2ー25  捕まっちゃいました!

まおダラ the 2nd

第25話 捕まっちゃいました!



何ということでしょう。

私が付いていながら、おめおめと拐われてしまいました。

これが自分一人ならまだしも、シルヴィアちゃんまで一緒です。

なんとか挽回しないとお父……魔王様に合わせる顔がありません。



「大丈夫ですか、怪我してませんか?」

「シルヴィは大丈夫なの。ミレイアちゃんは?」

「ええ、私も平気です」



お互い怪我はナシです。

そうなると、どうやって脱出するかだけ考えればいいのですね。

まずは状況を整理しましょう。


私たちは今、小屋の中に閉じ込められてます。

両手を後ろに縛られてはいますが、足は自由です。

そして見張りは中に1人、外に1人のようです。

もしかすると、どこかにもっと居るかもしれませんから、最低2人と考えるべきでしょう。

小屋の中に武器になりそうなものは……棒キレ1本ありません。



「ミレイアちゃん、どうするの? やっつけちゃう?」

「そんな物騒な事を言ってはダメですよ。アマゾネスじゃないんですから」

「だってぇ……」

「それに迂闊に動くわけにはいきません。今より状況が悪くなっては困ります」



こういう時に頼りになるのはグレン兄様……だと厳しいですね。

あの人は荒事には向いてないですし。

そうなると、やはりコロちゃんでしょうか?

引き離されてしまいましたが、どうにか合流できないでしょうか。



「シルヴィアちゃん、コロちゃんを呼べませんか?」

「たぶん……できると思うの。でもケガしてると思うの」

「今はあの子に期待するしかありません。無理ならば諦めますが」

「じゃあやってみるの。すぐよぶの?」

「もう少し様子を見てからにしましょう」



果たして早く呼ぶべきか、それとも隙を窺うべきか。

それを判断するのは私でなくてはなりません。

これまでもシルヴィアちゃんの姉であろうとして頑張ってきました。

その意地をここで見せなくて、いつ見せろと言うのでしょう。



見張りの男の鋭い目が飛んできます。

内緒話が聞かれてしまったのでしょうか。


怖い……。

怖い、けど頑張ります!

私だって魔王軍の端くれなんですから!


その時、入り口のドアが開きました。

やってきたのは外の見張りの男です。

状況は変わらず悪いままですね。



「何だよ、交代には早いだろう」

「あのさ。わりぃんだが、しばらくオレに任せてくれねぇか?」

「任せろって、部屋番をか?」

「おうよ。だってよぉ、こんな可愛い子が2人もいるんだぜ。わかるだろ?」

「えっ。お前、そういうヤツなのか……?」

「うるせぇ! オレは真剣なんだ! こんなチャンス2度と無いかもしれねぇだろ?」



なんかヤバい人が来ました。

この世界で度々見かける異常な性癖を持つ人。

というか、そんな人が多すぎやしませんか?



「シルヴィアちゃん、コロちゃんを呼んでください。なるべく急いで」

「わかったの」



ぉお~~ん!

まるで子犬のような雄叫びが小屋の中に響きました。

するとどうでしょう。

少し間を置いて、


ワォオーーン!


という遠吠えが聞こえてきました。

距離はそれほど離れていません。

これは幸運かもしれません!



「ガキ! 今何をしやがった!」



次はこっちの対処です。

何とかして言い繕わないと、身の危険が増してしまうでしょう。



「ごめんなさい! この子は獣人だから、朝と晩に吠えてしまうんです!」

「そうなのか? 声を荒げて悪かったな……」

「いえいえ、誤解が解けたなら結構です」

「待てよ? 今は昼じゃねぇか!」

「ああ! しまった!」



何という凡ミス!

せめて朝昼晩の食後に吠えると言えば良かった!

あ、それもダメだご飯食べてない!

私のバカぁあーーっ!!



「全く、いいからお前は出てけ。出来れば半日くらい」

「長ェよ! つうか今の聞いたろ? あのグレートウルフが近くに居るんだよ!」

「大丈夫、どうせ死にかけだ。オレたちだけでもなんとかなる……」

「待て、通信が入った」



男は何やら見慣れぬ何かを手に取りました。

そこからは、くぐもった声が聞こえてきます。


ーー作戦変更だ! ガキどもを殺せ!


