2ー4  コロナの領主

まおだら the 2nd

第4話  コロナの領主



亜人の町コロナ。

それは獣人の町ロランから見て北東方面にある。

構成している住民は半数が獣人、残り半数が大弧、妖狐、竜人、有翼人といった有力種であった。


それらがひと所に500人以上が暮らしているのだ。

そんな町がロラン、プリニシア、グランに面しているので、大陸内有数の『緊張地帯』であると言える。

彼らが一斉に牙を剥いたとしたら、大規模な戦争に繋がるだろう。

だからなんとしてでも、友好関係を築くべきであった。



「へぇ。町ができて日が浅いのに、だいぶ形になってますねぇ」

「あいつらも必死だろうからな。一日でも早く快適な暮らしを手にしたいんだろ」

「……それだけじゃ無さそうね」

「町全体が闘気を放っている。平時の町とは程遠いな」



アシュリーの感想に、エレナが付け加えた。

その指摘の通り、周辺には戦時下のような緊張感が漂っている。

鍛治場からは忙しなく槌の音が聞こえ、その入り口には数々の剣や槍が並んでいる。

家屋は粗末で、道も整備されていないのに、農工具よりも武器が率先して作られているようだ。

道を歩く住民は、老いも若きも最低限の武装を身に付けている。

自衛、というには過剰なほどに。



「さて、どうするんです? まずは宿の手配でも……」

「いや、まずはここの代表と話をしてみよう。敵対される事はないと思うが、相手の腹を先に探っておきたい」

「そうですか。あの大きな建物がそれっぽいですね」



町の中心部には他の建物と比べて2回りほど

大きな建物が建っていた。

近くに居たヤツに聞くと、そこが領主館らしい。

入り口で用件を告げると、すぐに奥へと通してくれた。


そうして案内された執務室はとても狭く、調度品のひとつもない質素な部屋だった。

全員はとても入りきらないので、リタとアシュリーだけ連れて面会した。



「魔王アルフレッド殿。コロナはあなた方ご一行を歓迎する」



出迎えたのは大弧の女だった。

目が細く、長身で、長くて艶のある金髪が特徴的だ。

種族の特徴だろうか、どことなくリタに似ている。

だが、目の前の表情は微笑とはほど遠い。

むしろ相手を威圧するような印象さえ受けた。

それでも一応は友好的に振る舞ってくれるのだから、今はそれだけでも十分だろう。



「メリッサという。この町の代表であり、種族は大弧である」

「アルフレッドだ。人族なんだが、そこには拘らないでくれ」

「亜人にとっての英雄が何を言うかと思えば……第一声が冗談とは思わなかったぞ」

「いつもこんな感じだ。話しやすいだろ?」

「まあな。早速ではあるが、用件を聞かせていただこう」

「近くを通りがかったから寄ってみただけだ。ご機嫌伺いだよ」



メリッサは表情を変えない。

鋭い目線をこちらへ向け続けている。



「あなたが我らの機嫌をとる理由など無いだろう」

「いやいや、ご近所さんとは仲良くしないとな。持ちつ持たれつって言うだろ」

「我々はロランの町とうまくやっているし、豊穣の森への侵犯もない。つまりはニンゲンどもの差し金でやってきたのだな?」

「疑り深いな。ちょっと寄っただけなんだって」



こちらを見る目がより厳しいものになった。

一瞬で看破するってことは、メリッサは予想以上に頭が回るらしい。

長年の苦労が思慮深さを培ったんだろうか。


それでも懸命ではあるが、固い。

外交が上手というわけでは無さそうだ。

だったらこちらは有効そうな手段に変更するだけの事。



「……正直な話さ、お前の読み通りだよ。人族との接し方について話し合いたくてな」

「やはりな。我らをどうするつもりだ? 再び奴隷の身にでも落とすか?」

「まさか。もう少しおとなしくして欲しいってだけだ。人間は臆病だから、戦の臭いがしただけで眠れなくなっちまうんだ」

「大恩ある魔王殿のお言葉だが、受け入れることはできん」

「せっかく安寧の日々が手に入ったんだ。なんでわざわざ戦争の火種を生み出すんだ?」



既に小規模なぶつかり合いが起きていることは、クライスから知らされている。

これでどちらかが本気になれば、また大戦となってしまうだろう。



「我らは奪われたのだ。尊厳を、文化を、家族を、力までも!」

「力?」

「このまま生き恥を晒すなど耐えられぬ。誇りなき生になんの意味があろうか」

「お、おい。あまり興奮するなよ」

「魔王殿。安寧と言っていたが、再び手を出してきたのはニンゲンの方だ」

「本当か?」

「現場に私も居たのだ。何人かの娘がさらわれそうになった。扮装してはいたが、間違いなくグラン王家の連中だった」



オレは心の中でグラン王の顔をぶん殴った。

次の目的地が決まった瞬間でもある。



「でもなぁ、良く似た他人かもしれないし早合点は……」

「あやつの顔だけは死ぬまで忘れん。視察と称し、我らの生き地獄を連日連夜眺めていったのだ」

「このまま突き進めば、戦争だ。下手をすると大陸中争うことになるかもしれんぞ」

「我らが恨みは魂に刻まれている。その疼きに耐えるくらいなら死を選ぼう」



そこでメリッサが鈴を鳴らした。

部屋に衛兵らしい男が2人現れた。

敵意こそないものの、弾けそうな程の闘志を発している。



「お引き取りいただこう。これから会食、という訳にもいくまい」

「考え直す気はないか?」

「人族が己の所業を恥じ入る日まで、戦いを止めぬであろう」

「そうかい。決意は固いようだな」

「我らが父祖の霊に誓って」



メリッサの手が扉の方へ向けられた。

会談は終わり、という事だろう。



「じゃあ最後に領主の先輩としてアドバイスしておくぞ。あまり形にこだわるな。領民ってのは意外としたたかで、融通が利く。その頂点に立つものは、それ相応の柔軟さが求められるぞ」

「……肝に命じておこう」



ーーバタン。



交渉は物別れに終わった。

その足でエレナたちを迎えにいった。

子供たちは結果について、オレたちの顔色で判断したらしく、その表情はみるみる大人しいものに変わっていった。



「さぁて、グラン王家の諸君。これから魔王くんが遊びに行くよぉー?」

「あら、アルフ。随分と良い顔してるじゃない」

「何言ってんだ。お前らだってよっぽどだぞ」

「そうかしら? 私は普段通りだと思うけど」

「クヒヒ、アホんだらのニンゲンどもめ。覚悟するだよ……。アタシらの頑張りを無駄にしやがって。後悔させてやんべよ」



リタがキレると、背後に狐の幻影が妖しく揺らめく。

アシュリーがキレると、何故か訛る。

いつも通りじゃねぇか。


コロナで一泊しようと思ったけど、それは止めだ。

グランまで文字通り飛んでいくことにした。

交渉という名の粛清の為に。

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