2ー20 見守りたい
まおダラ the 2nd
第20話 見守りたい
頑なだ。
セロは本当に頑なだった。
まるで他者を遠ざけるような、自ら心を閉ざしていっているような、そんな印象を受けた。
「セロ、最近働きすぎらしいじゃねぇか。もう少し考えねぇと潰れるぞ?」
「あぁ。確かに忙しくはありますが……それは私が望んだものですので」
「罪滅ぼしのつもりか?」
「そんな格好の良いものではありません。ただ、自分が許せないだけです」
セロは俯いて自分の足元を見つめた。
その目は暗く、何者かを恨んでいるようでもある。
「周りが心配してるってよ。今にもお前が倒れそうで」
「ジッとしている方が辛いのですよ。自ずと時間が空かないように、用事を詰め込んでしまいます」
「メリッサも心配してたぞ。意外だがな」
「メリッサ殿が?」
「そうなんだろ? オイ!」
「え? 彼女も来ているのですか?!」
オレたちの背後に積み上げられている木箱がガタガタと揺れた。
本人は隠れてるつもりらしいが、端っこから耳が飛び出ているぞ。
「み、ミャーウッ」
「猫じゃないですか」
「往生際が悪いヤツだな。3秒以内に出てこないと吹き飛ばすぞ」
「……再び会うとは奇遇だな、魔王殿」
ノッソリと物陰から現れたメリッサ。
目の前に立つなり不必要に胸を張り、視線はあらぬ方に向けられ、髪をしきりに後ろへ流している。
とても猫の真似で乗りきろうとしたヤツの態度とは思えん。
さらに言えば、耳が超スピードでパタパタと暴れている。
誤魔化しきれてないんだよなぁ……。
「本人同士で話し合った方がいいんじゃねぇか?」
「直接……ですか?」
「そうだ。これ以上すれ違わない為にな。お喋りするくらいは構わないだろ?」
「まぁ、それくらいでしたら」
セロの返事を聞いて、オレはメリッサにも顔を向けた。
さっきから延々と髪をバサバサ払っている。
お前は枝毛を量産したいのか?
「メリッサ。セロから話があるそうだぞ」
「ひゃ、ひゃい!?」
「忙しくないなら相手になってやれ」
「フン! 仕事は山盛りだが、付き合ってやる! は、半日だけだからな?!」
「お前はどこまで語り尽くす気なんだ?」
それから2人は町外れの草原へと歩いていった。
もちろん寄り添うなんて事はなく、じれったくなる距離を保って。
なんつうか……世話焼きたい!
もの凄く近くで見守りたい!
そんな気持ちにさせる後ろ姿だった。
「そう思わねえか、アシュリー?」
「あら、バレてましたか」
何もない空間から、アシュリーは顔だけをヒョッコリと出した。
見た目が悪いから体ごと出てこいよ。
「すげぇ隠蔽率だな。秘術か何かか?」
「ふっふーん。これこそ森の賢人様が持つ力のひとつ! 他人から見えない、聞こえない、触れられないの3拍子そろった超魔法ですよ」
「ほほう。つまり誰かの傍に居てもバレないと?」
「そうですそうです。アルフにはバレちゃいましたが、そう簡単に見破れませんよ」
「アシュリー君、素晴らしい力を持ってるな。私にもかけたまえ」
「ヌフフ。アルフも悪い人ですねぇ」
「さっきまでお前もやってたろ。いいから急げ!」
後々知ったことだが、無制限に隠れられるものではないらしい。
アシュリーと密着していないと効果が無いんだとか。
デメリットは先に開示しておけよアシュリーこの野郎。
いくらか遅れてセロたちを追いかけたが、探す必要はなかった。
2人の頭が何もない草原にポツンとあるのが見えたからだ。
4歩分ほどの距離を空けて、並んで座っている。
調度良いのでその間にオレたちも座った。
「すげぇな。全然気づかれてねぇぞ」
「でしょでしょ? ちょっと狭いこと以外は完璧なんですから」
アシュリーの言う通り、有効範囲はとても狭い。
文字通り一人分のスペースしか効果を及ぼさない。
うっかり足でも伸ばそうものなら、脛から先だけ見えたりするらしい。
だからオレたちは密着する必要があるのだが……。
「おい、もう少し位置関係はなんとかならないのか?!」
「無理ですねー。これ以外はあり得ないです。というか、ここまで来たら我慢してくださいよ」
あぐらをかいたオレの上にアシュリーが腰かけている。
しかも、向かい合うようにして。
さらに言えば、アシュリーは足をオレの背中に交差するようにして、ガッチリと体勢をキープしている。
これはもはやアレにしか見えない。
「アシュリー、あんまり動くなよ」
「そう言われてもポジションが……よいしょ☆」
「てめぇ今のはワザとだろ?!」
「そんな事ないですよー。あ、パンツ脱ぎますか?」
「やっぱりかオイ!」
さっきから嬉々として腰をユサユサ揺らしやがって。
盛ってるカップルみてぇじゃねえか!
