2ー24  セロとの違い

まおダラ the 2nd

第24話 セロとの違い




「グレン!」

「グレンきゅん?!」



オレとアシュリーが並んで駆け出すが、その足は止まる。

グレンの首元に刃が突きつけられたからだ。



「おいおい、素人さんかよぉ? わかるだろ。動くな」

「グレンに何をしやがった……!」

「まだスヤスヤ寝てるだけだよ。五体満足でいられるかは、今後次第だ」

「何が目的だ!」



オレは分かりやすく大声を出しながら、後ろ手に指示を出した。

リタは左、エレナは右から攻めろ。

もちろん隙が生まれたら、の話だ。


「目的はシンプルだぜぇ? お前ら全員の命だ。ガキを殺されたくなきゃ言うことを聞け」

「卑劣漢め! 子供を人質に取るなど外道ですらない!」

「あなたたち、そこまでするからには覚悟はできてるのよね?」



2人から確かな闘気が発せられた。

オレの意図は伝わったらしい。


それから睨み合いの形になると、敵の手下が広く展開した。

オレたちを囲むような半円の陣だ。



「あとな、捕まえたのはコイツだけじゃねぇ。魔王には可愛がってる娘が2人いたよな?」

「……まぁ、そう来るよな」

「甘ぇよ。大事なもんの護衛が犬一匹じゃなぁ」

「待て。あの少女にはグレートウルフが付いていたはず! 兄上の腕前では多数でも討ち取れるはずが……」

「兄貴を無能扱いすんな、殺すぞ」

「私の見立てが間違えてるとでも?」

「……腹立つが、間違っちゃいねぇよ」



忌々しげに吐き捨てたあと、男は右手を突き出した。

その手には拳大の水晶が握られている。



「それは、大水晶!? なぜ兄上がそれを!」

「経緯はテメェらには関係ねぇだろ。それよりも、絶体絶命であることは理解できたよな?」

「国宝を私闘の為に持ち出すとは……」

「ハッハッハ、どうだ魔王! 今のオレは辺りを灰にするだけの力があるぞ? 人質も取られたお前に打つ手なんかあるかぁ?!」



勝ち誇った兄様とやらは魔法攻撃の体勢に入った。

回りの男たちもそれに倣って両手をこちらに向けた。

辺りに獰猛な魔力が集まり始めた。

水晶をもった男には、一際濃厚な魔力が集約され始めている。



「気分の良いところ悪いんだがよ、セロの兄上さんよ。それでおしまいか?」

「何が言いてぇ……?」

「オレに直接ケンカ売っといて、それだけかって聞いてんだ」

「強がるのも大概にしとけよ、見苦しいんだよぉ?」

「いやさ、何か非凡なところ1個でもあるかなーと思って探しててさ。そしたらやり口も要求までも普通、お前はてんでダメなヤツだな」

「テメェ! 状況わかってんのか?!」

「わかってるわかってる、手際の良さと国宝を持ち出した度胸は良いとして、他は落第点だな」



相手に辛抱強さや思慮深さはないらしく、安い挑発に乗り掛かっていた。

集約されている魔法量も一気に増えている。

あと一息で落とせそうだ。



「つうか人質ってお前。妖狐と同じ手段じゃん。案外お前ら気が合うんじゃねぇの?」

「黙れぇえッ! 総員放て!」

「アシュリー、みんなを魔防壁で守れ!」

「かしこまりやした! アルフはどうします?」

「オレはグレンだ」



号令のもとに四方八方から火焔弾が飛んできた。

それらは全弾直撃し、天高く火柱が舞い上がる。

一切を燃やし尽くす灼熱の地獄。

骨の欠片も残らないほどの熱量だった。


炎の陰からは高笑いが聞こえてくる。

チャンスは今だ。



「なんだなんだ、口ほどにもない! 何が落第点だ凡庸だ! アッサリ殺されたテメェは何だって……」



指揮官の油断は部下に広がる。

グレンへ向けられた刃が降ろされた。

揺らぐ視界の中でそれを認め、オレは炎を突っ切って突撃した。



「やっぱりお前は落第小僧。悪知恵だけの半端者だ!」

「何だと?!」



ひと駆けでグレンの元へたどり着き、抱き抱えて戦線離脱。

こうもアッサリと挑発が成功したのも敵が寄せ集めだったからだろう。

正規兵じゃ無かったことが幸いした。



「アシュリー! みんなは無事か?!」

「平気平気ー、焦げひとつないでっすー!」



よしよし、アシュリーも良い仕事をしたようだ。

さて、無法者諸君。

今度はこちらの番だ。

そろそろ死んじゃおうか。



「みんな、懸かれ!」



困惑する敵へ攻撃命令を下した。

正面に対してオレの魔力弾が飛び、アシュリーの雷も放たれた。

リタとエレナは左右に展開し、瞬く間に切り伏せられ、風に切り裂かれていく。

たった一呼吸の反撃でほとんどの者が倒された。



「クソッ! こっちにはまだ人質が居るんだぞ!」

「お前らを潰してから助けに行くだけだ。シンプルだろ?」



ここまで教科書通りに動いてくれたコイツらだが、次の手も想定通りだと助かる。

するとお決まりのように、相手は魔道具らしきものを取り出した。



「作戦変更だ! ガキどもを殺せ!」

「魔王殿、あれは通信の魔道具です!」

「リタ、魔力の行き先を探れ」

「んーー、あの丘の方よ。小屋があるわ」



ナイスアシスト誘拐犯。

本当に天辺から爪先までテンプレートな動きで分かりやすかったぞ。



「アシュリーはオレに着いてこい、小屋に向かう! リタはグレンの介抱、エレナは手の空いている連中で敵の捕縛だ!」



ここからは早さが大事。

シルヴィアたちに凶刃が向けられる前に制圧する!

全力で飛び立ち、小屋へと着いた。



「シルヴィア、ミレイア、無事か!?」



扉を蹴破ろうとした時、その扉が勢いよく開いた。

そして人影がオレに向かって突進してきた。



「な、なんだコイツは?!」

「もしかして、あの連中の一味じゃないです?」



人影は人間の男で、野盗のような身なりをしていた。

その男は白目を向いたまま倒れている。

恐らくは見張りだろう。

いったい誰が倒したというのか?



「あ! おとさんだー!」



小屋からポテポテと愛娘が駆け寄ってきた。

憔悴どころか、気疲れひとつ見せない姿で。

ミレイアもどこか憮然とした顔で小屋から現れた。



「シルヴィア、大丈夫だったか?!」

「シルヴィは大丈夫なの。でもコロちゃんが……」

「魔王様、コロちゃんが近くに居るはずです。怪我をしているので助けてあげてください!」

「わかった。アシュリー、捜索を頼む」

「はいはい。今日の働きは合体で返してくださいね?」

「いいから行け」



言われてみれば弱々しい雄叫びが聞こえていた。

冷静に考えてみれば、それはコロのものだったようだ。

さて、そっちはアシュリーに任せて、2人に聞かなきゃならんことがあるな。



「なぁ、ミレイア。この男たちはどうやって倒したんだ?」

「それは、その……」

「はーい! シルヴィがオシオキしたの!」



屈託の無い、まっすぐな答えが腕の中から返ってきた。

うん。

なんとなくそんな気はしてた。

でもどこか頭が拒否してたんだよな。


だが、認めなくてはならない。

うちの娘がとうとう悪人をぶっ飛ばせるくらいに成長したことを。

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