2ー5  和平に向けて


まおだら the 2nd

第5話 和平に向けて




「アンチマジック? なんだそれ?」



オレたちはグランに程近い森のなかに居る。

これからの交渉(しゅくせい)の打ち合わせをする為だ。

状況整理のために皆に発言を促したところ、アシュリーが耳慣れない言葉を口にしたのだ。



「知らないんですか? マイナーな魔法ですし、無理もないですかね」

「聞いたこともないぞ。リタは?」

「んー、昔ちょっとだけ耳にしたような……。詳細は覚えてないわ」

「簡単に言えば、相手の力を抜き取る魔法ですよ。抜き取った力を水晶に封じたり、自分に取り込んだり出来る。まぁ外法ですね」



何故このタイミングでその話をしてるんだろう。

交渉の打ち合わせをしてたはずなんだが。

待てよ、もしその外法とやらが関わってくるとしたら……。



「コロナの連中がアンチマジックを掛けられてるってことか?」

「間違いないですね。あの領主、妙に魔力が弱いと思いませんでした?」

「アルフ、それには私も同意見よ。あの人は大弧というにはちょっと……」



そういや『力を奪われた』みたいな事も言ってたな。

比喩的な事かと思ったが、そのままの意味だったようだ。


確かに人族が有力種を奴隷扱いするには、何かしらの手段が必要だろう。

本来なら束にならなきゃ叶わない相手なのだから。

つくづく酷い時代だったのだと思わされる。



「つまり亜人は、散々虐げられ、群れや家族とも引き裂かれて、強引に力まで奪われた。それらの悪事の元凶である人間と亜人の手を結ばせる、か。これ無理だろ」

「まるっと解決なんて無理でしょうねー。でも王家のヤツらの首をはねて並べれば、少しは軟化するんじゃないです?」

「物騒なことを言うなよ。アマゾネスかお前は」

「でも、ここまで恨みが募っては……正攻法じゃ解決はできないんじゃない?」

「うーん。やっぱり血を流すしかないのかなぁ」



実を言うと、多数の死者を出すことには乗り気ではない。

流す血が多いほど、新たな悲劇と恨みが生まれてしまうからだ。

そういった負の連鎖は、一旦勢いがついてしまうと誰にも止めることが出来ないだろう。

ここは舵取りを誤らないように気を付けるべきだ。


まぁそれでも、誘拐しようとした犯人はヤッちまうがな。



「じゃあ乗り込むのはオレとリタ。他のメンバーはここで待機。いいな?」

「わかったわ」

「ぐぬぬぬ。まさかの置いてきぼりですか……!」

「こらえろよアシュリー。お前が王宮に乗り込んだとしたら、最初に何をする?」

「もちろん、居並ぶ連中の頭が全部ポーンですよ!」

「はい、留守番組。暴れ回んのは最後の手段だ」

「あぁ、誘導尋問とは……アルフも狡い男ですね」



いや、今のは自白だろう。

まるでオレが罠張ったみたいな言い方すんな。



「乗り込んだら、そこで適当に会話。途中でオレがぶちキレる。震える連中に最大限の譲歩を迫る。それでもダメならリタの幻術を使う。これでどうだ?」

「それでいいけど、怒るなら自然にやらないと。芝居がバレると、逆効果になるかもしれないわよ?」

「大丈夫。あいつらは間違いなくオレをキレさせてくれる」

「そうなの? 妙に自信があるのね」

「面識があるからな。最高にムカつく連中だぞ」



連日のようにやってくる会談希望者と顔を合わせていた頃、あらゆる国の高官とも対面していた。

中にはやはり、レジスタリアを辺境国だの、野蛮だの言うヤツは居た。

その中でも取り分け酷かったのがグランだ。

何度『滅ぼすぞ』と恫喝したか覚えていないほどだ。


今振り替えると、滅ぼすべきだったと思わんでもない。



「グレン! オレは王宮に行ってくるから、2人を任せたぞー!」

「わかったよ、気を付けてねー!」



グレンをお守り役として、シルヴィアとミレイアには離れたところで遊ばせていた。

退屈だろうが、もうしばらく待っていてもらおう。



「おとさん、まって!」



森の外に向かおうとしたところ、シルヴィアが駆け寄ってきた。

少し遅れてミレイアもやってくる。



「おとさん、あぶないことするの? こわいことするの?」



不安を隠さないままシルヴィアが言った。

ミレイアも沈痛な面持ちだ。

これまでの事を思えば、子供たちが心配するのも当然かもしれない。

オレは膝をついて、優しく2人の頭を撫でた。



「今回は大丈夫だ。ちょっとおっさんたちと話し合ってくるだけだから」

「本当? いたかったら、にげてね。こわくても、にげてね」

「わかった。危なくなったらそうするよ」

「魔王様、ここに何の変哲もない木剣があります。護身用にお持ちください」

「うん、ミレイア。これから話し合いだから、それは持っといて」



ミレイアが『ええーー?!』って顔になる。

この表情を見るのも久しぶりだな。



「アルフ、そろそろ……」

「そうだな。行ってくる!」

「いってらっしゃーい!」



子供たちの声援を受けて出発だ。

この子たちの未来のためにも、うまく立ち回らなくては。

心を新たにグランの街へと向かった。

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