第56話  みんな大好き 水着回だよ!※挿絵ナシ

ザザァーーン・・・

ザザァーーーーン・・・


うーん、海はいいよなぁ。

潮の香りや波の音が、まるで魂を包み込むように癒してくれる。


オレたちは今海に来ている。

目的地は海の向こうにある群島のヤポーネに用がある訳だが、せっかくの海という事で時間を作って遊ぶ事になった。



それにしても、女ってのは水着ひとつでなぜあんなに真剣になれるのか。

水着って泳ぐためのもんだろ?

値段と機能性だけ見ればいいだろ?

オレがそう言うとアシュリーが、ハンッと鼻で笑った。

あなたは水着の何もわかってない。

水着の素晴らしさを思い知るが良い、とか言ってたが・・・嫌な予感しかしない。



「アルフぅ、お待たせぇー。」



予感をど真ん中ストライクで的中させるような、甘ったるい声が聞こえる。

今ここで振り向くのめっちゃ怖い。

もし振り向かなかったとしたら、「着替えてる」アイツらと「着替えていない」アイツらの平行世界がどうたらこうたら。

そんな思索を無視するように、三人が目の前に回り込んできた。



「どうですどうです、この水着は!男の本能を一直線でしょ?でしょ?」



アシュリー、お前は「布面積」って言葉を10回シャウトしてから出直してこい。

オレが警備隊だったら真っ先に逮捕してるっつの。

お前は何を目指してんだ、森の痴女様かオウ?



「アルフ・・・この水着はどうだろう?」



どうだろうって・・・、鎧だな。

お前はそんなもん何処で買ってくんだよ?

浮きもしない水着なんておかしいと思わねえのか?

え、鋼鉄製だしオーダーメイドだって?

ポイントはそこじゃねえよバーカバーカ!



「んーーー二人の水着に比べたら、私のはずいぶん地味ねぇ。」



リタはほんとなんっつうか・・・こういうとき絶対外さないよな。

無難で程よい露出に、絶妙に整った体型に、出過ぎない立ち振る舞いに。

お前ら二人しっかりしろよ、リタの一強独走状態じゃねえか!

もう少し接戦の状態にしないと、何かきっかけでフラグ立っちまうじゃねえか!

ホラホラほんと頑張ってホラ。


着替え終わったオレたちは砂浜へと向かう。

キメ細かい砂と、太陽を反射する透き通った蒼い波に、皆が心を踊らせた。



「ミレイアちゃん、グレンお兄ちゃん、シルヴィアと一緒に砂山を作るの。」

「砂山かぁ、トンネルも掘ろうよ。」

「では私は悪意を撃退する門壁を作りますので、兄様は邪を祓う兵舎や練兵場、シルヴィアちゃんは煌びやかな宮殿を作ってください。」

「なんだか剣呑だなぁ、穴を掘って潮溜まりを作るくらいにしようよ。」



よし、子供達はいつも通りだな。

波を呼び込む水路やら砂山やらを作るのに、早くも夢中になっている。

じゃあオレは波に浮かんでノンビリと・・・



「アルフぅー、オイル塗ってくださるぅー?」



過ごせなかった。

呼ばれてみればそこには、半裸に近い女と、鎧を着込んだような女と、ごく普通の女がいた。

なんかすごい絵面だな、特に真ん中がヤバイ。

オレは日焼けオイルの入った小瓶を渡された。



「お願いしますねぇ、ちゃんとまんべんなく塗ってくださいよ?まんべんなく・・・ねぇ?」



今日のアシュリーは普段の倍ムカつくな。

食用油塗りたくってヤキトリにしてやろうか。



「まんべんなくったって、オレは」

「あーー!今まんべんなくって言葉に反応しましたね?しましたよね?ちょっとー、どこ触っちゃう気なんですかーぁ?ほんとムッツリさんなんだから。でも私は平気です。男のそういうところ理解できちゃうんです。よかったですねーこのヌルヌルセクハラ閣下!」

「おう、塗ってやるからツラ出せオラ。」



オレはオイルをアシュリーの顔に塗りたくってやった。

やめてぇーー顔はいいのーーこれくっさいくっさいのーーなんて言ってるが無視だ無視。



「アルフ、わ・・・私にも塗ってもらえないか?」

「いや、塗ってくれってお前。」



塗ること腕と足くらいしかないだろ。

それだったら自分で塗れるじゃん。

しまったって顔を今更するなよ。

後悔するならもっと手前の段階にだろうが。



「アルフー、私にもお願いね。」



うん、これまた普通のシチュエーションだ。

背中の紐を外して、塗ってくれアピールってやつ。

ここでオレがリタに塗るのはきっとマズイ。

妙なフラグを前にして、脳内に緊急信号が鳴響く。



「よし、アシュリー塗ってやれ。」

「イエス、ボス!」

「あらぁ・・・この展開は想定外ねぇ。」



なんとかリタの猛攻を凌いだ。

何かにつけ接近しようとするリタおっかねえ。

他の二人はアホだから撃退も楽だけど、コイツはやっぱり別格だな。

マジで警戒しとかねえと。



オレは多数の声を無視して、波にプカプカ浮かぶことにした。

海に来たなら波を肌で感じてこそだ。

身体を焼くためだけに日光浴なんて性にあわん。

今日は海が穏やかなようで、大きな波はほとんど来ない。

ただただ優しいうねりが身体を撫でていくだけだった。



子供たちの方に目をやると、随分と立派な建築物ができている。

子供ってのはほんと真剣に遊ぶよなぁ。

脇目も降らずってのはああいう事を言うんだろう。



「おとさん見て見てー!お山ができたのー!」



呼ばれたとあっては行かねばならん。

娘の芸術作品をじっくり堪能させてもらおう。



予想以上にしっかり作られていた。

砂山にはトンネルが作られており、その周りには護るように厚い壁がある。

その壁は一部だけ水路のような通り道があって、大きめの波が来ると海水がトンネルまで届く。

トンネルを抜けるとその先にある穴に水が溜まるという仕組みだ。



「おお、随分と立派なものを作ったじゃないか。」



オレがそう褒めるとシルヴィアやミレイアはもちろん、グレンも嬉しそうに顔を綻ばせた。

なんかグレンの子供らしい表情って初めてみるような・・・?



あっという間に時間は過ぎて、船の時間が近づいてきた。

オレ達は着替えもそこそこに、本日最後の船便に乗り込んだ。

これから異国情緒溢れる街に行くとあって、みんな期待満面だ。



行きの船で船酔いに倒れたヤツが居た。

アシュリーだ。

船の独特な上下運動が辛かったらしい。

飛んで並走すればいいんじゃ?と誰かがつっこむと、アシュリーはあっ・・・という顔になった。


こいつは本当に森の賢人なんだろうか?

森の変人なら納得がいくんだが。

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