「まあまあ、あんまり暴れると外に出ちゃいますよ?」
「わかっちゃいるが、この体勢はさすがに」
「出したいなら私は構いませんよ。思う様に中でも外でも出したいだけ……」
セクハラは止めてください!
つうか本来の目的そっちのけかよ!
そんな品の無いやり取りも、メリッサの言葉をきっかけに鳴りを潜めた。
「セロは痩せたな。毎日大変なのではないか?」
「……まぁ、忙しくはある」
2人を目線を合わせることなく、遠くの山々を見つめながら話していた。
だがその表情は対照的と言って良いくらい全く違う。
冷や汗を流しつつ、口許は痙攣したようにピクピク動き、視線がソワソワ定まらないメリッサ。
まるで生気を無くしたように、ただボンヤリと遠くを眺めるセロ。
この様子を見ると、本当にセロには気が無いのかもしれない。
「魔王殿がやってきた。メリッサ殿との縁談についてだ」
「そ、そうか。どうせ断ったのだろう?!」
「もちろん。お断りした。メリッサ殿だってそうするだろうから」
「……ぉぅょ」
「うっわー。セロもキツい言い方するな。もう少し気を使って話せばいいのに」
「いやいや。この方が言われた側は楽ですよ。あれこれ言葉を並べられても傷が深くなるだけですもん」
「楽だなんて言うが、この表情を見ても言えるか?」
メリッサは精神攻撃をキッチリ食らっていた。
耳は垂れ、目元には涙が溜まり、口からは言葉になら無い声が小さく漏れている。
今なら容易く幻術にかかりそうだ。
「見てみろよ。散歩中に伝説の邪神にでも出くわしたような顔じゃねぇか」
「ほんとですね。戦闘中に武器が折れたアルフみたいな表情ですね」
「おいその話はヤメろ」
「というか、セロはメリッサが好きだったんじゃないんですか? 全然話が違いますよね」
「そのハズなんだが……、もしかして他の女が好きになったとか? 若いから気も変わりやすいかもしれんし」
「あ、静かに。メリッサが何か言いそうです」
「そう、だな。私は戦うことしか知らん武骨なオバサンだ。け、結婚など向いてはいない。セロももっと若くて可愛らしくて、夫をたててくれる女を娶った方が……」
「違う! 違うんだメリッサ殿!」
さっきまで脱け殻のようだった男の目に、突然生気が籠った。
今までくすぶっていた想いに火がついたようだ。
「アルフ、これはちょっと見応えがありそうですね?」
「かもなぁ。どうやら単純な話じゃないらしい」
「もうちょっと見守りますか。よいしょっと☆」
「ポジショニングやめろ」
いよいよ本音のぶつかり合いが始まるようだ。
今はそれで良いと思う。
立場も役目もかなぐり捨てて、腹の内を明かすべきだ。
今は他に誰も聞いていないのだから、フフ。
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