第51話  死別

オレはモコを肩に抱えて、シルヴィアと手を繋ぎながら、また暗い洞窟を進んでいった。

鉱石の明かりが十分なほど視界を保ってくれている。

照明なしでこの迷路を進むのは自殺行為だからな。



  アルフ、止まって。右の窪みに身を隠して・・・30数えたら元の道に戻ってね。



モコが合図を出してくれるおかげで、追っ手に見つからずに済んでいる。

二人を探すのに随分と多い人数が来ているらしい。

よっぽど一連の騒動が大事になってるんだろう。

追っ手を洞窟に引きつけておけば逃げやすくなるな。

ここを脱出できれば、外は意外と安全かもしれない。



  言っておくけど、僕が力を貸せるのは洞窟の中までだからね。外に出たら力が思うように使えないんだ。



え、なにそれ聞いてない。

外に出たらお前は当てにならないって事?



  うーーん、完全にってほどじゃないけど。ものすごーーく制約が細かいから説明がめんどう・・・いや難しいからさ。洞窟から出たら僕の事はただの可愛い猫ちゃんだと考えてね。



色々とつっこみたいが、今はそれどころじゃない。

グッと口をつぐんだ。

今後はオレらの運だのカンだので乗り切るしかないようだ。

まぁそれらは出てからの話だ、今はここをしっかり抜けないと。



それからというもの、モコの誘導のおかげか、危なげなく洞窟を脱出できた。

洞窟内に反響する声や足音には肝を冷やしたが、接敵することは一度としてなかった。

外に出ると陽が傾きかけていて、夕暮れまでそれほど待たない頃合いだ。

洞窟から離れたら、暗くなるまで動くのは避けたほうがいいかもしれないな。

昼間は身を隠して、森や山道を夜に移動。

そうやって、最終的には国境を越えるしかない。



  あーーー力が抜けていくよ。ほんとゴメンなんだけど、あとはどうにか・・・。



もの凄く間抜けな声で丸投げされた。

確かに洞窟を抜けたのは大きいけど、こっからの方が長いんだからな?

とりあえず街とは反対の方に歩を進めよう。



そんな事を考えていると、突然背中に衝撃が走った。

勢い余って吹っ飛ばされて木に激突した。

背中が、肩が熱い!

肩からは盛大に血が流れていてパックリと割れている。

一体なにが!

今何をされたんだ!?




「こんなところに居たか、ゴミ屑野郎が。あの失態の数々・・・死ぬ覚悟は当然あるんだろうな。」

「ちょっとちょっと、散々拷問するって話だったじゃないですが!なにいきなり致命傷くれてやってんですか!」

「フン、あの阿呆面を見たら我慢などできん。当然であろう。」

「ハァーー、いっっつもこうなんだから。」

「それよりもその獣女を離すなよ、侯爵様から陛下に取り成してもらうのに必要な道具だ。」

「わかってますってば。なんとか陛下にお許しいただく為の商品なんですからね。」



こ、こいつら・・・いつの間に。

視界が揺れて体に力が入らない。

切れちゃいけない糸のようなものが斬られた感覚がする。

動こうにも声ひとつあげられない。



シルヴィアは魔術師の男に捕まってしまっている。

今すぐ助けてやらないと。

その子はお前なんかが触れていい子じゃないんだぞ。

モコはオレと一緒に斬撃をもらってしまったのか、深手を負っているようだ。

こっちも早く助けないといけないのに、動けるやつがいない。

クソッ、万事休す・・・か?



「ゥヤーーヤン! ゥヤーーーヤン!!」

「ったく煩いガキだ。とっとと終わらせるのである。」

「ハァーーー、僕まだ何もやれてませんよ?せめてトドメはもらいますからね!」



ブォオン!!



魔術師の体が光ったかと思うと、オレとモコは吹き飛ばされた。

まるで風の斬撃のようなものに斬られながら、遠くまで飛ばされて・・・



地面がない!

崖の方に飛ばされたのか?

このまま落ちたら流石にマズイ。

かといって何かできるわけじゃない。

死なずにいられることを祈る事しか。



モコと一緒になって落ちていく。

お互いに少なくない量の血を流しながら。

声ひとつ出さないモコの体が気になってしまう。

お前は大丈夫なのか、聞きたかったが声は出ない。



最後に目に映った光景は、シルヴィアが泣き叫びながらオレを呼ぶ光景だ。

なんとか逃げてくれ・・・というのは無理だろう。

オレが助けに行かないと。

怖い思いをさせてすまない。

体が動くようになれば、すぐ助けに行くからな。




体が動くようになれば。




オレは最後に ドチャリ という音を聞いた。

その瞬間に、世界から音が消えた。

____________________________________________________




どこか知らない家に連れてこられた。

おっきな声を出して、背中をけられて、わたしはまた固いオリの中に閉じこめられた。

すっごくいやな目をしたふたり。

この目をわたしは知っている。

いままで何回も見てきた すごくいやな目。



こいつらは 悪いやつ。

おとさんをいじめた 悪いやつ!

あんなに痛そうにしてた。

血もたくさん出てた。


はやく助けにいかないと。

オリがじゃまで外に出られない。

出して!

ここから出して!



「あけてよ!ここから出してよ!おとさんがしんじゃうの!!」

「・・・・!・・・!・・・・・・!!」



ガシャンとオリごしに けられた。

手がはさまって すごく痛い。

でもでも!おとさんの方がずっと痛い!

今も痛い痛いって ないてるはず!



「あけてったら!おとさんを助けにいくのーー!!」

「・・!・・・・・・・・・・・・!!」



ブワッとツエをもった方が光って わたしにいやな感じのする光をぶつけた。

その光にあたったら まぶたが重くなっていって ねちゃいそうになる。

ダメ・・・ねちゃったらダメ・・・。

ねちゃったら・・・。



起きてることが できなくて。

このまま ねちゃいけないのに。 

でも 起きてることが できなくて。





おとさん

おとさん

ごめんなさい

わたしは わるい子


助けにいけなくて ごめんなさい

つかまっちゃって ごめんなさい


おとさん どうか

死なないで


おとさん どうか

わたしを きらいにならないで 




わたしのことを



一人にしないで

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