第100話 頂上決戦
出やがったな、ディストル。
いずれ決着を着けたいとは思ってたぞ、どっちが上かってな。
頂点に二人はいらない、太陽はひとつだけあればいい。
お前を殺すことでようやく思う通りの世界が生み出せるってもんだ。
ナイフに力を伝えると、返事をするかのように炎の色が一層深くなる。
まるで全てを塗りつぶす黒。
ヤツの光の繭などあっという間に捻り潰してやる。
ディストルと無言で向き合う。
顔見知りであるはずなのに、殺し合いに躊躇いはない。
あるのは獣染みた闘争心だけだ。
「魔王アルフレッド。その力に敬意を表し、全力で臨もう」
そう告げると、ディストルの体の周りには光の球体が現れた。
その4つの球体は人間の頭程の大きさがあり、互いに付かず離れず距離を保っている。
その光度というか、光の密集度が非常に高く、見ていて寒気がするほどだ。
あれに触れてはいけない……直感でそう思った。
考えていても勝つことはできない、先手必勝だ。
オレはナイフを振るい黒炎を打ち出した。
鉄でさえ溶かしてしまう常識外れの炎を、ディストルは避けることもなく、3つの球体を半球状に変えて炎を反らした。
残りの1つの光球がこちらに飛んできた。
かなりのスピードだが、苦もなく弾き返した。
そのオレを待ち受けていたように第2の光球。
後ろに飛んでかわすと、着地の瞬間に第3、4の光球。
回避が間に合わず、3番をナイフで、4番を魔力防壁で防いだ。
……この光はマズイ。
ナイフで弾いてるうちはいいが、それ以外で受けると魔力がガクンと削れる。
あと2、3発も食らえば突破されそうだ。
「観念するがいい。お前ではオレには勝てん」
クソが、調子に乗りやがって!
だが、相性がかなり悪いのも事実だ。
こっちが攻勢に出ると、防がれると同時に反撃を食らってしまう。
かといって防御に徹していると、4つの光球を延々と投げつけてくる。
攻防一体となったディストルを降すのは至難の技だ。
「私怨に囚われ、曇りきったその眼。なんという愚かさ」
「うるせえ! 娘の為の世直しだ、それの何が悪い!」
「違うな。世直しとやらを大義名分にして、己の欲望を満たしているにすぎん」
「人間がこれまで何をした? どれだけの命を、財を、世界を欲しいままにしたか! お前は知らねえってのか!」
オレの叫び声に歓喜したように炎は盛大に燃え上がった。
まるで地獄の火焔のような凶々しさをたたえ、行き場のない火勢が暴れ始める。
もう御託を並べるのはたくさんだ。
一気に燃やし尽くしてやる!
「唸れ 黒龍!」
黒く煌々と輝く一体の飛龍がディストルに向かって一直線に飛びかかった。
ありったけの魔力をつぎ込んだ特別な魔法弾だ。
これを食らって無事で済むはずがない。
想定通りディストルは龍に飲み込まれた。
防御行動の一切を許さない、超高速の遠隔攻撃だ。
このまま骨まで燃え尽きてしまえ!
「やはりな。その想いは用を成さぬ。不要極まるものだ」
「な! オレのフルパワーを……!」
何事も無かったように立っている。
四方を光球に守られながら。
そこまでの強度が、防御力があったとは。
防御を解除したディストルは4つとも光球を飛ばしてきた。
ふ、防がなきゃ!
魔力が底を尽きかけているオレは、その速さに対応できなかった。
そしてナイフは根本から折れ、黒炎は吹き消えた。
そしてオレの胸は光に貫かれた。
なんの障害もなく真っ直ぐに。
最期ってのはあっけないと耳にするが、今がまさにそんな想いだった。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
オレは人間どもを。
人間どもを……。
ん、どうするんだっけ?
一体何をそんなに怒ってたんだろう?
気持ちの整理がつかないまま、世界は暗くなり、オレは意識を手放した。
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