第57話  外国人観光客

ヤポーネに着いた頃にはすっかり陽が暮れていた。

夜にもかかわらず、街は明るく活気に溢れていて、つい時間感覚を忘れてしまいそうになる。

通りは商店や露天がひしめき合っており、人族も亜人も魔獣までもが入り乱れている。



「へぇ、随分賑わってるし、明るいんだな。オレンジ色の明かりが落ち着くぞ。」

「あ、これ確か魔道具なんですよ。橙色の灯りの。名前は確かトー、トー・・・」

「トォーー?」

「トーーフ!トーフですよ確か!」

「へぇー、変な名前。」

「ここは独特な文化があるんですよ。あの人が着てる服なんかユタカっていうんですよ。」

「一枚布を巻くもののようだが・・・、それがユタカとは不思議な響きだな。」

「豊作祈願でもかかってるんじゃないです?ユタカ、すなわち豊かと。」

「はぇえ~。」



みんな納得してるけど、これ大丈夫か?

道行く現地人が半笑いになってるぞ。

オレらは今、勘違い外国人になってないか?

「ツアーガイド」は気を良くしたのか舌が滑らかだ。



「この国には500万だか600万だかの数の神様がいるらしいですよー。」

「え、居すぎ!名前覚えられないよ。」

「その辺の色んなものに神様が宿ってるとか言ってましたもん。」

「その辺のって、また随分と雑な話だな。」



それを聞いたシルヴィアが、トーフと呼ばれる灯りの元に歩いていった。



「カミサマはじめまして、シルビィだよ!」



トーフの灯りよりも遥かに眩い笑顔での挨拶だ。

神様が居るならノックアウトだろう。

居るならな。



「おおぅい、灯籠の灯り換えとくれ!」

「はぁい、旦那様!」



そんな声が聞こえると、店から出てきた少年がトーフの灯りを換えた。

いま「トウロウ」って言わなかったか?



「あら、その浴衣綺麗ねぇ。高かったんじゃない?」

「そうなの!父様にねだって買ってもらったのよー?」



今度は街行く若い女だ。

確か「ユカタ」って言ったよな?



オレらはさっきまでしたり顔だったアシュリーを見た。

羽で身体を包み込むようにして覆い、両手で真っ赤になった顔を塞いでいる。

オレはアシュリーの耳元で、甘く甘く囁いた。



「ユタカ、すなわち豊かかと・・・。」

「やめてぇー!忘れてぇー私を見ないでぇー!!」



見ないでったって、今この界隈で一番目だってるからな?

弄る度に光輝くこいつは見てて飽きん。



大火傷を負ったアシュリーをそこそこに弄りながら、宿に着いた。

シンデン建築っていう、建物内に大きな庭がある、独特な造りをしていた。

その庭も、灯りや水場が整然と設置されていて、見るものの目を楽しませてくれる。



部屋に着くと、それぞれ荷物を置いた。

食事の前に風呂に入ろう、という話になった。



「じゃあとりあえず風呂いくかー。」

「アルフさん、着替えはこれみたいだよ?持っていこうよ。」

「はぁ、森の賢人たる私は今まで何を学んできたと・・・」

「アシュリー?せっかくの旅行なんだから、楽しみましょう?」

「シルビィお風呂だいすきー!広いといいなぁ!」


「そうじゃのう、シルビィちゃん。ワシと一緒にゆーっくり入ろうぞ。」





・・・え、誰?



気がつくと部屋には見知らぬ爺さんがいた。

プカプカと宙に浮いた、ちっさい爺さんが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る