第101話  見守る側も守られている

「まったく……キミも無茶するなぁ。ディストルにケンカ売るなんて」

「おっす、モコ。なんだか気分爽快なんだが」



いつの間にか例の乳白色の場所に呼び出されていた。

目の前には呆れきった顔のモコ。

ヤツは大げさな身振り手振りで続けた。



「あんだけ毒を吐けば気分もいいでしょ。その結果が『消し去るもの』との衝突だったけど」

「なんか行きがかり上仕方なかった。弁明終わり」

「もうちょっとだけ真面目に聞いてくれないかなぁ」



消し去るもの……ねぇ。

どうりで「不要」だの「余分」だの言うヤツだと思ったら、それを消し去る役目を負ってたようだな。

アイツの口癖、攻撃法が妙に納得がいく。

それにしても『生み出すもの』についても何となく察しがつくが、『定めるもの』ってなんだ?

一体何を定めればいいんだろう。



「あのさ、『定めるもの』って何すればいいんだ?」

「うーん、説明するのは簡単だけどね。教えない」

「あーそうかい。親切な振りして肝心な部分じゃ突き放すのな」

「そうじゃなくてね。これを聞いちゃうと役目が全うできないと思うから」

「なんだそれ。普通は知らないと役目を果たせないもんだろ」

「そうだけどね。これに限っては知らない方がいいんだ」



わけわからん。

所詮はネコか。

餌には媚びるがオレには媚びねえっつうのか。



「まぁ焦らないでよ。いずれ全てを知るようになるから」

「オレとしては今すぐ聞いてスッキリしたいんだが」

「諦めて、どんなに聞かれても答えないからね」



あ、世界が戻り始めた。

コイツ面倒になって締め出す気だな。

勝手に呼んだかと思えば、都合が悪くなったら追い出すってやりたい放題だな。



現実世界に戻ってくると、オレはベッドに寝かされているのが分かった。

天井の感じからして、どうやら自宅に帰ってきたらしい。

負傷により戦線離脱ってやつなのか。


ベッドから半身を起こすと、シルヴィアとミレイアの顔が見えた。

二人とも赤くなった目を大きく見開いている。



「おとさん! よかった! しんでない!」

「魔王様ァーー、ごめんなさいぃー! 私のせいでこんな事にぃーー!」



ゲフゥ。

2人の子供の容赦ない頭突きがオレの胸に刺さった。

オレ一応負傷者なんだけど。

そう声をかけようとしたが止めておいた。

どちらも大泣きモードだからだ。


オレの方こそすまんな。

自分の欲望に飲み込まれてしまったようだ。

普段あんな偉そうな事言っててこのザマだ。



「おとさん、おねがい……あぶないこと、もうしないで。シルヴィアから、もうはなれないで」

「ごめんなさい、あんなもの二度と用意しません。ですから早くお元気になってください」



親は子の事を常に心配してるが、それは子供も一緒だ。

見守る側に回るとその事を忘れちまうんだなぁ。

その結果これだけ泣かせちまうんだから、オレはダメな親父だよ。

泣き声を聞いたのか、リタがやってきた。



「アルフ、起きたのね。外傷も精神も問題ないから、すぐ目を醒ますって二人には話してたんだけど」

「そう言われても心配なもんは心配なんだろ」

「そういうものかもね。向こうの事なら皆が片付けてくれるらしいから、アルフは気にしないでって」

「それは助かるな。つうか外傷がないなんて……ほんとだ」



あの光が胸を貫いた事は今でもハッキリ覚えているが、傷どころか痕すらもなかった。

あの攻撃の原理が尚気になるな。

まぁ、あの頑固無口野郎が教えるとは思えんが。



夜になって、グレンが見舞いに来てくれた。

まずはお互いの無事を喜びあった。



「アルフさん、病床の身でこんなこと言うのはなんだけど。昨日のミレイアの事で」

「昨日っていうと、オレが寝てる間の話か」

「そうだね。で、ミレイアがまた夜中になると、ナイフに囁くようになってさ」

「おい、また『ニンゲンを皆殺しに』とか言ってんじゃないだろうな?」

「いいや、そんな事は一言も。『ミレイアと手を繋ぎたくなる』『ミレイアを抱っこしたくなる』『ミレイアとデートしたくて何も手につかない!』とか言ってたんだけど」

「すぐにやめさせろ」



反省したかと思ったら第二弾を製作中かよ!

しかも今度のは「巫女の祈り」から程遠い「洗脳」じゃねえか。

そんなナイフ、絶対に受け取らないからな?


相変わらずブレないミレイアを思うとため息がこぼれる。

それでも仲間からの『おかえり』が聞ける事や、オレを変わらずに受け入れてくれる事は素直に嬉しい。


オレの暴走を止めてくれたディストルにほんの少しだけ感謝した。

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