第58話 痛い中身
「ほっほっほ、ほんにシルビィちゃんは可愛ええのぅ。素晴らしいのぅ。」
突然現れた爺さんに、誰も彼もが反応できない。
紛れ込んだというよりは、本当に突然現れた形だった。
「ほれほれ、そんなところに居らんでこっちに来なさい。」
「!・・・イヤッ!」
シルヴィアが直ぐ様オレの後ろに隠れた。
咄嗟にオレとエレナで正面を塞ぐように、爺さんと相対する。
グレンとミレイアもオレの背後に隠し、両側をリタとアシュリーが固めた。
外敵に対する即席の陣だ。
「なんじゃあ貴様ら。気を利かせてどこぞへ去ね!この愚図どもが!」
「てめえこそ何をゴチャゴチャと。ぶっ飛ばされんうちに消えろ。」
「なっ?!これじゃから余所者のガイジンは嫌いなんじゃ!ワシを誰だと思っておる!」
唾を飛ばしながら怒鳴る爺。
なんでこんなに偉そうなんだよ、さすがにイラついてきたぞ。
「聞いて驚け?ワシは偉大なる神が一人、灯籠の神じゃ。さぁひれ伏せい!」
もちろんそれで這いつくばるようなアホはここにいない。
あからさまな舌打ちで爺が応えた。
「不信心者めが。ワシはその純真な心を持った娘が気に入ったのじゃ。わかったらさっさと娘を寄越せ、ワシの嫁にする。」
「あ?随分と冗談が下手だな。本気で言ってんならただじゃ済まさねえぞ?」
「だまらっしゃい!本来であれば、目をかけていただいてありがとうございます、と泣きながら喜ぶ所じゃぞ!末代までの誉れと感謝する場面じゃぞ!神の寵愛を受けるのじゃ、光栄であろうが!」
クソ話通じねぇジジイだ。
これそろそろ暴力に訴えてもいいんじゃないか?
「これは最後の警告だ、なにも言わずにここから消えろクソジジイ。」
「クソジジイじゃと?!貴様らは神の恐ろしさを知らんな?食らうがいい、悔やむがいい!神の怒りに触れたことを!!」
そう言い放ったかと思うと、魔法のようなものを放ってきた。
精神魔法の一種だろうか。
あまりの魔力の弱さに別の意図があるかと疑ったが、そんなこともなかった。
「灯籠は闇を照らす文明の灯り。灯籠なくば一寸先は闇そのもの。我が術で無明の世界に落ちるが」
「おい、今のは何の真似だ?」
「な、なんじゃと?!なぜワシの術が効かんのじゃ!」
なんでって、あんな弱い魔法にかかるほうが難しいだろ。
オレはもちろん、メンバーの中で比較的魔力の弱いエレナですら平気だぞ?
ちなみに子供達はオレの魔防壁で守った。
こんだけ悪態ついて弱いとか、落とし前はどうするつもりなんだか。
ジジイの魔法に反応したのか、外が妙に騒がしくなった。
廊下を盛大に駆ける音。
それはこの部屋の前で止まった。
ダダダダダッ!
ガラァッ!
現れたのは鎧を着込んだ、小さなジジイだった。
また新しいのがウロチョロと・・・一体なんのつもりだ。
進展しない面倒事を前に、オレらの不満も溜まる一方だ。
「灯籠の神よ、一体何事か!」
「おう鎧の神よ、ちと難儀じゃ手を貸せ。」
「・・・客人と揉めておるのか?」
「こやつらは神に弓引く愚か者じゃ、神を敬うことを知らぬ野蛮人じゃ!ゴミグズじゃ!あの幼子以外を皆殺しにするぞ!」
プチン。
あーもうダメ、我慢の限界。
オレ結構我慢したよな?
さっき攻撃されたしな?
コイツはオレらを殺す気でやったんだよな?
じゃあ勿論、殺される覚悟もしてるよな!
オレは魔力を全力で解放した。
右手に宿した魔力が禍々しい色を帯び始める。
行き場のない暴力的な魔力の渦が、辺りに不穏な風を生み出す。
そして、見とれんのは後にしろリタこの野郎。
「な、なんじゃ!なんじゃその力は!本当に人間か!」
「きゃ、客人。今しばらく、しばらく待て!この通りだ!」
あっさり白旗を上げた鎧のジジイ。
流れるような動きでの土下座スタイル。
今さら引き返せると思うか?
その鎧は張りぼてか?
その刀は泥を付けるためにあんのか?
ネチネチ煽ったんだが、頭を上げる気配はない。
どうにか怒りを沈めてくれ、の一点張りだ。
チッ。
釈然としねえが仕方ねぇ。
鎧の方はマトモかもしれねぇしな。
オレ達は今までの経緯を話した。
「・・・客人よ。面目ない、非はすべてこちらにある。」
「鎧の、裏切る気か!妻に先立たれたワシの嫁探しじゃろうが!」
「なぁにが先立たれただ。女癖の悪さに逃げられただけであろうが!」
「ばっバカモン!そこは口を合わせんか!」
愚にもつかない戯れ言を喚く自称・偉大な神。
「痛い中身」とでも次からは名乗れよ。
「わ、ワシは諦めんぞ!シルビィちゃんを膝に乗っけてギューッてするんじゃ!夜は一緒に添い寝するんじゃ!そしてピーーーやらピーーーったらピーーーー!!!」
プチン
プチン
プチン
ブチン!!!
四人が一斉に動いた。
神速、稲光、亜音速、どんな言葉を並べても足らないほどのスピード。
皆がみな、最速で繰り出せる攻撃を放った。
「てめぇ今死んだぞコラァ!」
「サイテーですよ最っ低!いたいけな子相手に何考えてんですか!」
「か弱きものを守るべき力を、己の欲望のために振るうとは恥を知れ!」
「これは幾らなんでも、酷いわよねぇ。こんなのが神だなんて、この国も落ちたものね。」
殺すつもりで攻撃したが、気絶するだけで死ぬ気配がない。
鎧の神が言うには、神を殺すには一定条件を満たさないといけないらしい。
殺せないならと、エレナのもっていた縄でひとまず拘束することにした。
エレナはなぜ縄なんか・・・いや何でもないです。
このゲスに対して早急に対応しなくてはならなくなった。
休暇で来た宿でこんな目に合うとは・・・この文句は宿の女将にでも言えば良いのだろうか。
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