな。各国要人の抱き込み、魔王軍と戦えるほどの魔道具の研究、私兵の増員。ともかく金が要る」

「既に多額の金が集まっておりますが……」

「まるで足らん。場合によっては大戦になるのだ。税収の1、2年分程度では直ぐに底をつく」

「では、臨時の税を徴収して……」

「慌てるな、馬鹿者が。短期決戦はもはや無用。以後は長期戦と心得よ」

「申し訳ありません。短慮にございました!」

「金を生む仕組みはワシが考える。そなたはただ実行すれば良い」



老人とは思えないほどの、獰猛な目がギラリと光った。

彼らの企みは終わってなどいない。

むしろこれからが本番と言えるかもしれない。


その次なる一手を、アルフレッドたちは知る由もなかった。

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