第74話  子どもの世界

「・・・という事が昨晩あったんだが、何かわかる事はあるか?」

「人やモノを消失させる魔法、よね?そんなのあったかしら?」

「それっていわゆるユニーク魔法ってヤツじゃないです?私のと同じで。」

「そういやアシュリーの魔法もオレたちは使えないんだよな。魔力や技術に関係なく、その人にしか使えないっていう。」

「そうね、警戒する意味でもユニーク魔法と考えた方が現実的かしら。」



朝食後に大人メンバーだけ食堂に残ってもらって、昨晩の出来事のすり合わせをしている。

オレの乏しい魔法知識では理解ができなかったあの光景。

魔法に詳しい人物ならと期待したのだが、それは空振りに終わった。



「ともかく結論は昨日と同様だな。あの男に関わらない、刺激しない、敵対しない、だ。」

「わかったわ、極力争いを避けましょう。」



大した進展も見せなかった首脳会議が終わった。

子供たちを宿の入口に待たせていたので、そこへ向かった。

しばらく廊下を歩いていると、入口付近が妙に騒がしい事に気づいた。

少し嫌な予感がして小走りに向かう。


ドアを開けると、子供がケンカをしていた。

シルヴィアと・・・知らない男の子だ。

ミレイアとグレンは慌てるだけで、うまく止める事ができていない。

お互いの顔をひっぱり、頭を叩き、頬をひっかき、文字通り子供のケンカなんだが、放置するわけにはいかない。



「シルヴィア、やめるんだ。その子から離れなさい。」

「おとさん、はなして!この子はヤなやつ!」

「レオン、何をしている。乱暴はやめろと言ってるだろう。」

「父ちゃん、離してくれ!こんなナマイキなガキはこらしめてやるんだ!」



あーよかった、向こうからも保護者が来たらしい。

ともかく、子供同士のこととはいえ、親は親だ。

キチンと謝るところを見せて、子供の指標とならなくては。



「すまない、うちの娘が手を出してしまって。本来は大人しい子なんだが・・・。」

「いや、こちらこそ。女の子に乱暴するなんて許される事じゃない。顔なんか怪我してないだろうか?」



・・・あ!

この男、昨日のヤツじゃないか!

向こうは面識がある事に気付いてない・・・のか?



「おとさん、シルヴィはわるくないの!この子がシルヴィをウソツキっていうの!」

「ウソツキだろー、こんなヤツが魔王なワケないだろ!魔王はウチの父ちゃんだけなんだぞ!」

「そんなことないもん!みんなおとさんにマオーサマっていってるもん!」

「バーカバーカ!そんな訳あるかよウソツキぃー、ウソツキ犬女ー!」

「もう!ゆるさないんだから!!」



またケンカをはじめてしまう二人。

近くに居させるのはマズイ、収拾がつかなくなる。

文字通り引き剥がすようにして第2ラウンドを止めさせた。



「レオン、お前は静かにしてろ。」

「父ちゃん!こいつらの肩を持つのかよ!」

「静かに。」

「・・・んだよ。わかったよ。」

「重ね重ね、すまない。」

「いや、気にしないでくれ。うちの娘も手を出してる訳だし。」



なんだ、意外と口が回るじゃないか。

昼の時の生気の無さや、真夜中の残忍さのようなものは感じられない。

本当に同一人物なのかと疑ってしまうほどだ。



「私はディストル、この子はレオンという、ゴルディナの近くに住む者だ。そちらの名前を教えてもらえるか?」

「オレはアルフレッド、この子はシルヴィアだ。豊穣の森から来た。」

「ひょっとして豊穣の森の魔王?」

「まぁ、そう呼ぶヤツもいるな。」

「そうか、あなたがその人物か。・・・道理で手の震えが。」



そう言ってディストルが掲げた手は小刻みに震えていた。

顔も言われてみれば青褪めているし、これが演技とは思えないが。



「私はそれなりに強いという自負があったが、あなたを前にすると恐怖しか感じない。こんな経験は初めてだ。」

「正直、オレもアンタを見ててそう思うよ。おっかないヤツが居るもんだと。」

「は、ははは。お互いに危機感を抱き合う相手か。決して敵対はしたくないものだ。」

「そうだな。まぁお互い離れて住んでる訳だから、ぶつかる事なんてないと思うぞ。」



なんだ、意外と話せるヤツじゃないか。

か弱い者を庇護しているというのも好感度高い。

これが無味感動な殺戮マシーンとかだったら相当厄介だが、その心配は無さそうだ。

相変わらず表情は乏しいが、態度に父親らしき気配が滲み出ている。

それだけで感情を推し量るには十分か。


別れ際、子供達にも仲直りさせようと試みたが、見事に失敗した。

オレとディストルは苦笑いを交差させてから、その場で別れた。



それからは港の方へ足を向けて、船をひとしきり眺めた後砂浜に出た。

最初はむくれっ面だったシルヴィアも、目新しいものに接しているうちに機嫌が直っていった。

そしていつぞやのように、砂浜で山だの壁だの作る遊びに没頭していく。


その間、アシュリーとエレナは「水着が無いなら下着になればいいじゃない!」とほざきだし、服を脱ごうとした。

それを亜音速の動きで阻止するオレ。

チラリとリタに目をやると、涼しげな微笑みでオレを見るばかり。

リタは何もせずに、減点をされない事で自分の評価を上げていた。

いや、この二人が勝手に自爆して下がっているだけか。


もしかして、オレも少しはこの二人の悪ノリに乗った方がいいのか?

そうすればリタも同じように自爆するようになるのでは?

とうとうそんな本末転倒気味な考えを抱くようになってしまった。

それが却って、我が家の正妻レースをより混迷なものにする悪手だと、この時は気づかないのだった。

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