余りにも無慈悲な言葉に、私には言葉がありませんでした。

そして、小屋の中は一時静寂に包まれました。


唾を飲む音、荒くなる呼吸、身じろぎする靴の音。

それらをいくつか聞いてから、男たちに動きがありました。

よりによって変態の方です。



「よし、ヤル事やってから殺ろう!」

「ふざけんな! モタモタしてたらオレまで旦那に殺されちまうだろ!」

「お前は何もわかっちゃいねぇ。美少女の体と自分の命……比べるまでもねぇよ」

「おい、やめろ!」



無遠慮に伸ばされた手が、シルヴィアちゃんを2つの危険にさらそうとしています。

コロちゃんは……間に合いそうにありません。

こうなったら私が時間を稼ぐしかありません。



「うわぁぁああーーッ!」



頭から男に向かって突撃しました。

もちろん、頭突きなんて攻撃ではありません。

歯、です。

手入れが下手くそな割に不思議と虫歯一本もない、この丈夫な歯でやっちまいます。


食らうがいい、ド変態!

その倒錯した性癖を腕の筋ごと噛み千切ってやるぜぇぇええーー!!


やるぜぇぇええーー……。



カキンッ。



あら?

外しちゃいましたか?!

手応えは、自分の頬肉の感触だけです。

イタタタ……。


というか、外しちゃダメです!

私は顔をあげて、男の姿を探しました。


すると、なんて事でしょう!

シルヴィアちゃんに覆い被さってるじゃありませんか!

早く離さないと!

私が喉笛に噛みつこうと、再び狙いを定めました。


ーーその時です。


男が白目を向き、泡を吹いて倒れました。

いったい何が起きたのでしょうか。



「ダメじゃない! ワルい子はオシオキです!」



私の前で、シルヴィアちゃんが仁王立ちになって言いました。

さっきまで必死に守ろうとしていた子がナイト様に早変わりです。

足元には引き千切ったらしいロープが転がっています。



「あるふもダメじゃない! 見てるだけじゃなくて、しからないと!」



あぁ、まんまリタお姉さまの叱り方を再現してますね。

その『あるふ』っていうのは、あなたのお父様の別称ですよ?



「クソが! いい気になるなよ!」



もう一人の男がナイフで切りかかってきました。

さすがに丸腰では戦えない……、と思っていたのですが。



「この! ちょこまか動きやがって!」

「あるふ、タチスジはいいが、サッキまみれで、ダメだぞ」



今のはエレナお姉さまのマネでしょうか?

見事な足裁きで何度も斬撃をかわし、男との距離を詰めていってます。



「クタバレ! くそがきッ!」



怒りに任せた横薙ぎを、股くぐりしつつ避けて背中に回り込みました。



そしてェエーーッ!


跳躍してからのォオーー!


後頭部に回し蹴りィイーーッ!


よろめく男を逃さずにィイーーッ!


追撃の飛び蹴りだァアーーッ!!



見事ナイフの男も倒し、小屋の外へ追い出してしまいました。

やったね☆



……はぁ。

シルヴィアちゃんの圧勝じゃないですか。

もうお姉さんぶるの、やめちゃおうかなウフフ。



それからすぐに、魔王様とアシュリーお姉さまに助けられました。

なんとか窮地を脱することが出来たのです。


戻ってからは皆に慰められ、そして気丈に戦ったことを誉められましたが、私にはどうも素直に受け止められません。

ほとんどシルヴィアちゃんのお手柄です。

私は四苦八苦するばかりでした。


そんな居心地の悪さも、魔王様に抱き寄せられた時に氷解したのです。



「すまなかった。怖かったろう」

「そんな、私だって、魔王軍の一員ですから……」

「これからは警護も考えよう。もう2度とあんな目には遭わせないからな」

「ヒグッ。怖くなんか……こわくなんかぁ……」



泣きました。

それはもう盛大に。

なんだか安心したら涙が止まらないんですよ。

小屋にいたときは平気なのに、不思議ですね。

心配したのかシルヴィアちゃんも、私の頭を撫でてくれてます。

何というか、独りで背負い込んでいたことが恥ずかしい気分です。



「リタ。子供たちをどこか安全な所へ」



その言葉によって魔王様の腕から引き剥がされてしまいました。

もうちょっと体温を感じてたかったんですけど、仕方ないですよね。

魔王様にはまだお仕事が残ってるようですから。


それから私とシルヴィアちゃんは、リタお姉さまに連れられて別荘へと向かうのでした。

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